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3年連続売上200%アップを実現する、アソビューのメルマガ戦略

みなさんこんにちは。
マーケティングディレクター兼データサイエンティストのtohari.です。

メールマガジン経由でのチケット購入が3年連続で前年比約200%を記録した、レジャー予約サイト「アソビュー!」。同社はこれまで既存客の継続利用に課題を抱えていましたが、ここ最近の取り組みで、大きな成果を上げています。

オールドツールとも呼ばれるメルマガを使って、いかにして既存客の売上拡大に成功したのか。その取り組みは基本に忠実でありながら独自的で合理的、手本にすべきものがとても多いので、ぜひ皆様にもご紹介していきたいと思います。
*本記事は日経クロストレンドでの掲載情報(有料記事)を筆者なりの考察を交えて作成しています。

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レジャー予約サイト「アソビュー!」とは

レジャー予約サイト「アソビュー!」は、全国のアウトドア体験や、遊園地や水族館、日帰り温泉など、約650種類、2万7000を超えるプランを掲載し、予約から購入までが可能なサービスで、2023年4月現在、約1000万人の登録ユーザーを抱えています。

新型コロナウイルスの感染拡大から3年ほどがたち、リアルな娯楽施設に人が戻り始めたこともあって、23年のゴールデンウイーク期間(5月1~6日の集計)の利用者は、22年比で177%と大幅に伸長。

アソビュー登録者数の推移

アソビューは新規のユーザー獲得を得意としており、サイトに大型レジャー施設を掲載するたび、そのチケットを買い求めて新規層が登録するためです。その一方で、サービスを2回以上利用するユーザーは全体の3割ほど。

過去のユーザーの利用状況を見ると、ユーザーの定着率は、F2(2回目の利用者)だと30%、F3(3回目の利用者)だと70~80%にもなり、F2、F3の数字を向上することが課題となっていました。

同社がそんな既存ユーザーとのコミュニケーションに中心的に活用しているのがメルマガです。23年現在、会員全体の約4割、400万人がメルマガ会員となっています。

LINEやInstagramといったコミュニケーションツールが多様化する中、企業からの一方通行になりがちなメルマガはオールドツールという位置付けではありますが、同社では、メルマガはサイトに情報を登録する際にチェックを付けるだけで利用可能で、ユーザーが気軽に登録しやすい戦略的にも重要なツールと考えています。


同社が今最も注力する「N=1分析会」

今、同社が注力するのは、提案のパーソナライズ化です。
従来は属性データを中心におおよその顧客特性を分析していたそうですが、それだとユーザーが期待する提案ができていたかどうかまで、なかなか分からなかったといいます。

そこで19年ごろから、「この場所に行ったユーザーは次にどこへ行くのか」をモデル化し、似たような家族構成や趣向のユーザーに、同様の提案を行う取り組みにチャレンジし始めています。
この提案づくりの肝になっているのが、毎週1人のロイヤル顧客について深掘りをする「N=1分析会」です。

分析会では、顧客が「いつ登録し」「何を購入し」「次にどんな行動をとるか」といったことを順に追いかけ、一人ひとりの購買履歴から顧客理解を深め、提案精度を上げるのが狙いとなっています。参加するのは現場の社員だけでなく役員も参加し、会社の重要課題として進めており、さらに、隔週でユーザーインタビューも実施するなど、定量数字だけでは分からない定性的な情報も拾い上げています。

定量・定性データから出てきた仮説を実施策で試すことで検証し、その結果からアルゴリズムを改善。高頻度でPDCAを回し、メルマガの提案精度を上げているというわけです。
その結果、19年以降、メルマガ経由での購入が、3年連続で前年比200%近くになる伸びを示しています。

2019年5月~2020年4月を100%とし、各年の対象期間(5月~翌年4月)のメルマガ経由の購入伸び率を示したグラフ。3年連続で前年比200%近くになる伸びを記録している


