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じいちゃんの左手 その35

学校から帰ってくると 
縁側には いつも 群青色の市場帽子を斜にかぶった じいちゃんがいた 
右手にワンカップ 左手には “わかば” 
田んぼの案山子のように 僕の問いに 何でも答えてくれた じいちゃん
今思えば ほとんど 的外れだったけど 心は いつもポッカポカ
そんなじいちゃんと あの縁側が 今もあったら・・・ 
きっとこんな 会話になっただろう・・・

『白旗?』

「二学期・・・始まっちゃったよ~  あぁ 早く夏休み来ないかな」
ランドセルを背負ったまま
じいちゃんの隣で 羊羹をつまむ僕 早くも来年の夏休みを想う

いつもなら そんな僕を嗤うように
Pufaaaaaaaaaaaaaaaaa と わかばの煙を吐く 
じいちゃんの左手が今日は 空っぽ 
そして・・・なんだか キョロキョロ ソワソワ

どうしたの?と 尋ねる僕に
「なんもないぞ なんにもしてないぞ!」だって・・・
明らかに 動揺している・・・ あっ そういえば お酒もない!
「じいちゃん 今日は飲まないの?」

「今日は 禁酒じゃ」
じいちゃんが お酒を飲まない日があるなんて はじめて知った

「違うでしょ!」
突然 後ろから ばあちゃんが言った

「9月2日だもんね! お酒なんて飲めないよね」
意味深な一言・・・ あっ・・・

「もしかして じいちゃん 今日(9月2日)は 宝くじの日だよね!
 宝くじ いっぱい買って ばあちゃんに 怒られたの?」

「ふん! わしゃ博打は きらいじゃ!」
偉そうに胸を張る じいちゃん

「そうだねぇ くじのほうがまだよかったね! キューツーさん!」
ドキンと 飛び上がる じいちゃん

きゅーつーってなに?・・・ 首をかしげる僕の横

「あれは 大工や 酒屋が 面白いと言うから・・・」

いいわけ 💢 と 語気荒げの ばあちゃん!!

「そ・・・そうだ 畑行かなきゃ」
じいちゃん 急に立ち上がった

そこに追い打ちをかける ばあちゃん
「もう バカみたいな 電話料金は 来ないだろうねぇ」

「ホント 今日は 一年でいちばん苦痛(くつう)の日だ」
ボヤいて歩く じいちゃんの背中に 敗軍の将を感じた 

!!
そういえば! 今日(9月2日)はポツダム宣言 
日本が第二次世界大戦で降伏した日だ

ぼくんちも じいちゃんの 降伏記念日だったんだね

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