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人物試験におけるジレンマ(3)【面接段階が多くなると優秀人材を落としてしまうかも…】

「人物試験におけるジレンマ」を中心テーマにとりあげて、考察してきましたが、今回はその3回目になります。
前回(人物試験におけるジレンマ(その2))は、「数値モデル」を使って、試験官の人数を増やせば、評価誤差確率が単純に減っていく訳ではないことを示しました。
これにより、効率性の観点から言えば試験官3人で行う方が、コストの割に高い成果が得られることがわかりました。
今回は、「人物試験の段階数(面接回数)」と「評価誤差」の関係について、「数値モデル」を使って考えていきたいと思います。(Mr.モグ)

人物試験における数値モデルの検討

前回と同様に、次のような「数値モデル」を用いて検討していきます。

「数値モデル」の前提
人物試験において、試験官は独立して評価するが、その際、評価を見誤ってしまう確率を「評価誤差確率(=p)」とし、p=1/10(=0.1)として分析する。
(すなわち、「採用すべき受験者」を「採用すべきでない(無能な)受験者」と見誤ったり、「採用すべきでない受験者」を「採用すべき受験者」と見誤ってしまう確率(評価誤差確率」p=1/10)は、受験者10人に1人を「見誤ってしまう」とするものです。)

人物試験の段階(ステップ)数と評価誤差の関係(各段階でパスした者を採用する場合)

人物試験においては、何回も面接が行われ、それぞれの段階(ステップ)をパスした者が最後に残るタイプの選抜が行われる場合があります。

例えば、最初の面接でパスした者のみが次の面接に進み、そこでもパスした者のみが最終面接に進み、そこでパスした者が採用されるというものです。各段階での人物試験は、(受験者一人を)試験官一人で評価することとします。

すなわち、採用過程において、段階(ステップ)別に人物試験を行い各段階での試験官の評価が一定水準に達していると判断された者しか、次の段階に進めないというケースを検討していきます。

具体的には、
①「採用すべきでない(無能な)受験者」を有能と見誤って採用する確率と、
②「採用すべき(有能な)受験者」が無能と見誤って不採用とする確率
について、前述の「評価モデル」を用いて分析していきます。

○人物試験が1段階のみの場合(試験官が1人のケース)
人物試験は1段階で終了するため、(採用の最終判断は)試験官1人の評価で決まることになります。
この場合、①「採用すべきでない(無能な)受験者を、有能と見誤って採用する確率」は、(モデルの前提条件※により)1/10(=0.1)となります。

※この分析では、試験官の主観によるバイアスなどにより評価を見誤ってしまう確率を「評価誤差確率(p)」とした上で、モデルの前提条件として「評価誤差確率(p)」p=1/10(=0.1) と仮定しています。


一方、「採用すべき(有能な)受験者」を有能と「正しく評価」する確率は、1ーp(=1ー0.1)=9/10(=0.9)となることから、②「採用すべき(有能な)受験者を見誤って「不採用」とする確率」は、1ー0.9 =0.1ということになるわけです。


○人物試験が2段階の場合(試験官が2人のケース)

人物試験は2段階で終了するため、1人目の試験官が「有能」と判断した者のみが、次の段階に進み、そこで2人目の試験官が「有能」と判断したもののみが採用されることになります。

この場合、①「採用すべきでない(無能な)受験者を、有能と見誤って採用する確率」については、2人の試験官がともに「有能」と見誤った場合のみ、採用となるので、その確率(評価誤差確率)は、1/10×1/10=0.01となります。
一方、「採用すべき(有能な)受験者」を2人の試験官がともに「有能」と「正しく評価」する確率は、9/10×9/10=0.81となることから、②「採用すべき(有能な)受験者を見誤って「不採用」とする確率」は、1ー0.81=0.19となります。

この結果は、人物試験の段階(ステップ)数が1段階から2段階に増えると(試験官が1人から2人に増えて)、
①「採用すべきでない(無能な)受験者」を「有能」と見誤って採用する確率」は、0.1→0.01へと大きく減少する一方で、
②「採用すべき(有能な)受験者を見誤って「不採用」とする確率」は、0.1→0.19に増加することがわかります。

