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タンポポ笛 (小説リアルショートストーリー)Vol.1

【あらすじ】
こまちゃんと私は小学校2年生。
こまちゃんは”私”にとって「はつこい」の人。
好きということに気づかれないように、慎重に毎日を過ごしている。
ある日の帰り道、タンポポ笛がきっかけで仲良くなった2人。それから幼くも真剣な想いで向き合う2人だったが、こまちゃんが学校に来れなくなっしてまったことで、次第に疎遠になっていった。
”私”は、めくるめく日々に身を任せているうちに、こまちゃんのことはあんまり思い出さなくなっていったが―数年後の寒い冬の朝、担任の先生から「こまちゃんが亡くなった」と思いがけない知らせを受ける。
後悔の念を抱きながら、こまちゃんを心に刻んで生きていくと決めた。
忘れられない、小さな恋の物語。 
恋愛×ノスタルジー

昨夜。夢の中。
こまちゃんが会いに来てくれた。
あたしの大切な人。
柔らかそうな茶色の髪の毛。
凛とした背筋。
そう、とっても素敵な男の子なの。

こまちゃんは小学校2年生。
あたしとおんなじなの。
クラスは違うけど。

何事にも真っ直ぐで、誰にでも開けた態度で、なんでも知っている。
気品と育ちのよさが、言葉先や物腰に滲み出ているの。
私とはぜんぜんちがうのよね。
彼の周りには、いつも自然と人の輪が出来ている。
優しくて気さくで誰からも好かれる存在。
よく、ともだち同士で、こまちゃんの取り合いっこにもなるの。

こまちゃんは遊びを流行させる「めいじん」でもあるのよ。
しりとり、あやとり、石切り、草相撲。
こまちゃんが思いついた遊びは、あっという間に同級生の間で広まるの。
こまちゃんは、気が強くてすぐに意見したり、思わずでしゃばっちゃうあたしとは正反対のにんげんで、決して自分から意見を強く出したり、何かに「りっこうほ」して前に出てくるような目立つことはしない性格なの。
そういうの「すごいなあ」って、思う。
あたしにはムリだから。
だって、思い通りにしたいもん。
こういう気持ちを「そんけいする」って言うのよ、
ってお母さんが教えてくれたわ。

男まさりで自己中心的なあたしと
誰にでも優しくてふんわりした雰囲気をまとったこまちゃん。
正反対なのに、不思議なことに、彼の姿はすぐにあたしの目を惹いた。
それは、「はつこい」というものだった。

学校が終わると、大きな玄関の靴箱の前に座って、のろのろと靴を履くフリをしながら、こまちゃんを待ってみたりする。
その時間は、むねがちょっとトクトクしていて、
待ちわびたこまちゃんの姿が見えると嬉しいような、困ったような、
どうしていいかわからなくなる不思議な感覚におそわれた。

こまちゃんとは普通に話もするし、遊びもする。
だけど、『好き』って気持ちは、絶対に絶対にバレたくなかった。
だって、もう遊んでくれなくなると困るから。
気まずいのって、いやぁよね。

だから、「一緒に帰ろ」という一言がどうしても言えなくて、靴をのろのろと履きながら、こまちゃんが帰るタイミングで一緒に玄関を出る。
他の男子とふざけ合って笑いながら帰っていくこまちゃんの背中を眺めながら、少し後ろから距離を保って歩いていた。
うつむいているように見せかけた視線の端っこに、そうっとこまちゃんの横顔を映しながら。それは、同級生の「カラカイ」から自分を守る方法のひとつだった。(小学生は時に残酷だ。)

『あいつ駒井のこと好きなんだぜ~』とかいうくだらない小さなカラカイに『だって好きなんだもん』とパシっと言い返して平然とするような強さはまだ持ち合わせておらず、ただ恥ずかしくて傷ついてしまえるほど、その時のあたしのココロは十分、子どもだった。

帰り道の2人の距離感は、「安全保障」みたいなものだった。
あたしはその距離を慎重に、慎重に保っていた。
誰にも気づかれないように。
こまちゃんには、絶対に知られないように。

帰り道、こまちゃんの背中を眺めるのが好きだった。
細く伸びる足も腕も、透き通った白い肌も、栗色の細い猫っ毛も、どこもかしこもとても華奢な雰囲気で全体的にはかなげなのに、背筋だけは軸がしゃんとしていて、男の子!って言う感じがとても好ましかった。
「心がまっすぐな人は、背筋もまっすぐなのよ」って、
お母さんが言っていたのを思い出して、また見惚れたりなんかして。

学校の帰り道には小さな川があって、
それをまたぐトンネルがあって、
こまちゃんはその手前の小道を曲がっておうちに向かって行ってしまう。
帰る方向が違うので、そこまでの道のりがあたしにとって一日の中でこまちゃんを見納める最後の瞬間だった。
『こまちゃん、ばいばい』
心の中で呟いて、そっと手を振って小走り加減に自分の家に向かう道を走った。その瞬間から、また明日会えることが楽しみとなる。
そんな小さな幸せで繋がりゆく穏やかな日々。
恋をしていた。とても切実で、可愛い恋だった。

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