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「欲望の資本主義2022 成長と分配のジレンマを越えて」NHK BS1スペシャル 今年のこれは面白かったぞ。斎藤幸平氏とチェコのセドラチェクの対談は必見。あと、ミルトン・フリードマンの孫が目指す「チャーター・シティ」というのが、竹中平蔵、維新の理想なんだろうというのがよくわかる。

今年のは、面白かったぞ。
NHK HPから。


「欲望の資本主義2022 成長と分配のジレンマを越えて」
初回放送日: 2022年1月1日
やめられない止まらない欲望の資本主義。2017年から恒例新春巻頭言。成長、分配、生産性、循環。議論百出の中どこへ向かう?世界の知性と考える異色教養ドキュメント。
困窮者の救済が議論される一方で金融市場は世界的な緩和で潤い、K字と呼ばれる二極化の中叫ばれる生産性向上…。歪な状況の打開策は?人的資本への投資を進めるスウェーデン、循環型経済を試みるオランダなど取材。共産主義の苦い記憶から資本主義内での改革を語るチェコのセドラチェクと脱成長を主張するマルクス経済学者・斎藤幸平が徹底的に議論。ジム・ロジャーズからバルファキス、ラワースまで、資本主義の本質に切り込む。」

ポイントいくつか


①まず、日本が成長もしなしい分配もうまく行っていない中で、(慶應の)大学生の投資サークルなんかが紹介されて、奥野一成 農林中金バリューインベストメンツ 常務CIOという人が「世界第三位の経済規模を持つ日本の人が、単に労働者として分配を待つというのはおかしい、投資家として資本主義に参加するということを高校生大学生のときから知るべき」と肯定する。コロナで在宅時間が多くなって将来不安を感じたという大学生たちが、投資家になろうと勉強しているという話。


なんとなく気持ち悪い感じ。この違和感は、番組最後のバルファキス(ギリシャの元・財務大臣)のインタビューまで持ち越される。とりあえず、ペリー・メーリング ボストン大学教授や、投資家ジム・ロジャースが、現在の、コロナでの各国の財政出動による金余りでの投資市場の過熱のはらむ危険を予言する。


②新自由主義の目指す究極の姿を、ベンチャー企業が国家を持つというか、経済特区をさらに進めて国家になったような形・チャーターシティ、究極の新自由主義国家が世界に拡大することを目指す人物を紹介する。新自由主義の教祖、ミルトン・フリードマンの孫、パトリ・フリードマンだ。竹中平蔵が大阪をそうしようと思っているのだと思う。竹中・維新の目指す究極形をちゃんと語るとこうなる、というのがわかる。必見。


③この「チャーターシティ」が新自由主義の究極系であるなら、その正反対、資本主義の中で循環型経済を実現しようという最新理論と実例が、ドーナツ理論・ドーナツモデルを提唱するケイト・ラワース オックスフォード大学研究員が登場。合理的経済人に基づく主流派経済学を批判、否定する。環境的限界の中での成長ではなく繁栄を目指すという理論で、それに基づく実践がアムステルダムで進んでいることが紹介される。


④今回の番組の目玉、チェコのトーマス・セドラチェクと、斎藤幸平氏の対談。共産主義社会主義の最悪の体験をしたセドラチェクは、ヨーロッパの資本主義の枠の中で、課題は解決可能だとするのに対し、斎藤氏は、ご存じの通り、脱成長、資本主義の否定、コモンの再生による新しい共産主義を提唱し、二人は真っ向から対立する。


 ここではっきりするのは、日本では「資本主義」というと、米国英国のアングロサクソン型新自由主義を指して、それを乗り越えようとすると斎藤氏はいきなり「共産主義・コモン」と言い出してしまうのだが、セドラチェク氏は北欧やスイスなどで実現している欧州、特に北欧型の資本主義の進化型で、医療教育の無償化と、労働市場の流動化、企業の新陳代謝の促進、賃金上昇などは解決可能だと考えていて、共産主義は最悪のシステムだと、斎藤氏に反対する。


 日本でもいろいろもてはやされる斎藤幸平氏だが、この対談を見ると、「資本主義=新自由主義=米英型」で、日本での「中小企業を淘汰するというとアトキンソン・竹中平蔵型新自由主義だ」というのが、かなり偏った議論だというのがわかる。スウェーデンは「企業は守らないが労働者は守る」「賃金が上がる流動性の高い労働市場を作る仕組みで、労働生産性の低い企業を退場させつつ、労働者の賃金上昇と経済成長を実現し、かつ医療や教育は無償化する」という仕組みか可能だとする。
 この対談+スウェーデンの仕組みかなり詳しい紹介は必見だと思う。


⑤最後に、ヤニス・バルファキス ギリシャの元財務大臣で経済学者が登場して、ふたつ、きわめて重要な提言、問題提起をする。
ひとつめは、情報空間を「デジタル・コモン」化しないといけない。Facebookのメタバースは、そういうふりをして私企業がそれを提供すると、人は情報奴隷化するという。
それを避けるには、ビッグテック、巨大企業の民主化必要だとし、株式の所有形態を民主化しないといけない、というやや理解が難しい提案をする。
アダムスミスは、市場の自由の力と効率の高さは激賞したが、同時にスミスは株式を公開している会社、すなわち匿名の株主が会社を所有することに猛反対した。と氏は言う。アダムスミスが懸念した事態に現代資本主義は陥っているという。株式は匿名で取引される流動的な通貨となり、いずれ集中が進んでしまう。ニューヨーク証券取引所に名を連ねる全企業の9割が、たった3社、ブラックロック、ステートストリート、バンガードに所有される事態になっている。(これは本当に本当の話である。)もはや市場資本主義ではなく、独占資本主義だ。
というわけで、「売買可能な株式を廃止し、株を図書カードのように扱えばよい。」社員が一株ずつもち、転職解雇で失われるという、社員一人一株と言う形での、「労働と株の保有」が結びついた、なんか、協同組合みたいな提言をしているのだが、短くて良く分からない。

 ここで、番組では触れないが、私の思考は、冒頭の大学生の投資サークルの話に戻る。
 三社の投資会社がほとんど全部の企業を保有しているような独占資本主義が究極まで進んでいるようなこの世界で、大学生が「投資をしよう」としているのは、なんというか、「労働者として搾取される」上に「弱小な投資家として、リターンよりもリスクを負う」形にしかならない、ということなのだと思う。市場の民主化、「人民の人民による人民のための」市場という、バルファキス氏の主張を検討せずに、「みんな投資家になろう」というのは、やはり、何かうさんくさい、怪しい、危ないことなのではないかと思わせるのである。


⑥最後に再びセドラチェク氏と斎藤幸平氏の対談に戻って番組は終わる。コモンを、国でも企業でもない形で保有運営するという斎藤氏の考える「コモン主義という意味でのコミュニズム」と、共産主義が最悪の環境破壊をもたらしたチェコで育ったセドラチェク氏の「資本主義の枠の中で問題解決を焦らず目指すべき」という主張は平行線のままで終わったようでもあるし、同じ理想を違う言葉で語っているようでもある。
 ここ二年ほどの、新自由主義批判を、宇沢弘文的に資本主義の改良型、非マルクス経済の進化形で追求するのか、斎藤幸平氏のようにマルクスの新解釈で考えるのかという問いを、この対談はかなり分かりやすく整理しているように思われる。


 ということなので、きっとNHKオンデマンドなんかで見られると思うので、見逃した方は、ぜひとも見るべし。

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