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本当に怖いのは幽霊でも妖怪でもない。その怪物は実は近くに潜んでいるのかもしれない。      貴志祐介さんの代表ホラー作品「黒い家」を読み終えて。

いやあ怖い…。
僕は結構ホラーみたいな描写は平気な方です。
だって所詮作り物ですからね。幽霊だって実は僕たち人間と何ら変わらないのだし、そこにいたとしても何も問題もない。彼らには彼らなりの理由や目的があるのだと思うから。

でも流石貴志祐介さんの作品は普通のホラーよりも一味も二味も違う。本当に怖いものは生きた人間なのであると改めて気が付かせてくれるものがあります。
僕たちが日常生活を送る中で、いつ凶悪な人格を持つ人間とすれ違っているかもしれない。もしかすると近くで普通に生活をしているかもしれない。そんな身近な恐怖を感じさせてくれる作品が多いのですが、その中でも群を抜いて日常的な恐怖を味あわせてくれる作品こそが

「黒い家」というホラー作品だと思いました。

久しぶりにホラーものを見て背筋が寒くなるというか、吐き気を催す経験をしたかもしれませんw
じわじわと精神を壊していくような、トラウマを植え付けて来るような、まるで微量の毒を少しずつ飲まされていくような感覚です。
気がつけばどっぷりと毒に浸かって手も足も出なくなる様なジワジワと暗闇に引きずり込ませる表現がまた非常に上手いんですよねこの方は…


生命保険の主任を務める主人公若槻は、過去に最愛の兄を自殺で亡くしてしまいます。その経験のせいで自閉症気味になり完全に心を閉ざしてしまいました。
忙しい毎日を過ごす日々を過ごしてなんとか生活をしていましたが、ふと営業所に一本の電話が入る。「自殺でも保険金は下りるのだろうか?」という中年女性の声。
その後、菰田重徳の家に保険の相談で訪問することになるが
そこで目にするのは最愛の息子の首吊り死体。

その現場を目撃した若槻は「殺人を自殺に見立てて保険金を騙し取ろうとしたのではないか?」
「死体を発見した際の彼の挙動がおかしかった」
という理由で菰田重徳に対して殺人の容疑をかけます。

それからというもの、毎日のように会社へ現れる菰田重徳
危険な人物だと若槻は警戒していたが、毎日決まった時間に訪れる事を除いては何をするわけでもなく静かに去っていく。本来ならば支払われない保険金に対し苛立ちを見せるはずだが、至って大人しく。そればかりか日に日に衰弱していっている様にも見えた。

若槻の家に毎日のようにかかる無言電話等の嫌がらせの数々。ついにはアルコールの力を借りなければ眠ることが出来なくなり、過去のトラウマも相まって徐々に彼の神経も衰弱していきますが、真相を突き止めるという課題が唯一の彼の精神を支えていました。

まさかの展開。誰もが予想できなかった真犯人。
そして彼に襲いかかる悲劇の数々。
衝撃的なラストは1ミリも安心をさせてはくれませんでした。まぁ貴志祐介さんの作品はバッドエンド多めですので今更驚きはしませんが、それでも心にイヤーなしこりを残したまま物語が終わりました。

最後の少しだけ見れる感動のシーンから一転
実はまだまだ岩槻の悲劇は終わらない。終わるどころかこれが始まりでしかなかったという…。
いやー生きている人間って恐ろしいって思いますね。

物語中盤らへんで語られていた、異常性質
ここ最近ではよく聞く事が多いと思います。
そう「サイコパス」という存在。実は日本にもそういった性質を持つ人間はいます。よく聞くのは大手企業の社長さん等社会的に大成功を収めた人物に多いという話です。
僕もまぁ形ではありますが親父の会社で社長を努めたことがありますが、社長同士人が集まると色々な人がいるものですよ。どうしたらこんな事を考えて、やってのけてしまうのか?言う様な人です。
凄みがありますし、落ち着いていますし、恐れという感情が欠けてしまっているような。しかも人に慕われていたり

でも黒い家でも語られていますが、必ずしも「サイコパス」が特別な存在でもなくて、誰にでもそういったものは持っていると。

例えばこの社会は情報社会です。
多くの情報が飛び交う中、僕たち人間はその情報を頼りにして生きています。例えば悪というのはそのまんま悪いことをする人間ですが、じゃあ正義というのは何なのか?
人を傷つけて陥れてはいけないが、悪は倒してしまっても良い。アニメやゲーム等では正義と悪というのはきっぱりと二分化されていますね。

悪を倒したら。正義だ
正義を脅かす悪は潰してしまえば良い。
本来ならばそれでハッピーエンディングなのだが、じゃあ何故彼らは悪の存在になったのか?彼らは生まれながらにして悪になるべきして生まれたのか?悪にも善意の心はないのだろうか?というのがこの作品のテーマだと僕は思います。

コロナ騒動で世間を騒がせた。マスクの着用の義務化。ワクチン接種の義務や感染者への差別的行動もそうです。
もし彼らを悪とするならば、その悪を排除する事が正義なのか?排除された人達は?その家族は?それを無視して正義を貫く事が正しい行いなのだろうか?
僕は長年そのテーマについて深く考える事があります

正義には正義の常識があり、悪にも悪の生き方がある。
そして僕たちは本当にその悪を知ることなく、正義という武器で悪を潰してしまう。それが情報社会の怖さだと僕は思うのです。

そしてテレビやネットの掲示板。ゲームやアニメのストーリーを見て、多くの子どもたちはそれに感化されていきます。誰が教えた訳でもなく、子ども達もまた正義という常識を知り、悪を排除せよという行動に出る。
そしてファストフードなどに含まれる添加物や野菜を栽培する農薬、携帯電話の高電波等は実は人間の内側からダメージ与えていきます。
そうすると何が起きるかというと、考えるという人間が出来る当たり前の行動を奪って行くのです。

何が正しいのか?何が間違いなのか。
その疑問をすっ飛ばして、大衆の意見に従うようになる、それが社会や世の中にとってどれだけ脅威となるのだろうか?
そして学歴や職種。人間が持つ物質的な豊かさを強さだ勘違いをし、道徳というものを馬鹿にする。
人間にとって最も大切な事は道徳と教養です。
ですが、この世の中ではそれらをカッコ悪い、ダサいなどとし笑いの対象にされる事もある。

一見とても怖いストーリーでありながら
そんな重要なメッセージが隠されているのです。
それがこの「黒い家」の凄さであり、貴志祐介さんの本当に伝えたかったメッセージなのかも知れません。

僕はそのメッセージに気がついた時に

「なんて凄い物語なんだ」

と感激してしまったのですよ。

本当に怖いものは幽霊でも妖怪でもない。もしくは異常者であるサイコパスでもないかもしれない。

本当に怖いのは意見を持たない。考える行為をやめてしまった大衆なのかもしれないという強烈なメッセージ僕の心をガッチリと掴んで離さなかったのです!
もう20年以上も前の作品となりますが、今現在の社会を見透かしていたのかと思わせる貴志祐介の力作だと思いました!

いやーやっぱり彼は天才だ。
かれこれ多くの作品に触れましたがどれも素晴らしい小説ばかりです。
まぁとびっきりの今回の作品は何処までもダークで怖い内容ですので、もし読んだことがない方は是非とも読んで見てくださいね!



それではまたー!

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