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WENSのPJ vol.2 "富士山麓ジビエ"

「今から鹿一頭入れられるか?」

 獲物を捕らえた勢いそのままに電話をかけたのか、猟師さんの声はいつもよりトーンが高く、少年からの電話のようにも聞こえます。

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 ホールアースは2018年春、行政とタッグを組んで野生鳥獣の解体処理施設を設立し、野生鳥獣対策チーム「富士山麓ジビエ」を立ち上げました。富士山麓の地元猟師の方から、年間約80頭の鹿・猪を買い取り、解体・精肉を経て、ジビエとして街のお肉屋さんや富士山麓・関東を中心としたレストランへ肉を卸しています。

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 解体処理施設は富士山のよく見える、畑に囲まれた一画にポツンと佇んでいます。エコツアーや自然体験など、いわゆる「ガイド業」を事業の主軸としているホールアースが、なぜ野生鳥獣の解体処理施設を運営しているのでしょうか。所長である浅子は次のように語ります。

 「ホールアースに入って6年間沖縄校にいたんだけど、富士山に戻ってきたら、森が別の場所みたいになってて。前は道路から森を見ても藪だらけだったんだけど、それがスカスカになってる。低木が食べられてるんだよね、動物たちに。木の子どもが食べられちゃって、50年後この森はどうなるんだろう?って考えさせられたよね」

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 数年の間で増えすぎてしまった鹿。それに対して猟師の数は足りません。富士山に戻ってきた浅子は自らも狩猟を始めましたが、それでも問題を解決するのは容易ではありません。なかでも、獲った鹿をどうするかというのは大きな悩みの一つでした。通常、猟師さん達は自分たちで食しても全ては食べきれず、やむなく山に埋めるしかなかったのです。

 そもそも、なぜ鹿が増えてしまったのでしょうか。

 戦後まもなくまでは、生息域の減少や乱獲により生息数が極端に減りました。その後、保護政策により生息域と生息数を順調に伸ばしていきましたが、ある時期を堺に増加数が止まらなくなっていきました。また、天敵であるニホンオオカミの絶滅や、猟師が山で捕獲してして均衡が捕れていた数から、増加数が勝ってしまったのです。捕獲が追いつかなくなってしまいました。

「頂いた命、山の恵は活かしたい。」

そんな思いから、私達は富士山麓で獲れた鹿を解体・精肉し、より多くの人に美味しく頂いてもらいながら、森の現状についても知ってもらおうと解体施設を開設したのです。

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 普段はガイド業の合間を縫ってこの施設を運営していますが、肉の品質管理には強いこだわりを持っています。

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 猟師の方から買い取る獣肉は、止め刺し(ナイフでとどめを刺すこと)から搬入まで1時間以内の個体に限られます。搬入後は個体受付確認表で肉の状態を確認し、個体識別番号を付けた上で、誰が、いつ獲った、どのような個体であるかを一つずつ管理します。

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 内臓を取り出し、天井に吊るした肉は約5日間冷蔵庫にて乾燥・熟成させた後、各部位に切り分け、-30℃で急速冷凍。熟練の猟師の方々によって丁寧に血抜きされた個体は、安全なだけでなく、より美味しい状態に保たれ、精肉店やレストラン、個人の方々の食卓へと届けられます。

 最近は少しずつイメージも変わりつつありますが、”ジビエ”というと、「癖がある」「臭い」「硬い」などといった印象を持つ人もまだ多いのではないでしょうか。

 「自然を守るためにジビエを食べよう」ではなく、「美味しいからジビエを食べよう」が広まるよう、肉の味を最大限に活かせるよう、品質管理を徹底しています。

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 モチベーションの原点は”正しさ”や”義務感”だけではありません。”ワクワク”や”高揚感”からも、人の行動を、社会の構造を少しずつ変えていけないかと考えながら獣を捌いています。

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 ジビエの流通が盛んなヨーロッパでは、主婦がスーパーに並ぶジビエを手に取り、家庭で調理し、「今年の鴨肉は香り高くて美味しいわね」なんていう会話がテーブルを賑やかすと聞きます。週末に気合を入れて足を運ぶ登山旅行や、大きな荷物を車に積んで出掛けるキャンプも素敵な自然体験の一つですが、日常的な食卓で自然の恵みを楽しんだり、散歩がてら森に足を踏み入れるように、もっと気軽に、身近な自然を楽しめる文化が世の中に根づけばいいなあと考えています。そうすれば、社会の中での自分の立ち位置が掴みづらいふわふわとした感覚や、なんとなく世の中に漂っている緊張感のようなものが少し和らぐんじゃないかなあと思います。

 ”富士山麓ジビエ”が立ち上がり3年、飲食店だけでなくフードコーディネーターさんなど様々な方との繋がりも増えてきました。より一層、「食」という切り口で人々の日常と自然を繋ぐことができないか、模索中です。


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