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【六本木ホラーショーケース -ARTICLE-】#003 『ダークグラス』『ベネシアフレニア』から考える現代のジャーロ

【六本木ホラーショーケース】

六本木 蔦屋書店映像フロアがお贈りするホラー映画紹介プログラム。
ホラー映画を広義でとらえ、劇場公開作品を中心にご紹介し、そこから広がる映画人のコネクションや文脈を紐解いていきます。


今回ご紹介するのは、『ダークグラス』と『ベネシアフレニア』の2作品です。

Copyright 2021 (C) URANIA PICTURES S.R.L. e GETAWAY FILMS S.A.S. 

『ダークグラス』

2022 | 監督:ダリオ・アルジェント

オフィシャルサイト


(C)2021 POKEEPSIE FILMS S.L. - THE FEAR COLLECTION I A.I.E.

『ベネシアフレニア』

2021 | 監督:アレックス・デ・ラ・イグレシア

オフィシャルサイト

今回、なぜ新作を2作品選び出したのか?
そこに共通項として浮かび上がる“ジャーロ”というジャンルについて改めて見つめなおす機会になるのではと考えました。

『ダークグラス』の監督ダリオ・アルジェントは、御年82歳のホラー映画界を代表する巨匠です。
ジョージ・A・ロメロやトビー・フーパー、ウェス・クレイヴン亡き今、数少ない生けるホラーレジェンドと言えるでしょう。
代表作である『サスペリア』の鮮烈な印象は、その後のホラーにおける美学のようなものを作り上げたと言っても過言ではありません。
そして“ジャーロ”を代表する映画監督でもあります。
“ジャーロ”とは、ホラー映画のサブジャンルの一つです。
殺人シーンにおける鮮血描写が過激で、独特な音楽と相まって美しさを持った作品群を指します。
正直、その条件だと大体のホラーが当てはまるのではという感じですが、超自然的な怪異ではなく、人が引き起こすサスペンススリラーが主流となっています。
なので魔女という要素が絡む『サスペリア』はジャーロというにはかなり異端な存在です。
とは言ってもこの区分けに厳密な線引きがあるわけではないので、1970年代にイタリアを中心としたホラームーブメントというざっくりとした理解でも問題ないと思います。

一方、『ベネシアフレニア』のアレックス・デ・ラ・イグレシア監督は、スペイン出身の異色な才人です。
ペドロ・アルモドバルにその才能を見出され、デビューしました。
独特なコメディを通奏低音としながら、様々なジャンルを意識的に取り入れて、再解釈を施していく特徴があります。
西部劇の『マカロニ・ウエスタン 800発の銃弾』やシチュエーションスリラーの『クローズド・バル街角の狙撃手と8人の標的』などが代表例として挙げられでしょう。

そんな彼が『ベネシアフレニア』で挑んだのが、ジャーロです。
“オーバーツーリズム”という現代の社会問題をモチーフにして、ヴェネチアンマスクの怪人が暗躍するスリラーとなっています。
ホラーは社会の恐怖を表した鑑でありますが、まさに目の前にある問題とジャンル愛を見事にミックスした作品です。
観光地であるヴェネチアを舞台に、カーニバル衣装の人々が行き交う様はビジュアル的にも見応えがあり、まさにジャーロの新たな様式美を提示しています。

アルジェントの『ダークグラス』は、盲目の娼婦が謎の人物に追いかけられるスリラーです。
ジャーロの巨匠による最新作は驚くほどシンプルな構成で、社会問題などもそれほど絡んではきません。
動物の使い方などにとてもアルジェントみを感じることのできる作品で、原点回帰と見ることもできます。

『ダークグラス』と『ベネシアフレニア』が並び立つことによって、ジャーロというジャンルの曖昧さが浮かび上がる結果となりました。
それはジャンルとしての懐の深さとも言い換えることができ、作り手や観客自身がそれぞれ作品の中から見出すように形作られるのかもしれません。

何だか結局何も言っていないような結論にたどり着いてしまいましたが、『ダークグラス』と『ベネシアフレニア』が必見の作品ということが伝われば幸いです。

【六本木 蔦屋書店のオススメ:鑑賞前後に観たい作品】

『ラストナイト・イン・ソーホー』
2021 | 監督:エドガー・ライト

ジャーロというジャンルをより正しく理解するためには『知りすぎた少女』や『モデル連続殺人!』のようなジャンルの興りの作品を紹介すべきかもしれませんが、このコラムでは現代ホラーから紐解いていくという事をコンセプトとしております。
なので劇場公開2作品と共に『ラストナイト・イン・ソーホー』を加えて、現代のジャーロを味わって頂きたいです。
映画オタクのエドガー・ライト監督が、ジャーロにオマージュを捧げたサイコスリラーで、そのビジュアルはまさにアルジェントを意識した作りとなっています。


『マニアック・ドライバー』
2020 | 監督:光武蔵人

変わり種としては、ジャパニーズ・ネオ・ジャーロを謳った『マニアック・ドライバー』をオススメします。
何となくイメージするジャーロの要素のみを高濃度で抽出したような作品です。
舞台が日本であることで、とても奇妙な味わいになっており、一度ハマればクセになる面白さを味わえます。

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