月に見られてる。日中の淡い空に申し訳なさそうにしながらも雲に紛れてジロジロとこちらを見ている。
気が付くと、僕の指先にある紙巻きタバコの煙が月を隠し始めている。なぜか分からないけど僕は急いでタバコの火を消した。これ以上月が隠れないように。月に見ていてもらえるように。



所謂バンドらしい活動が出来なくなって何年か経った。僕は焦燥感を隠しきれないでいる。その焦燥感が長年ストレート・エッジを貫いていた僕の何かを壊した。僕の右手の指先からダラダラと煙を垂れ流し始めた。

今メンバー4人はそれぞれが東京、神奈川、岡山、沖縄に住んでいる。言うまでもなく、離れ離れだ。練習もレコーディングもライブもままならない、時間だけが流れる。ここ数年は週に1回、1時間程度の音声会話収録をしてYouTubeにアップする事だけがバンド活動だ。そこでは顔も出さずに会話をしている為、みんなの顔を数年見ていない。音声通話だけで好きな人達と会話をするなんて、Skypeもない時代の遠距離恋愛に似ているとぼんやり思う。
おーい、みんなー、僕の白髪化は一定の速度をもってきちんと進んでいるよー。それだけは伝えておこう。