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センセイの鞄−感想

澄んだ月夜の静かな物語。

月が映る湖面の水が、
いつの間にかひたひたと心に沁みこんで、
いっぱいになって忘れられな くなる。
そんなお話。

ツキコさんと、とても年上のセンセイ。
センセイの名前は春綱さん。

二人は薄い玻璃で出来た
シャボン玉の中に恋心を閉じ込め、
そっと、そうっと、割らないよう
過ごしている。

ツキコさん視点で語られるけれど、
春綱センセイの方が先に
シャボン玉を割ってしまったのだと 思う。

川上弘美さんの本は初めて。

「センセイは必ず黒板拭きを持ちながら板書した。『春は曙。やうやう』などとチョークで書き」

「以前小さな蛙をまちがってのみこんでしまった人が、それ以来腹の底からは決して笑えなくなっ てしまったような」

「わたしはセンセイの部屋をノックした。とんとん。とんとん。おかあさんですよ。小山羊たちや、扉を お開けなさい。おおかみなんかじゃありませんよ。ほらまえあしもこんなに白いでしょう。センセイは わたしのまえあしを確かめることもせずに、かんたんに扉を開けた」

独特の描写表現が
二人の淡い関係を不思議色に染めてゆく。

近頃の私は恋愛漫画を
スマートフォンにダウンロードしては読んでいる。 どうしたものかと思うのだが、やめられない。
ときめき不足か、昔が懐かしいのか、
ないものねだりなのか。

あの時こうしていれば、のような
後悔はないけれど、高校生の頃
片想いしていた彼が夢に出てきた時は驚いた。

センセイを喪ったツキコさんは
どう過ごしているのだろう。

わたしのように、夢にセンセイが
出てきているだろうか。

それとも元々夢だったのだろうか。

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