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いきものって、おもしろい!


ある時、事務所で作業をしていたら、「ポトッ」と何かが落ちる音がした。なんだろうと思って見てみると、そこには大きなカマキリがいた。窓は閉めているのに一体どこから入ってきたんだろう?今までだったら、そのあと何も考えずに外に逃していただろう。だけど、その時の私は「こいつは実は、すごいやつなのかもしれない」と思ったのだ。

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というのもちょうど数日前、この動画を見ていたからだ。(※虫がたくさん出てくるので平気な人だけご覧ください。)

虫は、成虫になるまでに多くの危険が待ち構ええているため、1匹の産む子どもの数が多い。カマキリも例外ではない。カマキリの子どもたちは300匹生まれても、その中で生き残れる数はわずか2~3匹。そう聞くと、目の前にいるカマキリは、数多くの天敵から逃れてきたちょっとすごいやつに見えてきたのだ。


豊かな自然が残る地方では、様々な生きものに出会う機会も多い。ホールアース自然学校富士山本校がある柚野でも、クワガタやオニヤンマ等探さずとも出会えてしまうことがある。さらによくよく探してみれば、ゾウムシ等、街中では見つけられないような虫がたくさんいるのがわかる。

シギゾウムシの一種 敷地内 210901 (2)

しかし目に見えたからといって、彼らの生態の不思議さや面白さに気づけるわけではない。虫が好きな人なら自分で調べたりして発見できるかもしれないが、そういう人の方が少ないだろう。実際、地方では子どもたちを取り巻く環境として「自然に興味を持っても、楽しく教えてくれる人が少ない」という現状がある。そこで、子どもたちの置かれている環境に関わらず、虫たちの生き様を学べる機会を提供しようと、YouTubeでの動画コンテンツを企画・発信する“You虫部(ゆーちゅうぶ)”のプロジェクトが始まった。

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登場するのは“むしハカセちょびひげ”こと小野比呂志。普段は、環境省田貫湖ふれあい自然塾で、来館した方々に自然の魅力や生きものの面白さを伝えている。You虫部の動画の中では、もじゃもじゃのアフロヘアーと白衣、そしてその名の通り、ちょびひげがトレードマークだ。

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そんな小野は2児の父でもある。You虫部の動画が、親子の関係を深めるきっかけのひとつになったらと嬉しいと思っている。


「嬉しいことに、親子で更新の日を楽しみにしてくれているご家庭もあるんだよね。You虫部に限らず、そうやって親子で共に過ごす時間は、忙しい今の世の中、とても大事。なぜなら僕たちがyou虫部や自然体験プログラムで視聴者や参加者に関われる時間は、ほんのわずかだから。でももし親子でyou虫部を見て、子どもの好きな世界を親御さんが理解してくれたら、家族みんなで身近な生き物を楽しもう!となる。そうすると、子どもの育つ環境の中で最も長い時間を占める『家庭』が変わる。これができたらスゴイこと!虫の苦手は結局知らないさわったことのないの裏返し。できるだけ身近な生き物に触れるチャンスを作るのが、自然を理解する一歩。家庭がその役割を担ってくれたら、これほど心強いことはない。」


プロジェクトが始まった当初は、親子で見てもらうことを想定していたが、共働きの家庭が増えている現代では、子どもだけでYou虫部を見る時間も多いだろう。虫たちは、どんな場所で生きているのか、どんな得意技をもっているのか、そういった知識を楽しくわかりやすく伝える工夫もしているが、一方で「自然の中では思い通りにいかない」という姿も見せている。虫の知識なら様々な媒体で学ぶことができる。でも「本当はどうなんだろう?」と、自分の目で確かめてみることもとても大切だ。

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You虫部の動画の中では、小野自身が虫に対して浮かんだ疑問を調査するような回がいくつもある。例えば、ある回では、トノサマバッタの飛距離を調査した。50m飛べるというが、実際はどうなのか?スタート地点から飛んで行ったトノサマバッタを、メジャーを持って追いかけた。ところが、彼らは思わぬ方向に飛んでいき、なかなか測定することができなかった。
【トノサマバッタ②】ハプニング続出!?バッタだらけの大運動会!

また、昆虫は大人になったら翅が生えるが、「アメンボやハサミムシは本当に翅があるのか?」「飛ぶことができるのか?」彼らを様々な環境において観察をしてみたこともあった。
【水生昆虫アメンボ!】つかまえて本当に飛ぶのか実験してみた!
【ハサミムシ】飛んでいる姿を見てみたい!実験してみた

上手くいかなかったり、想像していた答えとは違う結果になることもある。だけど、動画を通して「失敗してもいい」「自分が思ったことをやってみることが大事」ということも、感じてもらえたら嬉しいと思っている。


そもそも、You虫部のプロジェクト自体、ホールアースにとって「動画コンテンツでも人と自然、人と人をつなぐことができるのか?」という“実験”でもある。もしかしたら大失敗するかもしれない。だけど、それでも試行錯誤を繰り返しながら、そして楽しみながら活動を続けることができるのは、仲間の存在があるからだと、小野を含めプロジェクトのメンバーは感じている。

「チームでやるのがすごくいいと思うね。ひとりだと、煮詰まって孤独になって、仕事が尻つぼみになるってパターンはありがち。でもチームだったら支えられる。僕は、コミュニケーションで大切なのは、“質よりも量”だと思っているんだよね。すごくいいことでも1回話しただけじゃ忘れがち。くだらない話でもいいから、たくさん話した方がその人への信頼感とか、話しやすさとか、相談しやすさとか、そういうのは増えていくと思う。」

