見出し画像

コンサルタントの顧客体験(CX)設計術

現代社会は経験経済の時代へ

現在社会は経験経済の段階に入ったと良く言われます。経験経済とは、経済の発展段階を示す言葉で、商品やサービスを求めるモノ経済から感動や喜びなどの特別な経験を求める「経験」経済の段階に入ったとする主張のことです。 アメリカの経営コンサルタントのパイン (B. Joseph Pine II) と ギルモア ( James H. Gilmore) によって提唱されました。

日本においても平均的な生活水準が一定レベルを超え、多くの市場でコモディティ化が進み、モノによる豊かさ(文明的豊かさ)よりもココロの豊かさ(文化的豊かさ)を求める時代に大きく変わってきています。それに伴い企業のマーケティング活動も「CX(顧客体験)」を重視した取り組みが増えています。

 

顧客体験とは「ココロが揺さぶられる時間」と解釈する

体験というと「実際に自分で経験すること」という意味が辞書的には正しいのですが、マーケティング活動においてはそのように直接的に捉えてしまうと、何かのイベントだったり、接客やサービスだったり、WEBサイトのユーザビリティだったりと施策が限定的になってしまいがちです。

ですが、マーケティングの最終的な目的はファンの創造ですので、もっと広義に「ココロが揺さぶられる時間」という解釈で良いかと思います。そのように考えればTVCMでも、ネット動画でも、もちろんイベント、接客、サービス、チラシでも、あらゆる活動がそれを提供できる場に変わってくるはずです。ブランドからのメッセージが消費者のココロに届き感動や喜び、気づきなどを生むことができれば、必ずそこには「好き」という感情が生まれてくるはずです。顧客体験を「ココロが揺さぶられる時間」と解釈する、まずはここが経験設計のスタートラインだと思います。
 

ココロが揺さぶられる時間づくりのポイントとは?

ココロが揺さぶられるといっても、色々な揺れ方がありますよね。顧客体験の目的はブランドファンを作ることなので、基本的にはプラスに働く揺れ方、言い換えれば「ときめき」を作る、ということだと思います。
 
例えば、ある商品のTVCMを見かけたとします。そのCMでは新しく発売されたその商品について、「こんなにすごい」「こんなにキレイ」などを伝えています。このようなCMを見て、あなたのココロはときめきますか?おそらくよほど革新的な商品でない限り、ココロが動くことは少ないでしょう。
 
では次に、こちらの映像をご覧ください。

こちらはIKEAの商品CMで、カンヌライオンズ2023のFilm部門でゴールドを受賞しています。
このCMの中で商品は、ベビーベッド、チャイルドチェア、ステップ台が登場していますが、商品のことは画像、商品名、価格が数秒表示されるだけで、CMの主役は小さな子供を抱える両親の姿です。そしてCMの最後に「Proudly Second Best」というメッセージが流れます。

つまり子供達にとっての最高のベッドや椅子は、母親の腕の中や父親の膝の上であり、IKEAの商品はそれに次ぐ2番目のベストでありたい、という思いを伝えただけで、実際に2番目のベストであるかどうかの仕様や機能には全く触れられていません。

このCMを見て多くの人は自分の両親を思い浮かべたのではないでしょうか?もしくは小さな子供のいる人であれば、子供への愛情を改めて確認できたのではないかと思います。それは普段の日常の中でちょっとした感謝、愛情を感じる「ときめきの時間」になったはずです。そしてこのような時間を提供してくれたブランドに対しても、少なからず好意や共感を持ったのではないかと思います。

筆者はこのような取り組みも1つの顧客体験と言えると思いますし、商品のことをほとんど伝えなくても、ブランドを好きになってもらうことができるわけです。
 
このようなCMだけでなく、顧客体験の形はもちろん他にもいろいろあります。
わかりやすい例として、あるレストランの事例をご紹介します。

このレストランでは待ち合わせで先に来て待っている顧客様に、ドリンクのサービスを行っていたりします。レストランに少し早く着いて待っている時間は手持ち無沙汰で、お店の人に対しても何も注文しないでいるのは少し気が引けます。そんな時、お店の人が逆に声をかけてくれ、気持ちよく待っている時間を過ごせるようにとドリンク提供をしてくれる。そんなお店があったら「また来たい」と思いますよね。もちろんこれも顧客体験の1つであり、接客マニュアルに落とし込むことができれば、再現性ある取り組みにしていくことができます。
 

顧客体験づくりのもう1つのポイント「一貫性」

IKEAのCMであったり、レストランのドリンクサービスであったり、それぞれ素晴らしい顧客体験だと思いますが、単発で終わってしまっては、効果も限定的です。顧客体験づくりのもう1つのポイントは「一貫性」です。

