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会社を退職して修士課程(数学専攻)へ進学した話

某大学大学院の数学専攻に社会人枠(?)として合格を頂けたので、記録を残します。(2024年4月入学)

社会人からMBA(経営学修士)取得やNAIST、JAISTへの進学は割とある話ですが、数学専攻へ転身するのは珍しいかな?と思います。

※本記事には院試対策の勉強法に関する内容は含まれていません。ご注意ください。

この記事を3行で、

  • 恐怖!全財産300万弱で退職して大学院進学

  • 数学専攻がある大学院、マジで少ない

  • 「社会人入試」にもいろんな種類がある(就業必須、経験のみで良いetc..)


1. お前は誰だ

  • 学士(工学)

  • 受験時の身分:IT土方の社会人3年目

  • 数学科目の教養:線形代数と微積分ぐらい。集合、解析、確率統計も履修はしていた。位相、代数、幾何は本当の無。

  • TOEIC(L&R):2021年12月に790点とって満足して以降、なにも英語をやっていない。

2. なんで社会人から大学院へ?

なんで社会人から修士課程に?とか、なんで学部の時とは違う専攻(工学→理学)に?とか色々突っ込みどころがあると思います。

理由は主に2つありました。

  • 学部時代の数学授業(ベクトル解析系)の興味の追究

    • B3あたりに、上述した自分の履修済み数学科目だけじゃ数学領域の指先にもたどり着いていないことを知る。悔しくなる。

  • 学び直し、Uターンが普通になってきた世の中に乗じて

    • 特に知人で一人、社会人修士(社会人の身分でありつつも修士として研究活動を行う人)をやっている方がいるため身近な選択肢としてあった

    • 会社の休職制度を利用してノーリスクで進学できるかも?と考えていたりしてた

クリティカルなきっかけとしては2つ目の理由にある「身近な人が社会人大学院生をやっている」のを知ったことでした。

そういう生き方もあるのか~と悶々と考え始めるようになり、2023年2月頃から本格的に「大学院に戻ろう」と決断をしました。

3. 数学のどの分野をやるか

肝心の分野ですが、幾何学を専攻できる研究室を探しました。

なお、一口に幾何学と言っても図形の分類に主眼を置いた「位相幾何学」図形の傾きや曲がり具合に主眼を置いた「微分幾何学」の2つに大別されるのですが、当時の私はそんなことはいざ知らずでした。
(工学分野により密接な関係にあるのは微分幾何学)

筑波大学幾何グループ様(http://www.math.tsukuba.ac.jp/~tange/open2014kika.pdf)より

大学の幾何について、腰を据えて勉強するほどでもないけどなんとなく知りたい、という場合は以下の書籍がオススメです(気持ち微分幾何学多め)。

4. 大学院試験の軌跡

2023年2月から、大学院入試がある同年8月に向けて本格的に動き始めます。

2023年2月~ 面談

とにもかくにも受け入れ希望先の教員へアポをとらなければ始まりません。

インターネットで幾何学を研究している研究室がある大学を探し、その中でも自分がやりたいと考えている幾何学に一番近いことをやってる某大学の研究室へ面談を持ち掛けるため、早速教員へメールを送る。

メールを送信して10日ほど経った後、ついに教員からの返信が。

外部からの修士受け入れは可能です。
面談は●月●日××時~研究室で行いましょう。

忍耐力勝負は私の方が一枚上手でした。

面談当日。有休を使って大学へ足を運び、教員と顔合わせをする。
自分の身分と大学院で数学やりたい旨を話すと、「いいんだけど、君みたいなパターンは初めてだな~…」と本音を言われる。

どうやら世の中が言っている【学び直し】というのは博士課程へのUターンだったり社内で完結するリスキリングのことを指しているようで、「社会人から急に修士へ行きます!でも専攻は違います!」という人は稀有そう。私はメディアの報道に操られている傀儡だったようです。

面談も終盤に差し掛かったころ、唐突に
数学どれくらいわかります?線形写像とか定義分かりますか?
と聞かれる。まさか学力チェックをされるとは思ってもいなかったので、
「ひぃん・・わ、分からない、です・・・」
と、可愛げ0の大崎甜花と化すことに。

小声で「2年じゃ修了は厳しいかな・・」と言われて面談は終了。終わり。

ちなみに、線形写像はベクトル空間において和と定数倍が保存される写像のことを指します。

2023年3月~ 要項確認

とにもかくにも教員から受け入れ許可は頂けたので、次に大学院入試の要項をしっかり確認する必要があります。

要項を取り寄せて筆記試験の範囲を確認します。自分の希望する数学専攻は以下のような感じでした。

以下の8科目の試験を行います。(試験時間240分)
①線形代数
②微分積分
③集合
④位相
⑤代数
⑥幾何
⑦解析
⑧確率・統計

試験要項より(意訳)

多すぎるっピ!!!!!!!!!!!!!

