記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

2022年Next to Normal感想(安蘭/海宝/岡田/昆/橋本/新納チーム)-2/3

*この記事は、「2022年Next to Normal感想(安蘭/海宝/岡田/昆/橋本/新納チーム)-1/3」の続きです。


前回は”I’m Alive”までを一気に書き、力尽きました。
今回は”Make up Your Mind”から2幕の"Hey #2"までです。

相変わらずものすごい勢いでネタバレします。


引き続き、Apple Musicで配信されている”Next To Normal (Original Broadway Cast Recording)”音源と、公式、後に記載する海外のファンサイト/Wiki/Kindleで販売されてるbroadway版の脚本を頼りに、1曲ずつ時系列順での感想です。曲名の前に振ってある番号は、そのまま音源に振られている番号と対応してます。

1-13. Make up Your Mind/Catch Me I’m Falling

再びDr.マッデンの診察室。
初診の時のようなロックスターの幻覚は出てこず、落ち着いたDr.とのやりとり(催眠療法でのカウンセリング)を通して、ダイアナの過去が少しずつーダンとは予定外の妊娠をきっかけとした学生結婚だったこと、ダイアナ自身は最初は無理だと思っていたが、ゲイブが産まれた瞬間に「全部納得できた気がした」こと、「あの時」までは幸せを感じていたこと、が語られ始める。「あなたなら」「(傷と)向き合える」「今こそ踏み出す時」というマッデンからの言葉が、「忘れよう」「過去とは決別しよう」というスタンスのダンと対照的で、「そうだよね、切り離せるような出来事じゃないもの」と思いながら聴き、「流石に医者まで忘れようとか言い始めなくて良かった…」と(おそらく当たり前のはずなのに)安堵。

並行してナタリーのリサイタル(どうやら海外のファンサイトによれば、イエールにピアノの特待生として奨学金付きで入るための審査を兼ねた場とのこと。入るわイエール!!奨学金!!ってそういえば冒頭ピアノ弾きながら歌ってた)。一輪の可愛らしいお花を持って楽屋裏まで励ましに来るはっしー君ヘンリーがまた全然嫌味じゃなくて、普通に自然に可愛いかった。。なにこの素朴で優しい子は!!ダイアナー!!!!ヘンリー本気で良い子だよ!!と報告したくなるほど。

来ると約束してた両親がどちらも客席にいないのを知り、まるで実力が出せずに思いっきりミスを繰り返してしまうナタリーと、それを静かに見つめるゲイブ&ヘンリー。

 ここで「あぁミュージカルの醍醐味!!!!」と唸るのが「Make up Your Mind」と「Catch Me I’m Falling」と「Superboy and Invisible Girl」のピースが見事なまでに重なって、美しい旋律が4人の悲鳴を乗せて4方向から静かな滝のように流れてこちらに迫ってくるところ。舞台中央の診察室にいるダイアナ、二階下手のナタリー、二階中央のゲイブ、そして上手でゲイブの思い出箱を抱えたまま階段にうずくまるダンが、「落ちていく」「誰かつかまえて」とそれぞれ悲鳴を上げていて、治療を受けているダイアナだけじゃなく全員助けが必要なこと(そして助けてほしいともう自覚していること)が、穏やかな曲調を借りてどんどんこっちにひたひたと流れてくるのに飲み込まれる感じだった(ちなみにゲイブが歌う内容はゲイブ自身の、というよりは、半ばダイアナの代弁に近いのかな、と思う)。

