氾濫

夢中で積み上げた私の意思は、彼の吐く風一つで
容易に崩れてしまう様な物なのかも知れない。時々そう思う。

事の大小と、その均衡。
とうに私の背を超えるほどに高く積み上げる彼。
手伝うことさえ出来ない悔しさで、
地盤そのものがひどく脆いから、
いくら大きな意志を抱えても
不安定なことに変わりはなかった。

その辺の小石にさえ価値を見出し、
沈めずどこまでも届ける彼に、
到底追いつける気がしない。
いっそ氾濫してしまえよ。
誰も歩けず息もつかせぬほどに、広く、深く。

私は、彼にとっては、ショーで拍手するアシカや踊ってみせる猿の様な、人間の様に振る舞う何かなのだろう。もうそういうことにしておいてくれ。「同じ」であることがこんなにも虚しく苦しいなら、同じように振る舞うだけで認めて褒めてもらえるなら、私が私を愛せる時など一向に訪れないのだろうし、彼に愛されたいとも思えないや。別に恨んじゃいないよ。煩わしいだけ、比較でしか測れない自分自身が。これは長所や短所の話ではなくて、私の望む私かどうかの話だ。

洗い流したい、溶けて泡立つ石鹸の様に。弾ける姿が何よりも美しいなんて、それは後に遺る者たちの傲慢だ。酔い潰れて込み上げるものはいつであれ、消化不良の醜い感情ばかりなのだから。

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