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医療×スタートアップの、矛盾・難しさ。

現在私は、医師でありながらライターや起業家などとして働きますが、「病院から飛び出た」からこそ見えてきた、特にヘルスケアスタートアップ界隈の問題があります。
今日はそんな問題の一部と、そこに自分が存在する意義、なんてのを考えてみます。

医療×他領域で働く、とは

軽く自己紹介から。
私は現在、臨床では健診やクリニックをベースとしており、いわゆる「病院」では働いていません。
つい最近まではずっと中規模以上のいわゆる「総合病院」で働いてきましたから、かなりフィールドは変わったと言えます。同時に、産業医(企業の産業保健に携わる医師)としても医師の資格をベースとした働き方をしています。
とは言っても、これら「資格がないとできない仕事」は週2−3しかしていません。

それ以外の時間は、主にライターやスタートアップ界隈にいます。
ライターとしては医療記事を書くことがほとんどですし、自分が携わるスタートアップは全てヘルスケア領域です。
ただ壁打ちや情報収集においては他領域の起業家とも多数交流する事はあるので、それなりに起業家視点はあると思っています。

ライターとしては自ら記事を書くのみならず、編集や校正から監修までさせて頂いていますが、この際に向き合うのは「一つ一つの記事」です。その記事が医学的に妥当か、読んだ人が誤解するような表現をしていないか、と言うのが主な仕事なので、あまり悩むことはないです。
むしろ「医学の基本を理解した上で校正ができる」という需要を頂く事があり、この意味ではフルに医学的素養を活かすことができます。
唯一悩むことがあるとすれば、メディアから監修などの依頼を頂いた際、そのメディアで(医療観点で見ると)まずい記事がある時です。1件だけそういうメディアのお誘いを頂いた事がありますが、それはキッパリお断りしました。医師の名前は(こんなくそペーペーでも)絶大ですから、安易に承諾すると、自分に対する他の医療者の視線が厳しくなりかねません。
ちょっとそういう記事もあるかな?と言う時には、仔細を聴きながら軌道修正出来る様に頑張りたい所ですが、それはここからの作業。

難しいのは起業家界隈です。

医療×ビジネス、の難しさ

有難いことに、あちらこちらのヘルスケア関連の方から壁打ちやご相談、場合によっては監修のお話を頂くこともあります。
こう言っては大変申し訳ないですが、「玉石混交」です。きちんと文献検索などをしてからヘルスケア界隈に来る方もいれば、ジャストアイデアの方もいます。ヘルスケアの向上より利益目的だろう、と判断させて頂いたものもあります。

最近(でもないですが)話題になっているニュースの1つに、セラノス社の件がありますね。(ご存じない方はこちらをご参照ください。)
この件からシンプルに言えてしまうのは、「科学領域の真偽の判断は非常に難しい」ということです。セラノスの件では、初期からその研究と言われるものに関わる論文が見られない事から怪しむ向きもありましたが、投資家界隈はそれを物ともせず、評価額は90億ドルをも突破しました。
しかし現在、彼女は詐欺で訴追中の身となっていますし、この技術は実用化されていません。著名な多数の投資家がここには投資しており、見事に「騙された」格好です。

そうでなくても、ヘルスケアスタートアップを称する中に、医療専門職としては疑問を抱かざるを得ないものは多数あります。
私は全てのヘルスケア領域に、エビデンスを重視しろ、研究論文レベルへ行け、とは思っていません。研究は非常にコストのかかる行為であり、資金力の乏しいスタートアップには非常に難しい作業なのは当然です。
しかし、最低限「現在明らかになっている医学的常識に反しない」「コンプレックスビジネスをしない」と言うのは守っていただきたいと思っています。あと薬機法や医療法(効能表示や広告のこと)は当然です。
※コンプレックスビジネス:人の弱みや嫌だと思う点を突いて商品などを買わせる手法

そして最も難しいのは、困っている人を前にして、善意からやっているにも関わらず、「目前の少数事例と個人的感想」がベースになっているが故に、医療者から見れば「やられると困る・現行医療に反しかねない」事をしている事例です。「善意からくる」だけに、大変難しいのです。
医療におけるエビデンスでは「個人の意見」は最低ランクです。○○大学教授の個人の意見より、無名の研究者でもしっかりした研究デザインに基づいて発表された論文の方が信頼度は高い、と言うのはこの世界では常識です。
しかし起業家界隈でよく言われるのは、「徹底的なヒアリングとニーズの発見」「具体的なペルソナ設定」です。
そう、この2つ、時と場合によっては正反対になってしまうのです。

では、どうすればいいのか?

私もこれはいまだに模索中です。
自分が協力・壁打ちする際には、意見出しに留まらず、文献検索の提案やお手伝いまでさせて頂いていますが、正直かなり時間取られます。
ただ、周りに医療者がいなくても出来る事が2つあります。

①法律の確認

医療やヘルスケア界隈にはかなり厳しい法規制がかかっています。人の命に関わるのだから当然です。(最近特に医療関連業界における規制強化の動きもあります)
しかし、この法規制もいくらでも抜け道があり、例えば雑品扱いのものには薬機法規制はかかりません。最近は「薬機法チキンレース」なんて言葉もありますが、この様な考え方は言語道断です。
主に医療法・薬機法がこの規制に関わっていますが、ヘルスケア領域でビジネスをしようとするなら、最低限このあたりの規制は守って頂きたいです。
特に効能表示は注意してください。「○○に効果がある」は基本的に厳しいです。クチコミに対する規制は最近特に注目されているので、これまでの「クチコミならこっちが書いてないからOK」も通じなくなります。

②プロダクト→困りごと、を避ける

アクセラでも多くのヘルスケアアイデアに触れていますが、「このプロダクトをこの属性の困りごとに使えば売れるだろう」という考えの場合、正直言って問題があるものが多いです。(あくまで印象論であることをご承知おきください)
逆に、「こういう困りごとがある人を助けたいから、こういうものを考えました」は良いものが多い印象です。
つまり「プロダクトアウトでヘルスケアをしないで欲しい」と言うことです。

先ほど徹底的なヒアリングから出てくるデータと、エビデンスが反することがあると書きましたが、この問題に繋がります。
つまり、「プロダクトありきのヒアリング」をヘルスケア界隈であると、この問題が起きます。人は誰しも健康になりたい欲求は根源的にはあります(それが実現できるかはさておき)。「このプロダクトをこういうことに使えたらどうですか」と一般の方に聞けば、肯定的な返事が当然返ってくるのです。
「便利に健康になる手段」は誰しもが求めています。当たり前です。
ヒアリングをするなら、ぜひゼロベースでしてください。そしてproblemを特定したら、「問題を解決する」事を主眼においてください。これが「プロダクトを当てはめる」だと変な方向に行きます。

まとめ

私もスタートアップ界隈に来てまだ浅いですが、正直「これはおいおい」と思ったヘルスケアスタートアップの数は優に両手を超えました。
そうでなくても、健康や美容の業界は元から問題のあるプロダクト/企業が多数存在します。

医師法第一条には「国民の健康を確保する」と書いてあります。
例え臨床現場から離れても、私は医師という「国家資格」の「免許」を持つ以上、この為に生きるのがmissionだと思っています。
もしnoteを読んで、ヘルスケア領域でこれをやっていいのか?という迷いが生じた方がいたら、ぜひご連絡ください。医師×起業家の端くれとして、お手伝いできる事があればさせて頂きたいと思います。

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