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2023柔道世界選手権、6日目男子100キロ超級&女子70キロ超級と、最終日団体戦・観戦感想。Facebookに投稿したのをまとめて転載。(FOD配信で畳ふたつ1回戦から全試合観戦)


 この「超級」、特に女子、少し前までは外国選手には大外刈りと支えつり込み足と払い巻き込みくらいしか技がない、技術より体重、な印象があったのだが、ここ数年、男女ともに、技術的には全階級を通じても、いちばん「柔道らしい美しい技、基本に忠実な技」がたくさん見られる楽しい階級になっている。「華麗な技」といえば軽量級、という先入観があるかもしれない。しかし、柔道をする子供たちに参考になる「基本に忠実できれいな投げ技」が多いのは、最近では超級柔道だと思うのである。

 これはなぜか考えてみる。
 男子なら81~100キロ級と100キロ超級(多くが130キロ以上ある、150キロ以上も珍しくない)、女子なら63~78キロ級と78キロ超級(多くが100キロ以上ある)を比較すると何が違うのか。

 これは「投げる筋力と、投げられるカラダの重さ」の関係が違うのである。

 男子81~100キロ級の人たちの怪力であれば、その体重の相手は、力で抜き上げて投げることが可能なのだ。だから、柔道の技をさほど使わなくても、怪力で持ち上げてバックドロップとか、相手の技を潰して裏返すとか、そういう「力が技を凌駕してしまう」状況が多く出現する。筋力>技、ということが起きやすいのである。なので、日本選手が苦戦するのである。

 ところが、100キロ超級、実質130以上、150キロもいるという階級になると
①力だけでは投げることが難しくなる。
②すごく太った人は立っているバランスが悪くなる。技で崩して投げれは、大きく転がりやすい。
つまり、「力より、正しい柔道の技が効きやすくなる」という現象が起きる。超級だと「技>力」という状態になりやすいのである。

 このために、最近の超級の試合では、男女とも、背負い投げ、袖釣り、体落としなどの「からだを回して前に投げる美しい技」がたくさん見られるのである。

 女子の三位決定戦二試合もブラジルのソウザの体落とし気味の払い腰、イスラエルのヘラシコの袖釣り込み腰どちらも美しい技。

 そして素根の勝ち上がりで二回出たの袖釣り側から回っての一本背負いという美しさ。もう芸術品である。素根、すごい。あの技は、素根以外に見たことないよな。

 そして素根の決勝。フランスの、体格的にも怪物だし、柔道の技量としても超一流、女性版リネールといっていいトロフア相手に対し、いちども危ないところなく、攻め続けての指導勝ち。強い。
 パリ五輪代表決定だと思う。

 男子は、影浦が、三回戦と三位決定戦、二回とも腕ひしぎ逆十字でやられたのは残念。このあたりも、超級でも関節、締めまで世界の柔道家が技術を高めているのである。 影浦はもうひとつ勝てばリネールだったんじゃないのかな惜しかったなあ。リネールが今回決勝まで行ったのは、影浦やロシアのバシャエフのような「背が低くて太っていて背負いが得意タイプ」の強豪とあたらなかった幸運もあると思うのだよな。
 斎藤はリネールと延長を戦った末の指導負け。大学団体戦での村尾三四郎と代表戦の長時間の延長でも負けているが、もう引退間近の高齢リネールに対して体力負けしていたのは残念。疲れると柔道にならなくなる悪癖を解決しないと。「へとへと感」だけで、指導を取られやすくなる。へとへとでも出せる技、へとへとでも技を出せる組手の手順・手法のバリエーションを増やす。根性の問題ではなく、そういう技術の課題として解決していかないと、先はないと思う。

 斎藤も影浦もメダルに届かなかったので、これは太田彪雅含め、パリ五輪代表レースはもうしばらく続けるべきであろう。
 男子決勝はリネールとロシアのタソエフ。
 延長でのリネールの払い腰をまくり返したタソエフの返し技、技ありあったよね。審判団まるごと、リネールに忖度したぽいので後味悪し。