 ちなみにここ、ナタリーがミスを繰り返しまくった後で「クラシック音楽の問題点をご存知ですか?(中略)インプロする余地がないんです!!!」と叫び、「マジかよ!!!!」とヘンリーが声を漏らす箇所があるのだけど、ヘンリーがかつて彼女に語ったそのフレーズを言う直前、じっと(彼女にとっての)舞台袖(=上手側)を見るんだよね。初見の時は、ゲイブに負けない、惑わされない!!とゲイブを見てるのかな?と思い、2回目に観た時は袖のヘンリーと視線を交わして勇気とひらめきをもらったのかな?と思ったんだけど、唯一の上手席で正面からナタリーを観られた3回目でも果たしてどっちを見てたのか特定できず、もしや両方だったりする…?となった。ゲイブはゲイブで、観客の前でミス連発で打ちひしがれるナタリーをどんな表情で見つめてるんだろう(まさかニヤっとしてたりとかないよね……?)とこれまた3回目にオペラ発動で見つめたところ、ただただ静かな(穏やかな、とか安らかな、とかじゃなく、あくまで静かなーどうするのかを感情を挟まず見守るような)眼差しで見つめているように感じられて、「あぁこの子は、16年間ナタリーを圧倒しつつも隣でずっと見守ってきた兄でもあるんだ」とズシンと響いて、そこでも涙が流れてしまった。

1-14. I Dream a Dance

 「家に帰って、息子さんの部屋を片付けて、娘さんとの時間を持ってください」というDr.の言葉に従うダイアナ。「彼がもう18歳なら、もう行かせる(手放す)べきです」という診察室での助言に、柱の陰から静かに、極めて控えめな、さっきのI’m Aliveの主からは想像もつかないほど繊細なかそけき声で「ママ……?」と(ほんとに、やるの?やらない、、、よね?という言葉を飲み込んでいるかのような)声をかけるゲイブ。この時の海宝さんの表情がまた、もうどう書いたらいいか途方にくれるほど絶妙で、「懇願」とか「戸惑い」みたいな生々しさが一切無い、でも「心細さ」や「哀切」は確かに滲んだもので、一体この時のゲイブはダイアナが見ている幻覚なのか、魂として彷徨ってる方のゲイブなのか、むしろダイアナが頭の片隅で感じている視線と重なって両方なのか…と思いながら毎回観てた。

 家にある思い出箱から一つ一つゲイブが小さい頃使っていた品を愛おしそうに取り出し、オルゴールに合わせて「あなたと踊る夢を見ていた」「あなたと踊る、死ぬまで…」とダイアナのナンバー。
「びっくりするほどかっこいい(と確かにト書きにある!!!)」白いタキシードのゲイブとスローテンポで踊る。

 ここのゲイブ、1回目(4/3)観た時はうっすら微笑んでいるのが正に死神を感じさせて「まじか、そこそういう解釈か」と戦慄したのだけど、2回目(4/9)観た時は、もう出てくる時から泣きそうな笑顔を浮かべていて、ダイアナ側からは見えない角度になる度に鈍い痛みに耐えるような顔をしているように見え、「このゲイブはもうダイアナの心を追い越してしまうくらい成熟していて、彼女以上に彼女の痛みと苦しみを背負ってるのか…!」と涙が止まらず、3回目(4/15)に観た時はより一層その解釈が強まり(ダイアナに向けては、努めて、眩しい、それはもう王子様然とした理想の青年としての笑顔なのに、ダイアナの肩越しの表情は今にも溢れる涙を堪えているようで、泣けてしょうがなかった)、その後の展開を知っていても苦しくてしんどくて胸が張り裂けそうだった。

1-15. There’s a World

 ダンスから続けて「行こう、苦しみのない世界へ」とゲイブがダイアナを誘うナンバー。ここ、優美な&甘美な、というイメージなんだろうなと(CD聞いてた時は)想像していただけに、目の前のお芝居が自分にはまるで想定外で、しかも目の前の解釈の方がよほど辛くて抉られるもので、肩が震えるほど泣いた。色んな見え方があると思うのだけど、私には、苦しむお母さんを解放するために安楽死に導くように思えて(手段自体は全然安楽死じゃないんだけど)、ゲイブの表情が「ママもういいよ、もう十分すぎる程苦しんだよ。もう解放されていいんだよ。この苦しみを終わらせて(僕と)安らかな世界に行こうよ(日本語訳だと「行こう」だけど、英語版だと"Come with me"なので、直訳するなら「僕と一緒においで」になり、ゲイブのいる側=この世の向こうに召される感じがもっとダイレクト)」と言っているようで、でもその表情があまりにも辛そうで、泣けて泣けて仕方なかった。キリスト教圏での自殺/自死はこちらからは想像もつかないほどの禁忌、と私は聞いていて(書かれた当時&今の、実際のところは分からないのだけど)、「自ら旅立つことを許される(幻覚)」っていうのは相当な意味の重さに違いないはず、でももうこれ、ダイアナにとっては何かを終わらせるとか心中というよりは、意味合い的に幸せに召されていくような描かれ方だよね… と苦しかった。とはいえカミソリ。どのくらい本気だったんだろうダイアナ、と初見の時は台詞を全部聞けていなくて掴めてなかったのだけど、Dr.マッデンの台詞にある「縫合」に気づいてからは、どんだけ深く自ら斬りつけたんだ…とより一層辛くなった。意識不明になる程流れてしまった血を、この後のシーンで家に帰ってきた後ダンが黙々と拭くんだよね。