「TOEICで点数は多少リードできてるとはいえ、さすがに筆記6割は欲しい・・でも過去問見ても難しい問題たくさん・・院試わからないよ~;;」

頭を抱えている猫ミームと化すことしかできない。
ここで終わるしかないのか・・そう思った矢先、とある言葉が眼前に飛び込んできました。

「社会人特別選抜」

内容に一部モザイク入れています。

選抜方法:面接試験のみ

内容に一部モザイク入れています。

これや!!!!!!!!!!!!

しかも要項を読み進めていくと、次のように書かれていました。

条件:社会人としての経験が1年以上あること(現在の就労状況は問わない)

試験要項より(意訳)

つまり、入学後も社会人であるかどうかは問題ではないのです。
なんという神の福音でしょうか。

2023年時点で社会人3年目の私は、ここで一般選抜ではなく社会人入試という裏道を使うことを決定しました。

2023年4月~ 嵐の前の静けさ

以前面談をした教員に「社会人入試」で出願したい旨を伝える。最初の顔早生で自分の身分は明かしていたので、ここの会話はスムーズにおわりました。

また、このとき並行して東京都内の国公立大学・大学院で数学専攻に関して社会人入試が実施されているかを確認していました。実施有無は以下のようです(2023年時点)。

東京大学、東京工業大学:無し(一般選抜も受かる見込み無し
東京農工大学:あり(ただし、筆記は免除されない&教員の所属が化学系)
電気通信大学:あり(ただし、筆記の代わりに小論文が課される&教員の所属が工学系)
東京都立大学:あり(ただし、筆記は免除されない&入学後も就労をしていることが条件なのでうま味無し)
お茶の水女子大学:あり(ただし、当方男性のため受験資格無し)

自分の条件と合わなかったので、結局これらの大学の社会人入試制度は利用しませんでした。


余談ですが、東京都内で理学系の専攻がある国公立大学・大学院はおそらく上に挙げたもののみでした。
今の日本は大学が増えすぎている!みたいな問題をたまに聞くけど学問によってかなりの偏りがありそうです。

旺文社教育情報センター様作成記事(https://eic.obunsha.co.jp/file/educational_info/2023/0817.pdf)より

・・本当に数学分野増えてる?

2023年5月~ 筆記を受ける

「研究計画書いて面接だけだから7月中旬から動けば余裕だなガハハ!w」と高をくくっていたある日、教員から1通のメールが届きました。

「基礎学力を見たいから、独自に私が作るテストを受けろ」
「6割切ったら社会人入試の出願は断る」

???????????????????????????????????????????????????????????????????????さすがに予定外です。詳しく話を聞くとどうやら、
外部のよく分からない
数学やってない人間を
学力をなにも確認せず
受け入れるわけにはいかないねぇ!とのこと。ぼく、あたまが ヘンになっちゃったよぉ……

基礎学力を見る科目は以下の4つとのこと。

1⃣線形代数(行列式の計算など)
2⃣微積分(重積分や極値など)
3⃣集合(同値関係、群・環・体など)
4⃣幾何(曲率や捩率など)
の基本事項

受けるテストのざっくり区分

もう後戻りはできないので、覚悟を決めて3週間ほど、終業後や土日を使って勉強を詰め込みました。

勉強するにあたって、以下のサイト様や書籍を利用していました。

線形代数:

また、2月の面談で線形写像を答えられなかったので線形写像の定義も覚えておく。

微積分:

幸いなことにこの分野は記憶が結構残っていて、勉強自体はスムーズに1周することが出来ました。

集合:

勉強してて一番ヤバさを感じ取る。とりあえず写経するが何も分からん。

幾何:

幾何分野は具体的な計算が煩雑になりがち&希望の専攻だったため、別解で検算もできるように重点的にやっていました。


そして試験当日、有休を使って再び大学へ。
約束の時間に5分ほど遅れるというADHDの風上にも置けるムーブをしてしまうものの、教員も遅刻してくれたので奇跡的に事なきを得て試験開始。
「5分ぐらいの遅刻ならどうとでもなるな」と負の成功体験を得てしまう。

肝心の試験ですが、本来の筆記試験と比べると大分温情を頂けた難易度だな、という印象でした(写真等についてはゴメンナサイ)。基本的には勉強の甲斐あって答えまで書けたのですが、3⃣集合は何一つ解けませんでした。

