拝啓_事業企画さん_015社内向け事業計画書

社内向け事業計画書は「働きアリの法則」で書こう

拝啓、事業企画さん_015社内向け事業計画書

新規事業領域での事業計画書には、(1)金融機関やVCなどから融資を得るため、(2)取引先やパートナー企業から協力を得るため、(3)社内に対して事業承認や進捗報告を行うため、(4 )創業時に起業家が自分自身のため作る、の大きく4種類があります。

今回は(3)の社内向けの事業計画書について。
あまり語られていない印象ですが、社内向けの事業計画書は、社外向け事業計画書とは「留意すべき点」が違います。

社内向け事業計画書の3つの目的

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はじめに目線合わせ。社内向け事業計画書って何のために作成するのでしょうか?
わたしは「社内承認」「社内での意思統一」「進捗管理」の3つの目的で整理しています。

別の言葉でいうと、縦軸(上層部への事業承認)と横軸(各所との連携強化)を作り、点を線や面に拡大させる(進捗管理)ために事業計画書は存在します。

1、事業を開始する際の社内承認
新規事業を始める場合、事業承認を得る対象は(社外の利害関係者ではなく)社内となります。
大きなプロジェクトの場合は経営会議等での承認が必要となります。
経営陣が納得する事業計画書を作る必要があります。
2、社内での意思統一
事業計画によっては、社内の別の部署から人的リソースを割り振ってもらったり、優先順位の調整が発生します。
いたずらに敵を増やさず、協力関係を築いていくために事業計画書を活用します。
3、推進時の進捗管理
社内向け事業計画書作成は、承認を得ること自体が目的化されがちです。
違いますよね。事業を成功させることがゴールです。
プロジェクトメンバー全員が、誰が何をどの順番でやるのかの共通認識を持てる事業計画書がベストです。
また、新規事業はやってみてはじめてわかることが多いです。軌道修正が発生する前提で、PDCAサイクルを適切に回せる資料になっていることが望ましいです。

社内承認に向けた「検討項目」と「順番」

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事業計画書には「この形にしなければならない」という決まりはありませんが、網羅しておいた方がよい「項目」はあります。

どの項目を重視するのかは会社によってや事業内容によって濃淡がありますので、今回はフォーマットには触れません。
考慮すべきポイントを「項目」を「順番」で説明しますね。

① Why:なぜやるのか? を会社視点と自分視点で
最初に「なぜ自分たちはこの事業をやる必要があるのか」を抑えておきましょう。既存事業に加えて新規事業も立ち上げるという事は、現在&将来において、企業として解決すべき「課題」があるからに他ありません。
自社・自分たちが取り組むべきテーマとして理解してもらうことで、事業計画書が承認される確率が高くなります。
※逆に「自分がやりたいこと」が前面に出すぎている事業計画書は、承認を得ずらくなります。

②  hypothesis:分析・観察から「仮説」(成功条件)を導き出す
事業計画通りに進むことで抱えている「課題」を解決できるのか?に答えましょう。
「課題」を定量的・定性的に分析、観察やヒアリング・インタビュー等を通じて、解決への「仮説」を導き出します。
仮説とは成功条件です。全ての仮説が証明されたら事業が成功する「仮説」を書き出しましょう。

③ When:今この瞬間に開始する必然性
仮に課題が明確になっても事業を今やる理由がなければ事業承認は得られません。企業には常に優先順位があります。ここが社内向け事業計画書のユニークなところです。
たとえば、緊急度と重要度のマトリックスを用いて、重要度と緊急度が高いことを証明しましょう。

④ Where:どの市場で勝負するのか?
事業計画書では市場規模と成長率が判断材料と一つとなります。
社内での新規事業の場合は、既存事業の周辺領域であることが多くなります。市場の大きさや成長率に加えて、経営陣が「確かにその攻め方はありだね!」と腹落ちするような市場の発見を目指しましょう。
加えて、同じ市場で戦う競合にも目を配り、自分たちが勝てる確率が高いことを証明しましょう。

⑤ Whom:顧客は誰で、何に痛みを感じているのか?
顧客が利用するのか?購入するのか?について説明します。
定性的なインタビューや定量的なリサーチ等を通じて、設定したターゲット属性の理由と、そのターゲットが抱えている「痛み」が何なのかを明らかにします。

⑥ What:事業内容について
いわゆる「ビジネスモデル」です。
事業の登場人物、商品・サービスの具体的な内容・スペック、お金の流れなどをビジネスモデルキャンパス等を駆使しながら整理します。図解(ビジュアル)で示せると良いでしょう。

⑦ How:どのように実現させるのか?
マーケティングの4Pのうち「Promotion(宣伝方法)」「Place(流通)」と実現させる体制についてです。
想定ターゲットにどのような手段で知らせ、使ってもらえるようにするのかを示します。
また、自社の体制についても人材や設備等、新たに必要となることが多いため計画に入れておきましょう。