 それにしても、リネールはパリ五輪の金メダルで引退っていうのを本気で狙っているな。一時期の練習不足、グタグタ柔道から復調しつつある。今日のリネールはかなり強かった。

 しかしほんとは負けていたんじゃないのかなあ。ルールや技の判定に関しては日本一厳密な、e柔道・古田さんのTwitterでは「いい試合だった」と感想が書かれていて、判定に疑問は呈していないんだよな。どうなんだろう。あの内股や払い腰をめくるの、ポイントにしないルール改正とか解釈変更とかあったんだっけ。

世界選手権最終日 団体戦。


 モロッコが三位決定戦まで勝ち上がったり、ジョージアが銅メダル取って盛り上がったり、非常に素晴らしい内容だったのに、決勝までは。

 決勝は日本×フランス。東京五輪と同じ対戦。

 これは柔道を愛するものとして、日本という国よりも、柔道を愛するものとして、ひどい審判のせいで、日本が汚名を着る事になってしまった。ひどい、不公正な結果だった。

 正直、優勝はフランスがふさわしかった。そうしてくれたほうが、悔しいけれど清々しい気持ちで大会を終えられた。そうしたら、きっぱりとした決意でパリ五輪に向かって進めたのに。こんなことがあると、世界の柔道界で、日本が敵役になってしまう。

 日本チーム、選手は全力を尽くしたて正々堂々と戦った。それなのに、最後に出てきたスペインのカマチョ主審の不可解な判定連発のせいで、世界中の人が「日本が何か裏で手を回したんではないか」というような疑念を抱かれたと思う。

 カマチョ主審は66キロ級の決勝でも、いらない指導を出しまくって阿部vs丸山の好勝負を台無しにした主審である。大会後に資格を停止した方がいいくらい、ひどかった。

 本人はおそらく「ルール通りに、最新の審判規定通りに判定した」と言うと思う。たしかにそうなのだが、

 まず、男子超級の斎藤×テルヘック、テルヘックが組むとすぐに組み手を切る動作に対して、試合開始後数秒で指導を取る。たしかに斎藤とだとやや実力差があって、組んだらなげられちゃいそうなので、見苦しく組手を嫌っていたのは確か。なのだが、斎藤はそれを察して、両襟でがんがん技を出すという柔道を立ち上がりからしていた。だから、これは、斎藤がきちんと技を出す→テルヘックが技を出さない、腰を引く防御姿勢、これで二回目の指導、これは正しい。そしてそのわりと直後、組み手に入ってまたすぐ組手を切ったテルヘックに速攻で三度目の指導。試合らしい試合をする前に指導を三回出してしまい、斎藤の勝ち。

 たしかに単に組手を嫌って切るだけの動作をしたら指導、とルールブックには書いてあるので、ルールを正しく運用すればこうなる。しかし、今大会、あるいはこの日の団体戦を通じて(団体戦だと人数合わせのために、階級によってはかなり弱い選手が出て来てしまったり、例えば男子のいちばん重い階級は団体戦では90キロ以上なので、100キロ級の選手と超級の選手が対戦するなど、個人戦では階級差がある選手が対戦することもある。ので、組んだらすぐ投げられちゃうので、すごく組手を嫌ったり、すぐ座り込んだりするという試合が個人戦よりたくさん出てくる。ここはそのあたりを見て、試合をうまく成立させる審判の工夫が必要なのである。)

 斎藤とテルヘックの試合は、斎藤が組んで技を何回か出したところで、相手に指導を出せばいいものを、組手を切った瞬間の指導が二回なので、「なんだか、日本がずるして勝ったみたい」な印象になった。

 船久保も、先に技ありを取られた後、相手が優勢に立ち技を仕掛けた後に寝技で攻め返して抑え込んで逆転勝ちしたが、これも、「寝技を長く見すぎじゃあないか」という疑念をフランス側は持ったかもしれない。(これはまあ、待てがかからなかったから攻めた船久保に罪はないのである。しかし、船久保の寝技がめちゃ強いのは世界中が知っているからしかも立ち技は船久保劣勢だっから、寝技を長く続けさせるのは、船久保ひいき、日本ひいきの審判に見えてしまうのである。)

