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ブランドマネジメントの重要課題「ブランド拡張」を徹底解説

 マーケティングディレクター兼データサイエンティストのtohari.です。
 
皆さんは「ブランド拡張」って聞いてことがありますか?
ブランディングに深く関わっている方であればもちろんご存知かとは思いますが、ブランド拡張は「ブランド伸長(ブランドストレッチ)」や「ブランドエクステンション」とも呼ばれ、ブランド・マネジメントにおける最も重要なテーマの1つと言えます。
 
なぜ重要課題かといいますと、ブランド拡張をうまく用いることができれば新商品や新事業の成功確率を大きく高めることができるのに対し、間違って運用してしまうと、新商品や新事業の失敗だけでなく、時として既存商品・既存事業の売り上げも減少させてしまう可能性を持っているからです。そして同時に、その運用には固定的な方法論などは確立されておらず、非常に難しい経営的判断を伴うからです。
 
このnoteでは、ブランド拡張をまだ知らない方やなんとなくはわかっているけど意識して使っていない方に向け、ブランド拡張の重要性からその運用のヒントまで網羅的にご紹介していきたいと思います。
 
 

ブランド拡張とは

ブランド拡張とは、ある領域で築き上げたブランドの資産を別の領域に進出する際に利用することです。平たく言えば、築き上げたブランドの強みを、他の領域に使い回すことと言えます。

例えばみんながよく知る「ポッキー」を例にあげますと、ポッキーにはスタンダードなラインとは別に、チョコレートに様々な味をつけたバージョンとして、「フレーバー」ラインや「ご当地」ラインといったラインアップがあります。その他にも形状を変えた「極細ポッキー」や「クラッシュポッキー」、高級ラインとして「贅沢仕立て」、容量を増やした「徳用パッケージ」ラインなどが存在します。

これら商品全て、別のブランド名をつけることもできるわけですが、あえて「ポッキー」というブランドの傘の下で販売しているわけです。
このように新商品に対して独自の名前をつけるのでなく、既存のブランド名を活用してバリエーション的に販売することを「ブランド拡張」といいます。
 

ブランド拡張の効果

ポッキーのような戦略を採用する目的は1つです。ゼロから新ブランドを立ち上げるよりも飛躍的に成功確率を高めることができるからです。

「ブランドストレッチ」という書籍によると、新たな商品を新ブランドとして立ち上げた場合と比べ、ブランド拡張の効果は非常に高いことが立証されています。

すごい効果ですよね。
 

ブランド拡張は、商品やサービス間だけのものではない

ちなみにブランド拡張は、商品間の拡張(横の拡張)だけでなく、企業と商品といった縦関係の拡張においても存在します。

自動車業界を例にとってご説明します。
ベンツやBMWなどの外資系自動車会社とトヨタ、日産などの日系自動車会社ではブランド戦略の考え方が大きく異なっているのですが、ご存知でしょうか?

外資系の場合、Cクラス(ベンツ)や1シリーズ(BMW)のように、各車種には意味性の乏しい数字や英字が用いられるケースが多く、それ故多くの人は「ベンツ」「BMW」のように、車種に関わらず全て社名で各商品を認知しているケースが多いと思います。一方日系の場合、クラウン(トヨタ)やノート(日産)のように各車種には何かしらの意味を持つ社名とは異なる独自の名前が付けられているケースが多いです。
この違いをブランド体系で示すと以下のようになります。

ご覧の通りBMWは、社名ブランドを全ての商品(車種)にも広げて使用しているのに対し、トヨタは企業ブランドと商品ブランドは分け、商品ブランドも車種ごとに変えて使っています。BMWのような戦略を「マスターブランド戦略」、トヨタのような戦略を「個別ブランド戦略」といいます。
この違いは、両者のブランディングに対する考え方によるもので、どちらが良い悪いの問題ではありません。
 
ちなみに、それぞれのメリット・デメリットは以下のようになります。

<マスターブランド戦略>
メリット:
・1本のマーケテイングで済むので、コストを抑えながら、ブランド浸透を図りやすい。
・新車種を投入する場合でも、一からマーケティングを行う必要はなく、効率よく販売ができる。

