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マネーの資格持ってて良かった…退職後の医師を助けたのは

産業医・元産婦人科医・医療ジャーナリストの平野翔大です。

 専門医取得への道半ばでキャリアチェンジをした、専門医資格なし・学位なしの医師6年目ですが、臨床で気付いた課題を解決すべく、産業医・社会事業家・ヘルスケア事業のアドバイザー・医療ジャーナリストと幅広く活動しています。狙って進んだキャリアではなく、計画性もあれば偶発性もあったキャリアですが、今は充実した日々を過ごしています。

 2023年12月までは医師のキャリアイベント「医師100人カイギ」の司会も務めており、さまざまな先生のキャリアにも触れてきました。このたびの連載では「医師の臨床外でのキャリア」の一例として、私がどのようにキャリアを構築していったか、ご紹介させていただこうと思います。
 第5話では「年度途中で退職した若手医師」のお金のリアルをご紹介しました。今回は、この際に役に立った「ある資格」と、資格を活用して取った戦略をご紹介します。

退職後の医師を助けた資格は、ズバリ

 その資格こそ、「簿記」「ファイナンシャル・プランニング技能士」です。実は第1回で「資産運用の勉強」と書きましたが、研修医時代に簿記2級とファイナンシャル・プランニング技能士2級を取得していました。

 きっかけは、研修医になった初週から自分のPHSに不動産投資の電話がかかってきたことです。救急隊を名乗ったり、他院を名乗ったり、大学同窓会を名乗ったりとまぁ悪質な方々で、相手にすることは全くなかったのですが、とはいえ「確定申告が~」などと言われるその内容を理解しておく必要があると感じたのです。

 学生時代から奨学金の申請や受給のために親の確定申告書類は見ていましたから、全く読めないわけではありませんでしたが、医師はその収入や働き方の性質上、確定申告を行うことも多いと思い、基礎知識を身につけるために「資格」という形で学んでみたのです。

 簿記はその名の通り、帳簿のつけ方を学ぶものです。公式な帳簿は家計簿と違い、貸方や借方など一定の「記載方法」がありますが、簿記ではこの読解から記載までの基本を整理できます。確定申告なら3級で十分と思いますが、法人設立をした今では、2級レベルの知識を持っておいて良かったと感じます。

 ファイナンシャル・プランニング技能士は2級を取得すると「Affiliated Financial Planner」という資格につながり、仕事として行う方もいます(私は仕事としてはしていません)。税金・社会保険から年金や相続・不動産について学ぶことができ、基本的な金融リテラシーを整理するには最適の資格です。

 これらを研修医時代に学んだことで、前回ご紹介した社会保険や税金には、実はある程度の知識があったのです。

知ってたからできた、辞めた後の節税対策

 この2つの資格があったことで、退職してすぐに行ったのが「健康保険の任意継続の申請」と「開業届の提出・青色申告の申請」でした。

 退職後の健康保険は、配偶者がいない方であれば「国民健康保険への加入」と「任意継続の申請」の2択があります。任意継続は2年間限定ではあるものの、事業主負担分も自分で支払うことで、在職時の健康保険に引き続き加入することができる制度で、退職後20日以内に申請する必要があります。

 実はこの任意継続、ポイントなのが「保険料算定基準の上限が『加入者全体の標準報酬月額=30万円』(※令和6年度時点)」である点。前回の記事では「30万円が上限のため、もらえる傷病手当が少ない」ということをご紹介しましたが、逆に任意継続の間はどれだけ収入が上がっても保険料の上限が決まっているということなのです。

 対して国民健康保険は収入に応じて保険料が上がっていきますから、高所得者ほど上限が決まっているのはメリットになります。前回ご紹介したように、私は最低でも月額30万円以上は稼がないと赤字を脱出できませんから、どうやっても任意継続のほうがお得なわけです。

 また青色申告は、個人事業主がきちんとした帳簿などを残すことを前提に、事業収入から55万円または65万円を所得控除できる「青色申告特別控除」が使える制度です。

 私は以前から原稿執筆などである程度の収入がありました。勤務医の間は雑収入で処理していましたが、退職後は、まずはある程度執筆で稼ぐことも視野に、これを事業として行うために開業届を提出、青色申告の申請をしました。

 簿記2級を所有していたので帳簿をつけることは難なく行えますし、もしその後また雇用される側に戻るのであればそのときに廃業するなりすればいいだけの話です。短期的にはバイト+執筆などの収入になることを見込み、可能な限り税金を減らす手立てとして、個人事業主開業届の提出と同時に青色申告を申請しました。

 また他にもiDeCoの掛金増額など社会保険まわりの手続き、さらに退職前のクレジットカードの上限額の引き上げやメガバンク口座の開設、新物件の契約(病院近隣物件に住んでいたため)など社会的信用力が必要なことは済ませました。日本は企業勤めの社会的信用が高く、フリーランスや個人事業主はかなり低いので、このようなポイントも把握していたのにはだいぶ助けられました。

金融リテラシーから別の興味も

 簿記・FPを取得したことで、実は研修医時代に興味を持ったのが「医療経営」でした。特に、簿記を学んだことである程度経営に関する書類も読めるようになったわけですが、思いの外、病院の経営というのがまずいことを知った私は、そこから「医療経営」に興味を持ちました。

 まず手をつけたのが「医療経営士」という資格。診療報酬制度から病院経営に関する全体像の理解につながりました。この資格を得たことで、医療経営に関する勉強会に参加することもでき、前回紹介した「医療経済・経営や働き方改革」という興味につながりました。

 臨床を離れて社会医学分野を志すにあたり、導入のきっかけを与えてくれたという意味でも、金融・経営などお金周りの知識を得たことは、かなり自分にとってプラスだったと感じます。

クロージング

 お金のことは、知るか知らぬかで大きく変わることがあると感じます。正直、退職した時はまだまだ頭が十分に働いている状況ではなかったと思います。その状態でいろいろな社会保険について調べたりするのは労力が大きかったとも感じますし、既に基礎知識を持った状態だったのにはだいぶ助けられたと感じています。

 適切に金融リテラシーを持ち、税金や保険料を減じる正しい「節税」を知ることは、「損をしない」という意味で重要です。今では小中学校でも金融リテラシーの教育がされている時代、「稼いでいるけど金融リテラシーの低い医師はカモ」という話すらあるくらいですし、実際に不動産投資などでは狙い撃ちにされているわけです。

 簿記2級・FP2級は、合格率はそこまで高くないですし、ある程度の勉強は必要ですが、医師国家試験をクリアした皆さんであれば、難なく取れる資格だと思います。試験に向けて勉強すると定着もいいですし、一度得るとだいぶ応用が利くのでおすすめです。

 第5、6話で金銭面の再起を果たし、やっと安心して次のキャリアへ進めるようになりました。「貯金期」の次はいよいよ「社会医学という新しい世界」に挑んでいきます。とはいえ、いきなり「医療経営をやります!」と言ってもできるわけではなく、しばらくは手探りの状況が続きます。しかも「専攻医途中でやめた医師」の評価は結構低く、キャリア上は苦戦が続きます。

 ぜひ次回も楽しみにお読みいただければ幸いです。

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