 つまり、試合全体の流れを見ると、フランスが、初め二試合連勝したところから、日本が取り返して同点に追いた、そのプロセスの中で、本当にすっきり勝ったのは田嶋剛毅だけのような感じに、フランス人なら感じちゃったと思うのである。いや、斎藤も船久保も、ちゃんと勝ってはいるのだが、もし僕がフランス人だったら、「なんか怪しい」と思いたくなる。

 そういう流れの中での、日本、フランス3対3での代表戦。ルーレットのクジで70キロ以下女子が選ばれて、新添とピノ、本選はピノが内股をめくって勝っている。

 こうして始まった代表戦でも、初めからピノがやや立ち技では優勢。新添は明らかに不調。相手の投げ潰れた後を寝技で締めたりしているが、立ち技の攻防、というかそもそも組手から不利。引き手がほとんど取れていない。

 そんな中、指導がピノの方に入り、ピノが挽回しようと、渾身の小内巻き込み。これは足にタックル的に入るし、柔道の本来の動きとして、相手の前足、太もも部分を巻き込むので、手が足に触るもの。でも、ピノ選手は、現在のルールでは下半身を手でつかむと反則なので、かなり注意して反則にならないように巻き込んだ。見事に決まって、一本。フランス優勝。

 仕方ない。見事な一本だったよなあ、と僕は見ていた。そうしたら、なんと、一本取り消し。なだけでなく、足を掴んだとして指導二つ目。

 えーーー、フランスチーム大喜びしていたのにかわいそう。おれがフランス人なら発狂して怒るね。

 でもピノ選手、気を取り直して、またちゃんと試合を続行する偉いなあ。

 そして、ピノ選手、巴投げをうつ、前かがみで耐えた新添選手の腕にピノ選手は寝ながら腕十字をかけていく。

 これが「立ち姿勢での関節技」ということで、指導みっつめ、ピノ選手反則負け、新添の勝ち、日本優勝になったわけだ。

 「立姿勢の選手への関節技は反則」が厳格化しているので、判定としては正しい。のだが。

 しかし、このチャベス主審、登場してからの判定がすべて日本に有利にルールを厳格すぎる運用をして、フランスが3-1とリードしていたところから、三試合とも日本の勝ち、しかも二試合は指導3での勝ちだったので、これはフランス人も、あるいは中立的に見ていた会場の観客も納得いかなかったと思う。

 日本の選手は、全然悪くない。みんな正々堂々と戦った。むしろチャベス主審登場以前に戦った、トップで出てきた橋本壮一が、いちばんのベテランなのに気合入りすぎでちょいと軽率な試合をしてしまい、開始すぐに一本負けを喰ったのと、女子の超級・瀬川が、実力的には十分優位に戦えるハイメに対して、組手にこだわりすぎて先に指導をもらい、最後は技が出せずに指導で負けるという負け方をしたのが残念な、負け方、改善の余地ありであって、カマチョ主審になってからの、斎藤、船久保、新添二試合目は、選手たちははとてもいい試合をしたと思う。

 しかし、チャベス主審の「指導出しまくって、指導で試合を壊してしまう」判定が、すべて日本に有利に働いたので、これは印象が悪かった。

 チャベス主審の判定は、阿部×丸山戦でも、明らかに「たしかにルール通りなんだけど、ちょっと出さなくてもいい程度のこと、ちょっと早すぎるタイミングで出して、一生懸命試合をしている選手をがっかりさせる」という、最悪な感じの指導の出し方なんだよな。

 というわけで、柔道世界選手権団体戦は、最悪な審判のおかけで日本が優勝してしまったために、むしろ、来年のパリ五輪の団体戦で、というか競技全体で、日本が敵視されて、不利に判定されてしまうことになりそう、という最悪の結果だったと思う。

 全柔連も、日本人でIJFの審判部の偉い幹部の人たちも、今大会の審判の問題点について、むしろ日本えこひいきみたいになったことに対して、日本はむしろ迷惑だと思っているということを伝えるべきだと思う。そうじゃないと、パリ五輪の柔道は、日本勢にとって「審判とも戦う」最悪なものになると思うぞ。

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