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哲学を必要とする時代に

哲学者・國分功一郎さんによる「哲学のない時代は不幸だが、哲学を必要とする時代はもっと不幸だ」というタイトルの記事が、3年くらい前に話題になりました。


彼は、"哲学が必要ないのは平和な時代であって、逆に哲学が必要とされる時代は問題や不安に溢れていて不幸である" と唱えています。

<以下引用>
僕自身は「哲学は真理を扱う」という命題は半分正しいけれども、半分間違っていると思っています。というのも、哲学は漠然と真理を考えているわけではないからです。
「人間とは何か」とか「時間とは何か」とか、哲学は漠然とそんなことを考えているんじゃないんです。
哲学は常に問題を考えているんです。突きつけられた問題に応答しようとしている。 

昨年には、こんな記事が話題になりました。

哲学は、昨今のビジネスの世界でもっとも熱い分野の一つです。
Chief Philosophy Officerという役職も、2018年ごろにすでに着目されています。


今回は「なぜ哲学がこれからの時代に必要なのか」という問いへの僕なりの回答をしようと思います。

先に結論から言うと、年始に書いた記事「自分の心に従って生きるということ」でも触れましたが、僕はその理由は「科学の進歩により社会の根本的構造や関係性が圧倒的なスピードで変わり続けているため、人類の前提条件=哲学のアップデートが追い付かないから」だと考えています。

一つのテクノロジー、例えばインターネットが社会に実装されることによって、世界の在り方は例えばこんな風に変わりました。

①いつでもどこにいても人々が繋がれるようになり、どれだけ離れていても、時間差があっても、何人相手でもコミュニケーションが取れるようにな
ったことで、「人と人が一緒にいること」や「出会いと別れ」の意味が根本的に変化した。

②莫大な量のクラウド上の情報に無償でアクセスできるようになったことで、知識を溜めることの価値が下がり、逆に情報を検索したり組み立てたりする能力の価値が高まった。

③皆が一緒にTVを見る時代が終わり、ターゲットに合わせた情報が多種多様なメディアで提供されるようになったことで、「みんなが知っている共通の話題」や、「みんなが好きなコンテンツ」が無くなった。

④グローバリゼーションが進み、閉じられたコミュニティにとどまることは困難になり、競争も、協力も、地球規模で行われるようになった。

まだまだあげればキリがないですが、具体的な事例はここではあまり重要じゃないので、このあたりで止めておきます。

これらの変化は、確実に社会の在り方を変えました。
僕らが世界に向き合うときの価値軸を変えました。

世界には先に真理が存在していて、その真理に従って具体的な事象が発生するという訳ではないと僕は考えています。真理は常に環境によって規定されます。ちょうど、「理解するということは、相対化することである」と僕の尊敬する山口揚平さんが説明してくれたのに似ています。

同様に、例えば僕らの人生においても、価値軸や生きる指針みたいなものが先にあって、それの通りに行動するわけではありません。
僕らは、環境(主に他者との関係性)に合わせて、価値軸や生きる指針を常に変えていく必要があります。それがうまく行かないと、現実の世界とうまく折り合いを付けられなくなります。

これから先の世界はどんどん複雑になり、そもそも僕らが正しく実態を理解することはますます困難になっていきます。例えば、科学の結晶ともいえる金融工学は、複雑すぎて人間にはもう制御できません。

同時に、世界が変化していくスピードもどんどん早くなり、僕らが価値軸や生きる指針を適応させていくことが難しくなります。

これからも、AI・VR・自動運転といった新しい技術が、僕らに変化を迫ってきます。

AIは、「人間が考えること」の意味を変えるでしょう。
VRは、「人と人が会うこと」の定義を変えるでしょう。
自動運転は、「責任の定義」を変えるでしょう。

そして、今人類が直面している未曽有の危機が、さらなる変化を迫ってきます。例えば「距離が近いことではなく、距離が遠いことが親密さを表すようになる」ように、すでに身体的感覚として染み込んでいることを捨てなければならないのが、分かり易い変化です。


これらの変化を乗り越えるために必要なのが、哲学なんだと思います。
”表層の奥にあるはずの本質”に向かって、「それってそもそもどういうこと?」「なんでそうなってるの?」と、ひたすらに深堀りして、その本質を分かり易い言葉で伝えること。それこそが、哲学に求められていることだと思います。

"哲学が必要ないのは平和な時代であって、逆に哲学が必要とされる時代は問題や不安に溢れていて不幸である"

この言葉は、半分合っていて、半分間違っていると考えています。

確かに不幸だが、哲学がそれを乗り越えることで、次の世界に進むことができる。

そう信じて生きて行こうと思います。


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