そして100分ほどの試験が終わり、緊張の丸付けタイム(目の前で採点された)。シャッ、シャッ、と機械的に私の人生の答え合わせがされていく~。

丸付けが終わって教員の口が開く。「うん、この点数なら問題ないですね(ぱっと見80点ぐらい)」

生きてる~;; なんとか首の皮1枚を未来へつなげることができました。

ここからは、8月の面接に向けて研究計画書とスライドを作る作業に本腰を入れていきます。
研究計画は科学研究費助成事業データベースから教員の名前を検索してキーワード・研究概要を見て、なんとか文章を錬成していく。

スライドは「元気です!頑張ります!!」とか「社会人には数学力が必要です!」とか取って付けたようなカッスカススライドを錬成。

とはいえ、この2つは自分で完結させるには荷が重すぎるので教員に何度か確認をしてもらって磨き上げをしていく。

また、この時期から会社でも「休職制度を使えるかどうか」を上司や総務に聞いていました。結論「自己都合による学び直しのための休職制度は無い」とのことだったので、ここで本格的に退職を考え始めることに。

2023年8月~ 面接試験

2週間ほど前に受験票が手元に届くので、日時と集合場所を間違えずに大学へ足を運びます。この日は遅刻せずに到着。
ちなみに、修士課程の社会人入試受験者は理工学系の専攻全体で3人、数学専攻は私だけでした。もしかして我異端ぞ?

お守りというほど大層なことでもないけど、過去の試験実施状況を大学HPから見て、「平均点取れば絶対受かる平均点取れば絶対受かる平均点取れば絶対受かる・・」と控室で詠唱して心の平静を保つ。

本番の面接試験は「①スライド発表8分程度」をした後に数学専攻教員たちとの「②質疑応答」の形式。
スライドは練習通り終えることができ、質疑応答では以下のような質問が飛んでくる。(他にも質問あったかもしれないのですが記憶に残っているのはこれだけでした)

  • ストークスの定理について説明して

  • 君の卒論の概要説明して

  • 今の君の仕事と数学に何の関係が?

  • 自分オモロイなぁ~。何したいん?(CV.斎賀みつき)

スライドに入れておいた「ストークスの定理」という言葉に素直に引っかかってくれてとても助かました(指導教員のアドバイスのおかげです。ありがとうございます)。
この定理を思い出すにあたっては、以下の動画を参考にさせて頂きました。

卒論の概要や仕事と数学の関係性、挙句にはチリちゃんの口調で存在理由を問われ、なんとか回答しようとするも支離滅裂な言動となり、後藤ひとりの顔面になったまま終了。

面接終了後、控室で教員から「お疲れさまでした😅」と苦笑いされる。終わり。残念ですが さようなら。一生大学の晒し者。

5. 結果

数週間後、大学からレターパックが届きます。開封してみると、中には

受かってる~;;

(透かしで背景に大学名がプリントされてたので、画質ガビガビにしています)

なんと無事(?)、社会人制度を用いて2024年度4月入学の修士課程に受かっていました。合格の二文字がもらえて、普通に現金より嬉しかったです。

上司っちにもウキウキで、明確な退職意思を伝えました。

退職宣言時のイメージ

以上が、私のおよそ半年にわたる大学院入試の軌跡になります。社会人入試はニッチなので需要は少ないかもですが、誰かのためになれば幸いです。

6. 振り返って

  • 「学び直しが当たり前」は(2024年時点)半分本当で半分嘘。Uターンで数学を学び直すのはマジの異端児。

  • 本記事では割愛してしまいましたが、社会人入試を受ける場合、上司の推薦状のようなものが必要になることがあります(リンク先は様式サンプル)。会社の方へも早めに根回しできるように、日ごろから友好な人間関係を築いておこうね!

  • 社会人が有休使って教員と面談するなら、志望先は2つまでに絞った方が無難。面談や打ち合わせや書類作成、そして試験本番等の度に休むので有休が消えます。

  • 一口に「社会人入試」といっても大学ごとに条件が異なるので、あきらめずに要項を確認しよう。思わぬところに裏道レールがあったりします。

さて、ここからは生存戦略が重要です。私の人生は一発芸なので、恐ろしいことに2年後の未来について何も考えていません。
退職時点での全財産は300万円程度。何とか2年間生活できるでしょうか?

1年ほど経って、中間報告できたらと思います。


あ、引越しとか税金の支払いでもう30万円近く減ってる・・

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