デメリット:
・同じ嗜好性を持つ顧客しか取り込めない。
・ブランドに何か傷がつくと、すべての車種が影響を受けやすい。

<個別ブランド戦略>
メリット:
・嗜好性の異なる様々な顧客を取り込むことができる。
・いずれかの車種でトラブルが発生しても、他の車種は影響を受けにくい。

デメリット:
・各ブランド浸透にコストが膨大にかかる(各車種の予算を十分に確保しづらくなる)。
 
もしあなたの会社が商品をリリースするのであれば、必ずしも社名と異なる商品名をつける必要はありません。社名と同じ名前にする、社名とは異なる商品名を用いる、どちらも正しい戦略ですので、上述したようなメリット・デメリットを理解した上で、自社にあった戦略を選択すれば良いと思います。
 

ブランド拡張の難しさ

ブランド拡張の目的は、上述したように新商品や新事業の成功確率を高めることにありますが、既に強いブランドをお持ちの場合、「すべての新商品・新事業に対してブランド拡張させれば良いのでは?」ということにもなりがちですが、そうとも限りません。時として別ブランドとして立ち上げた方が成功するケースもあるからです。
 

例えばコーラでは、コーラのオレンジ味として投入した「ファンタ」はロングセラー化したのに対して、チェリー味として投入した「チェリーコーク」はわずか数年で販売を終了しています。
 
コカコーラがなぜオレンジ味は別ブランドにし、チェリー味は同一ブランドにしたのかは定かではありませんが、少なくとも市場は、「コーラはあの味でしかコーラとして受け入れられない」と評価したのではないかと予想されます。それは商品単体でのおいしさ評価というだけでなく、その商品をコーラとして見るのか、別の飲料として見るのかによって新商品の受容性が変わる可能性があるということです。つまり、もし「ファンタオレンジ」を「オレンジコーク」として発売したら、「それはコーラではない」と評価され、現実のファンタのように売れなかったかもしれません。
 
さらに、ブランド拡張の影響は新商品の売れ行きだけの問題には止まりません。

例えば「ポルシェ」では、1980年代に低価格モデルである「ポルシェ924」を発売しましたが、これまでのフラッグシップである「911」ファンの反感を買い、「911」の売り上げが大きく減少してしまいました。
つまり、安い924モデルに引っ張られて、ポルシェ全体がイメージダウンしてしまったのです。


 このように、ブランド拡張は上手に展開できれば新商品の成功確率を高められますが、うまくできないと新商品の売り上げだけでなく、これまでの主力商品の売り上げまでも減少させてしまう可能性を持っています。

そのため、新商品や新事業が投入される場合、その商品・事業を既存ブランドの1つとして売るのか、新ブランドとして売るのかは非常に重要な経営判断になるわけです。
 

ブランド拡張の成功のポイントは、ブランド概念の変化=ブランドの成長をどう描けるか

このnoteの冒頭で、「ブランド拡張とはある領域で築き上げたブランドの資産を別の領域に進出する際に利用する」と説明しましたが、このことによって、ブランドが実体から離れて概念が独立していく状態が生まれます。

これは最初ブランドと商品が「1:1」の関係であった状態から、ブランド拡張によって「1:多」の関係に変化すると、ブランドは1つの実体だけで説明できなくなり、概念が一人歩きし始める、ということです。
ブランド拡張を考える上でこの理解が極めて重要です。
 
少し例を見ていきましょう。
 
みなさん自動車の「レクサス」はご存知ですよね。
レクサスを高級自動車ブランドと思っている方は多いと思いますが、実はモーターボートのブランドでもあります。

レクサスが自動車だけであった場合は、高級自動車ブランドという理解で良かったのが、モーターボートまで含むとなるともう自動車ブランドという枠では収まりきれない。モーターボートも合わせた新しい概念が必要になるわけです。レクサスのHPでは、レクサスブランドを「ラグジュアリーライフスタイルブランド」と称しています。
まさにブランド概念が実体から離れて独立した状態ということです。
 