一貫性には大きく2つがあって、1つは縦の一貫性。これは1度だけの取り組みに終わらせず、継続的に行うことを意味します。もう1つは横の一貫性。横とは顧客との様々なコンタクトポイントで一貫的=同時的に同様の取り組みを展開していくということです。それぞれ見ていきたいと思います。
 

ケース1:DOVE(縦の一貫性=継続性)

DOVEは日本でも有名なユニリーバ社のスキンケアや石鹸のブランド。長年、REAL BUATY(メークして同じような顔になるのではなく、その人自身が持っている本来の美しさを大切にしよう)というコンセプトでキャンペーンを展開しています。

直近ではコロナ禍において行った「COURAGE IS BEAUTIFUL」というキャンペーンがとても有名です。コロナ感染患者の対応のため、医療従事者は防護服を着用したままの長時間勤務により、肌は荒れ顔についたゴーグルの跡も痛々しい。ですがダブは「その勇気が美しい」と称え、感謝の意を表しています。この広告キャンペーンは2020年のカンヌライオンズのグランプリ受賞作にもなっているのですが、DOVEは毎年テーマを変えこのようなキャンペーンを展開し、DOVEらしい顧客体験づくりを継続しています。


ケース2:MINI(横の一貫性=同時的)

MINIは、「World's most exciting small car.(世界で最も刺激的なスモールカー)」と定義しています。そのブランド性のPRにあたり、マス広告、WEB広告、WEBサイト、OOHなど様々なコンタクトポイントを使って統合的なキャンペーンを展開しています。

雑誌広告では広い紙面にあえて小さく MINI を配置し、自由に走りまわっているように タイヤ痕を残すことで、エキサイティングなクルマであることを伝えています。

雑誌広告


WEB広告では、「ブルース・リーは、たったの135ポンド(約60kg)だった」「ナポレオンは5フィート2インチ(約155cm)しかなかった」「ポパイは5フィート3インチ(約157cm)だった」というふうに、小さいけど強い人々を MINI の価値と重ね合わせて表現しています。

WEB広告


OOHでは、小さくて楽しい車を連想させるためにMINI の実車をショッピングモール内に子供が小銭を入れて 乗るのりものに見立てて置いたり、大型 SUV に乗せて街に停めたりしています。

OOH

 
縦にしても横にしても、一貫的に何かを行っていくためには、「〇〇とは何か」ということが明確に定義されている必要があります。その点において、DOVEでもMINIでも明確に定義されている好例と言えます。

マーケット(売れる場)を拡大するために企業が陥りやすい罠は、 ターゲット(目標とする顧客)を広げてしまうことではないでしょうか。 必要なのは、顧客の意識の中にポジションを獲得することであり、そのためには明確な定義が必要で、それがあって初めて一貫的に取り組むことができるようになります。さらにそれだけではブランドの独りよがりになってしまいかねないので、そこに「受け手のときめき」という要素を加えることで、ブランドならではの顧客体験を設計していくことができるようになります。
 

顧客体験設計例(「横」の顧客体験設計)

最後に、ブランド定義が明確であることを前提に、どのように顧客体験を設計していくのかについて、ご紹介していきたいと思います。
 
こちらはある自動車ブランドの顧客体験を想定して描いた設計図(の途中)です。(あくまでも筆者の想定で作っていますので、その点はご容赦ください。)

この設計図作りにおいて最初に行ったのが、「顧客ペルソナ」作りです。ペルソナの作り方についてはここでは割愛しますが(詳しくはコンサルタントのペルソナ規定術をご覧ください)、まずブランドが対象とする顧客ペルソナを描いた後、そのような顧客が車を欲しいと感じてから購入後のメンテナンスに至るまで、購買行動を各ステップに分解し、ステップごとに現在の問題点とどうしたら良いかを「ときめき」の視点で考えいきます。この時、ブランド定義とペルソナがある程度しっかりしていれば、この作業自体はそれほど難しくはないと思います。

このようにコンタクトポイント全体を俯瞰することがとても重要です。そうすることで、提供すべき「顧客体験」のあるべき姿が見えやすくなってきます。大きく捉えて細部に落とし込む、これが顧客体験設計のポイントになるはずです。
 

 
【お仕事のお問い合わせは以下からどうぞ】
各種マーケティング施策(WEBマーケティングやサイト制作、CRM・データ分析、ブランディングなど)や商品・事業企画についてのアドバイス、社内セミナーや研修会などの依頼も受け付けております。週一の定例ミーティング、月イチや隔週での壁打ちなど、色々な形態で、それぞれの事業者様に応じた価格にて行っておりますので、お気軽に以下よりご相談ください。

 




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?