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実は、プロジェクトチームを構成する5名は、小野の他にカメラマン担当の松尾、広報担当の吉川がいる富士山地区と、マーケティング担当の和田と編集担当の杉澤がいる福島地区と、2つの拠点で離れている。普段5人が集まる機会はなかなかないが、その分、オンライン上で密にコミュニケーションをとるようにしており、中でも特に雑談を重視している。というのも、好きなお笑いなど、一見企画と関係のなさそうな話題でも、やりとりを重ねていくうちにお互いの価値観や裏にある思いも見えてくるからだ。

YOU虫部集合写真(笑顔) (2)

You虫部を通して伝えたい思いはたくさんあるが、見せ方や構成的な部分は時代に合わせたいと考えている。そんなときにヒントになるのが、メンバーが好きなお笑いやバラエティー番組だ。雑談の中で、面白いと思う観点を互いに理解できていると、撮影時に「(編集の)杉澤だったらこういう場面を面白がるのではないか」と想像しながらアイデアを膨らませていくことができる。ストーリーの基本的な流れや構成は事前に共有しているものの、「現場であーでもないこーでもないと言いながら作り上げていくのも楽しい」と松尾は言う。

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小野が書いた脚本に、松尾もアイデアを加えながら撮影し、その思いをくみ取り杉澤が編集していく。時に、杉澤の編集は、小野と松尾が予想していなかったツッコミなども加わり、いつも出来上がるのが楽しみだという。そして、その作り上げられた動画が実際にどのくらい再生され、どんな反応があるのか、分析や考察をしているのが、このプロジェクトの発起人でもある和田だ。関わっている様々なコミュニティに向けてYou虫部を紹介しており、その中で色んな意見をいただくこともある。どんなニーズがあるのか、そこにどんな可能性があるのか分析し、企画に反映させていく。プロジェクトメンバーそれぞれが適材適所で、作品作りに取り組んでいる。


そんなメンバーたちも、世の中のユーチューバーと同じく、チャンネル登録者数や動画の再生回数を増やしていくことは課題の一つだと感じている。広報担当の吉川は、Instagram(@insect_chobihige)で虫の生き様や、子どもたちが疑問に持ちそうなことを、美しい写真やかわいいイラスト付きで解説して発信している。それをきっかけにYou虫部のチャンネル登録をしてくれた人も多い。目標の登録者数に達するには、日々の積み重ねが大切だ。もちろん、登録者数や再生回数だけがすべてではないが、より多くの人に楽しんでもらうにはどうすればいいのか、様々な切り口を試している。動画の内容は、虫を探したりつかまえたりする回が好まれがちだが、虫と関わる中での面白さは、つかまえることだけではない。彼らの行動を観察しながら、彼らが感じていることを想像してみるのも面白さの一つだという。
【アフレコ6選】あのときこの虫どんな気持ち!?

「虫に気持ちなんてあるの?」そう思う人も多いかもしれない。実際、虫たちに気持ちがあるのかどうか、はっきりしたことは解明されていないが、むしハカセちょびひげは「虫に感情はある!」と言い切る。その虫たちの気持ちを想像してみるというのは、楽しいだけではなく相手を思いやる気持ちを育むことに繋がってくるという。

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「セリフを想像するということは、つまり違いを楽しみながら、相手の気持ちを考えてみるということ。みんなも楽しんでやってみてねというのは、相手の気持ちになってみてね、というメッセージ。それは嫌いな虫じゃなくてもよくて、人以外の生き物、鳥や動物や魚などになりきってセリフを言ってみるのは遊びとして面白いのでオススメ!違いを楽しむということが身に付けば、周囲の人とも仲良くなれる。人もまた1人として同じ人はいないからね。違うというだけで、宗教や人種などの違いを乗り越えらえずに世界でたくさんの争いが起きている。違いを楽しむ人が増えたら、世の中もっと平和になるんじゃないかな。」



虫が苦手な人はたくさんいるだろう。そんな人々に、無理に押し付けようとは思っていない。しかし、食わず嫌いにはなってほしくない。過酷な自然界を生き抜く虫たちの生き様を知ると、怖さが少し減るかもしれない。興味がない人でも、彼らの個性や不思議な生態を知ることで、虫への見え方が変わってくるかもしれない。虫は、人間の身近にいるが、生き様を知らなければ遠い存在だろう。だが、彼らは小さいながらも生態系の中で重要な役割を果たしていて、その存在は人間にとっても不可欠だ。人間とは生き方が全く違うが、虫も同じ地球で一生懸命生きている。個性豊かな虫たちの生き様から、学べることは多い。そして、そんな魅力を知っていったら、見える世界が変わってくるのではないだろうか。まだまだ虫の世界には、人間が知らないことがたくさんある。むしハカセちょびひげと一緒に、そんな世界に飛び込んでみてほしい。

むしハカセ写真


【おまけ】
▼初めてYou虫部を見る人におすすめの動画
【虫あみ①】全集中、虫アミの舞3つの奥義!
【春を告げる虫】空中で止まる!?謎の虫のヒミツに迫る!

▼虫はかせの「大変だった!」動画
【春の白いチョウ①】検証!白いチョウはモンシロチョウだけ?
【春の白いチョウ②】幻の白いチョウ!?ツマキチョウを追う!クイズもあるよ♪

▼カメラマン松尾の「一線を越えた!」動画
【アシナガバチ②】実食!むしハカセの好きなアシナガバチの食べ方


You虫部は毎月8のつく日に更新しています!

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