⑧ How much:将来的に儲かるのか?
投資するだけの価値のある事業なのかをお金の面でも証明します。
売上計画、費用計画、キャッシュフロー計画等、自社で必要とされている項目について中長期的な視点で作成し、最終判断を促しましょう。
※世の中にない新規事業の場合、参考となる数値が少ないため、試算の正確性に確信を持てないことが多いです。経営陣もそれを理解していて、試算の<考え方>が間違っていないかを確認される事が多いです。

事業をフェーズ分けして評価する会社が多い

以上が、汎用的な社内向け事業計画書の「項目」と「順番」です。
環境変化の激しい時代ですから、承認者にとっても数年間の事業計画書を承認してしまうのはリスクとなります。
ですので、何段階かにフェーズ分けを行い、仮説の検証・評価を経て、徐々に投資額を増やしていく手法が多くの会社で採用されています。

事業計画書の精度を高める「働きアリの法則」

働きアリの法則とは、パレートの法則(80:20の法則)の亜種で、よく働いているアリだけを集めると一部がサボりはじめ2:6:2に分かれ、逆にサボっているアリだけを集めると一部が働きだし、やはり2:6:2に分かれる、という法則です。

少し脱線しますが、「働きアリ」の生態に興味がある方は、この辺りを読んでみると面白いですよ。

話を戻します。
経験上、新しいことを始めた時の人々の反応も、この「2:6:2の割合」に当てはまると思っています。

社内向け事業計画書であれば、2割は口に出して懐疑的な意見を言う人、6割が何も言わない人、2割が肯定派になります。

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2割の懐疑派がよく口にする質問

懐疑派と一口にいっても、純粋に事業計画書の考慮しきれていない点に鋭いツッコミを入れている人達と、起案者に対して対抗心や嫉妬心を抱いている人達に分かれます。後者は放っておきましょう..笑

前者の質問は事業の成功確率を高めるための養分であり、ありがたい質問です。下記にざっと想定質問を書き出しました。
(もっとたくさんあると思います)
事前に考慮し、事業計画書に組み入れておくと承認率は確実に高まります。

競合視点
・今まで同様のサービスがなかった理由は?
・他社が手を出していない理由は?
・うちより大手が参入してきたらどう戦うの?
・その営業戦略は正しい?
・自社の強みを活かせている?
ユーザー視点
・ユーザーがこのサービスを使う理由は?
・この仕様、使いにくくない?
・私は使うイメージが湧かない
・私だったらこのサービスにお金を払わない
・初回は使うかもしれないけど、飽きられない?
・事業の特長を一言で言うと?
実現性
・良いアイデアだと思うけど、実現させるのが難しそう
・過去に同様の事業で失敗している。今回失敗しない理由は?
・うちの会社の技術力で作れるの?
・この事業を成功させるためにはどんなスキルの人が何人必要?
・KPIの設定の根拠は?
・オペレーションが複雑な印象。どこまで考慮している?
タイミング
・1年後でもいいんじゃない。今このタイミングでやる必要は?
・理念にあっていると思うけど、既存事業を優先させた方が良いのでは?
・先行者が得られるメリットは何?
・立ち上がりに時間がかかるからタイミングを逸すると思う
事業インパクト
・社会へのインパクトがある?
・市場の規模が小さいのでは?
・業界内でどのポジションを築くことができるのか?
・価格設定の根拠は?
・営業利益確保できるの?
・開発やマーケティング費用の見積もりが甘くない?
リスク
・この事業を進めていく上でのリスクは何?
・リスクに対して対応策を考えている?
・これが起きたら撤退という撤退基準を決めている?

多数派となる6割の中立層に何をどう伝えるか

最後に。社内向け事業計画書では、多数派となる6割の人に対しても意識を払いましょう。
6割の層は「知らない」「興味がない」「否定でも肯定でもない」の3つに分かれます。

6割の層の内訳
・事業計画書の中身を知らない
・知っているけど興味がない
・知っていて興味もあるが否定も肯定もない

「知らない層」に関しては、前提条件や事前知識がない人でも理解できる内容になっているかを意識する事で、誰にとってもわかりやすい事業計画書となります。

また、知らない層の多くは職種の異なる関連部署のメンバーです。
事業化が承認され、推進する段階になった時に、どんな事業をやろうとしているのかを知っておいてもらうことで、必要なタイミングでの協力を得やすくなります。

「興味がない層」「否定でも肯定でもない層」については、最新情報を適宜共有する程度の距離感で接するのが良い湯加減です。
陥りがちな罠としては、6割の人を自分の賛同者にしたがることです。

そんな時は「働きアリの法則」を思い出してくださいね。

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