個別のユーザー行動データを全体施策に生かす動き

「N=1分析会」で実施されている個別のユーザーデータを全体施策に活かす動きは、それほど珍しくはなく、筆者においても以前よりいくつかの案件で実施しています。

某興行系企業の顧客データ分析例

そこで分析対象とされるのは主にヘビーユーザーや離反ユーザーであり、特徴的なユーザーの詳細にフォーカスすることで、その原因や再現性に関するヒントを得ることができます。

ですが、アソビューにおいて素晴らしいのは、それを継続的に、しかも会社の重要課題として取り組んでいることです。

顧客分析は何も大量データを取り扱うだけでなく、時には1つのデータにフォーカスしたり、インタビューといった顧客の生の声を聞いたりなど、定性データもうまく取り入れ総合的に情報を見ていくことで、有効な発見に繋げることができてくるわけです。


基本に忠実なPDCAにより着実に効果を改善

アソビューが素晴らしいのは分析への取り組みだけではありません。
アソビューが力を入れる1つが「かご落ち対策」なのですが、かご落ちとは、カートに入れたのに買われずにサイトを離脱する動きのことです。そしてそれらユーザーに対し、「こちらのプランのご検討状況はいかがですか?」というメールを送信し、CV(コンバージョン=購入)してもらうことをかご落ち対策と言います。

メルマガを強化した19年のタイミングで実装し、23年にはこのかご落ち対策によるメールからCVに至った割合(かご落ちメールを送った後、1日以内に購入したユーザー)が、売り上げ全体の2割に至っていると言います。

同社ではカゴ落ち対策メールの送信に関して、19年ごろはサイト離脱から3時間後にアナウンスしていたものの、徐々に1時間後、30分後、10分後、5分後と、間隔を短くした検証を実施。その結果、最も購入割合が高くなる時間帯は「10分後」と特定し、さらに現在は、1回目が10分後、2回目が1回目の3時間後、3回目が2回目の21時間後と、最大で3回配信するシナリオを組む仕組みにまで発展させています。


“スターシステム”で新たなファンを増やす

さらに今力を入れるのが、編集部員からの「わたしのイチオシメール」と呼ぶ新たなメルマガです。1人の部員が独断と偏見で決めたお薦めプランのみを紹介するメルマガで、プランを選ぶ際、趣味の合う人のプラン選択は似通うのではないか?という仮説の元、アソビュー編集部員をある程度見える化して、「あの人が薦めるなら」というようなタイプの需要創造の取り組みになっています。
このように、CRMとは別に顧客ごとに何か施策を打ち分けるといったことだけでなく、ブランド軸の施策もいわゆるCRMの1つとなり得ます。
例えば以前メルセデスベンツは、ある一定条件を満たした顧客だけを普段第3者が立ち入ることのできない研究開発エリアに招待したりなどを行っていましたが、強いブランドの場合、特別なブランド体験自体がユーザー価値を生み出すことができます。
アソビューのケースでは、「様々な遊びスポットを知り尽くしている専門家の一押し」というコンテキストで需要創造を狙おうとしているわけです。
23年4月現在、このメールを作る編集部員は3人おり、隔週で20万人程度に配信して効果を検証中とのことです。

わたしのイチオシメール


最後に

定量・定性を組み合わせながらユーザーを精緻に分析し、効果的なメルマガを配信して売り上げを高めるアソビュー。N=1分析などから生まれた仮説を検証していくことで、さらにユーザーにマッチした内容に進化することが予想されます。

アソビューで実施されている内容は決して斬新なものではありませんが、基本に忠実にかつ自社事業にあった内容をしっかり取り組むことで大きな成果に繋げることができる、というとても良い事例だと思います。
こうした好調をけん引するメルマガ運用法は、他の産業にも参考になると思いますので、興味ある方は実際にご自分でもメルマガ登録してみて、どんなことをされているのか確認してみるのはいかがでしょうか?


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