このことを踏まえて巧みなブランド拡張のケースを2つご紹介します。
 
1つ目は「ライザップ」です。

ライザップは「結果にコミットする」というブランドプロミスをベースに、「スポーツジム」から「英会話」「ゴルフ教室」「料理教室」「ウエア」などへとその「実体」を広げています。

これにより、「ライザップ=パーソナルスポーツジム」という当初のブランド概念から、「ユーザーのなりたいを叶えるパートナー」といったようなブランド概念へと変化・成長しています(させています)。

このケースの場合、「なりたい」ことであれば基本なんでも良いと思いますので、叶えるためのメソッドさえしっかりしていれば、様々な事業へとブランド拡張していけると思います。

このようなタイプを「ブランド起点型ブランド拡張」と言います。
 

次は、ビジススクールの「グロービス」です。

グロービスでは「ビジネスの成功者になりたい」という消費者の目標・願望に対して、最も手軽な「ビジネス書籍」を入り口に、「ビジネス書籍」→「単科型スクール」→「MBA大学院」→「ベンチャー投資」へと重層的にブランド拡張を展開しています。

つまり、ターゲットのビジョン・目標の導線上に事業領域を広げていく方法で、このようなタイプを「ユーザー起点型ブランド拡張」と言います。
 
ライザップにしろ、グロービスにしろ、起点を軸にブランド概念の変化・広がりを描いて、そこに向けて意図的に拡張させていく、というのがブランド拡張を有効に行う、1つの方法です。
 

ブランド拡張のもう1つの方法論

前述した意図的・計画的なブランド拡張に対し、NGだけを決めて緩くブランド拡張させるケースもあります。その代表が「楽天」です。

https://rakuten.today/tech-innovation-ja/rakuten-optimism-2019-brand-strategy-j.html?lang=ja

楽天は、楽天市場からスタートし、楽天銀行、楽天カード、楽天モバイル、楽天マガジン、楽天トラベル、楽天ビューティ、楽天デリバリーなどなど・・・、あらゆるジャンルへのブランド拡張を続けており、そこにブランドとしての一貫性は一見見出しづらい状況があります。三木谷氏はこの状況を、「楽天主義でとりあえずやってみて、その中でみんながハッピーになるようなプラットフォームになれば良い」と語っています。また、楽天のブランディングをサポートしている佐藤可士和氏は、楽天は「キティ型」で、ミッキーのような上から統制する欧米型のブランド管理ではなく、NG以外は全てOKというスタンスで自由にブランド利用できる、日本ぽいブランド管理スタイルではないか、と語っています。
 
楽天のやり方が日本ぽいのかはわかりませんが、自然発生的にブランド拡張を行うやり方は、確かにライザップやグロービスとは大きく異なります。

それでも筆者は、例えば「楽天デリバリー」「楽天スポーツ」など楽天がつく名前を聞くと、何かこれまでにない新しいサービスを提供してくれるのか、と期待してしまいます。だとするなら「常識の変革者」こそが楽天ブランドの概念であり、仮に明文化されコントロールされていなかったとしても、その概念が守られる限りブランド価値は維持される、いわゆる「ブランド起点型ブランド拡張」と言えるかもしれません。
 
ただし、明文化されコントロールされないと、その概念が守られない可能性も高くなるはずで、そうなった場合、様々な事業へと広く影響が及ぶ大きなブランド毀損につながるかもしれません。
そういう意味では「N G」として決める内容がとても重要ということになります。
 

最後に

繰り返しになりますが、ブランド拡張は上手に展開できれば新商品・新事業の成功確率を高められますが、うまくできないと新商品・新事業の売り上げだけでなく、これまでの主力商品・主力事業の売り上げまでも減少させてしまう可能性を持っています。

それゆえ、やはりブランド概念をどう守り、どう育てていくのか、その構想感はやはり重要で、それを厳密に行なっていくのか、緩く行なっていくのかの方法論は選択の余地がある、ということではないかと思います。
 
 
 
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