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ウイスキー小噺 第015回:ジャパニーズウイスキーの定義について考える⑥

日本洋酒酒造組合は2021年2月に「ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準(以下、「本業界基準」)」を公表しました。ジャパニーズウイスキーの品質やブランド力を維持向上させるため、ジャパニーズウイスキーの定義を明確化するのが目的です。

前回までの記事
①:https://note.com/whisky_kobanashi/n/n7a7ff0f9faab
②:https://note.com/whisky_kobanashi/n/n215064a6c750
③:https://note.com/whisky_kobanashi/n/n61dcbc275462
④:https://note.com/whisky_kobanashi/n/na093d12d1287
⑤:https://note.com/whisky_kobanashi/n/n2d38703d1312

これまで5回にわたっていろいろと書いてきましたが、今回でこのシリーズは終わりにしようと思います。

以下、結局のところ本業界基準をそのまま法制化するのはどうなのか、という問いに対しての私見です。①~⑤の内容を踏まえていますので、まだ読んでいない方はそちらを先にご覧になった方が理解しやすいかと思います。


スコットランドはなぜ厳格な定義で耐えられる?

スコットランドでは「スコッチウイスキー」が厳格に定義されていますが(②をご参照:https://note.com/whisky_kobanashi/n/n215064a6c750)、それでもウイスキー業界が耐えられるのは、スコットランド国内で原酒を調達可能であることが大きいと考えられます。

具体的には、
1. 大規模グレーンウイスキー蒸留所が複数存在している
2. 原酒を売買する商習慣がある
3. 大手企業(ディアジオ、ペルノリカールなど)による集約が進んでいる
といったところでしょうか。

1.と2.により、自社でウイスキーを製造していなくても、外部から原酒を購入してブレンドすることで、「ブレンデッドスコッチウイスキー」を販売することが可能です(もちろん、シングルモルトスコッチも可能)。また、3.により、大手企業はより効率的に原酒を入手することが出来ます。

日本で「スコットランド並み」は時期尚早

これまでの記事で述べてきましたが、日本では1. から3.まで全て満たされておらず、本業界基準を満たすジャパニーズウイスキーをリリースしようとするならば、自社で原酒を製造する必要があります。シングルモルトはともかく、本業界基準を満たすジャパニーズブレンデッドウイスキーを製造販売するのはかなりハードルが高いのが現状です。

本業界基準はスコッチウイスキーの定義をベースに作られたものです。スコットランドのウイスキー業界が厳格な定義で耐えられるのは前述のような業界構造が確立しているからであり、状況が全く異なる日本に「スコットランド並み」をそのまま当てはまるのは適切ではありません。

法制化そのものに反対する意図はありません。しかし、法制化するのであれば、いきなり背伸びする(スコットランド並みをそのまま採用する)のではなく、日本のウイスキー業界の実態を反映したものにするべきでしょう。

だったら対案を出せと言われそうですが、具体的にどういう基準にすべきかというところまで考えを深められておらず、ここで提示することはできません。申し訳ありません。今後、何か思いついたら投稿するかも。

日本のウイスキー作りは始まったばかり

1824年と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。ウイスキー検定を取得した人ならわかるはず。そう、グレンリベット蒸留所が第1号の公認蒸留所となった年です。一方、日本で最初の蒸留所が出来たのが1923年です(山崎蒸留所)。

日本でのウイスキー作りに歴史はせいぜい100年ほど。しかも蒸留所の数が一気に増えた始めたのは2010年代です。スコットランドにおけるウイスキー製造の歴史の長さとは比べものになりません(スコットランドでは、グレンリベット蒸留所の公認以前にもウイスキー製造が行われていました)。

日本にもたくさん蒸留所が出来ました。ここからさらに発展してスコットランドに近づけるのか、それとも、以前のような大手企業しかウイスキーを作らない時代に逆戻りしてしまうのか。どちらになるか分かりませんが、これからそういう変化が起きると思うと、なんだかワクワクして来ませんか?

日本のウイスキーの歴史は始まったばかり。これからいろんな変化が起きるでしょう。ウイスキーに関連する法律も、時代に合わせて変わっていく方が自然です。

本シリーズは以上で終了。ありがとうございました。

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