○人物試験が3段階の場合(試験官が3人のケース)
人物試験は3段階で終了するため、1人目の試験官が「有能」と判断した者のみが、2人目の試験官による面接へと進み、そこでも「有能」と判断された者のみが、3人目の試験官による面接へと進み、各段階で「有能」と判断されたもののみが採用されることになります。

この場合、①「採用すべきでない(無能な)受験者を、有能と見誤って採用する確率」については、3人の試験官がともに「有能」と見誤った場合のみ採用となり、その確率は、1/10×1/10×1/10=0.001となります。
一方、「採用すべき(有能な)受験者」を3人の試験官がともに「有能」と「正しく評価」する確率は、9/10×9/10×9/10=0.729となることから、
②「採用すべき(有能な)受験者を見誤って「不採用」とする確率」は、
1ー0.729=0.271となります。

この結果は、人物試験の段階(ステップ)が3段階になると(試験官が2人から3人に増えて)、
①「採用すべきでない(無能な)受験者を見誤って採用する確率」は、0.01→0.001へとさらに大きく減少する一方、
②「採用すべき(有能な)受験者を見誤って「不採用」とする確率」は、0.19→0.271へとさらに増加することがわかります。

○人物試験が4段階の場合(試験官が4人のケース)
人物試験は4段階で終了するため、1人目の試験官が「有能」と判断した者のみが、2人目の試験官による面接へと進み、さらに3人目の試験官による面接、4人目の試験官による面接へと段階を経て、各段階で「有能」と判断されたもののみが採用されることになります。

この場合、①「採用すべきでない(無能な)受験者を、有能と見誤って採用する確率」については、4人の試験官がともに「有能」と見誤った場合のみ、採用となり、その確率は、1/10×1/10×1/10×1/10=0.0001となります。
(このことは、「採用すべきでない(無能な)受験者」が採用となる確率は、ほとんど無いことを意味します。)

一方、「採用すべき(有能な)受験者」を4人の試験官がともに「有能」と「正しく評価」する確率は、9/10×9/10×9/10×9/10=0.6561となることから、②「採用すべき(有能な)受験者を見誤って「不採用」とする確率」は、1ー0.6561=0.3436となります。
(このことは、10人のうち3人を本来「有能」なのに、不採用としてしまうことを意味します。)

この結果は、人物試験の段階が4段階になると(試験官が3人から4人に増えて)、①「採用すべきでない(無能な)受験者を見誤って採用する確率」は、0.001→0.0001へとさらに大きく減少する一方、
②「採用すべき(有能な)受験者を見誤って「不採用」とする確率」は、0.271→0.3436へと、さらに増大することを示しているのです。


このように、「人物試験の段階(ステップ数)と評価誤差の関係」については、人物試験の段階が増える(試験官が増える)につれて、次のことがわかります。
①「採用すべきでない(無能な)受験者を見誤って採用する確率」は、人物試験の段階が増えるにつれて、大きく減少する。
②「採用すべき(有能な)受験者を見誤って「不採用」とする確率」は、人物試験の段階が増えるにつれて増加していく。

すなわち、「人物試験の段階(ステップ数)」の増加は、「採用すべきでない(無能な)受験者」の採用を防ぐことには大きく貢献する一方で、「採用すべき(有能な)受験者」については、かえって「優秀者を無能者と見誤って不採用としてしまう」(採用し損なう)確率を増やしてしまうことがわかるのです。
この原因としては、人物試験の段階が増えることで、各試験官は(無能者を採用しないように)念入りに面接を行なうなかで、優秀者を取り逃がす可能性が高くなると考えられます。

このように、(前提条件にもよりますが)単純に試験官の人数を増やしたり、面接段階を増やすことに比例して、評価誤差が少なくなる訳ではないことを理解しておく必要があるのです。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございます。(Mr.モグ)

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