1-16. I’ve Been

 病院にてDr.マッデンからECT(電気ショックによる治療)を勧められ、「彼女が望むとは思えない」と抵抗するも、「このままだと自殺するのを待つようなもの」と言われて揺らぐダン。ここでダイアナの意思に沿わないだろう点を真っ先にしかも自然に懸念してるところに、ダンがダイアナをあくまで尊重したいと「思っている」様子が伺えて、支配欲どころかむしろ隷属的なまでに「伴侶としてベストを尽くすこと」と「彼女が失われないこと」を徹底しようとしているのが感じられて、胸が痛くなる。「俺こそが彼女を救うんだ/救わねば」はあっても、「俺の言う通りにしさえすればいいんだ!俺が正しいんだ!!」みたいなのは一切無いんだよねダン。「俺にさえ従えば」系のパートナーだったらいっそ簡単に憎めたけど、ダンはダンなりに出来ることはすべてやろうと「思っている」ことが次のナンバーにそのまま繋がる。愛するダイアナの大量の血を拭きながら(想像するだけで胸が潰れる/ひょっとして前にもあったんじゃ無いかな自殺未遂、と初見の時は思ったんだけど、どうやら火事を起こしたり通報されたりという展開はあってもここまで積極的に死のうとしたのはおそらく今回が初なんだよなと、ダンの様子から思うようになった)、「誰が俺を救うのか」「自分を押し殺して生き続けている」と歌うダン。静かにじっとそれを見つめているゲイブ。

 ただ歌の最後で「独りは耐えられない」とぽろりとこぼれるのが。。結婚とほぼ同時にゲイブが産まれて、そのゲイブも8か月でこの世を去ってしまって、ナタリーが産まれるもおそらくすぐ後から双極性障害が始まって…もしかして18(19?)年間の結婚生活の中でダンの思う「normalな」夫婦だった時間ってほとんどないんじゃなかろうか、「独りを知らない」どころか安らぎから程遠い「介護生活以外をほとんど知らない」んじゃなかろうか、と危うさを感じて違う不安がこちらに染み込んでくるようだった。

1-17. Didn’t I See This Movie?

 ECTに抵抗するダイアナのパワフルなナンバー。純粋な曲のかっこよさが尋常じゃないのに加えて、とうこさんのパーン!!!と気持ち良くまっすぐ飛んでいく声がどんんんんぴしゃにハマって、ゲイブがDr.に向かって挑発的な笑みで押すストレッチャーで縦横無尽に舞台を駆け抜けるのも気持ち良く、(作品中貴重な!)実に爽快なシーン。激しめの手持ち花火みたいな眩しさと勢い。

 多分この曲の中か少し前で、ECTについてナタリ-/ゲイブがそれぞれ反対するシーンがあり。「ママはパパのこと信じてるのに!!!」とショックを受けて否定するナタリーに、ナタリーは距離の取り方に葛藤しながらも心底お母さんのことを心配していて、同時にお父さんのことも(おそらくは頼りないと思いながらも)信じてたんだよね…と胸を突かれる。

1-18. A Light in the Dark

 先ほどの火花散るエネルギーをふっと消すように、同意書を持って現れたダンがもたらす静かなナンバー。ここ、ダンが入ってきた時はまだ目に自信の光が灯ってたゲイブが、ダンの顔つきに気づいた途端全てを察して、静かに(極めて静かに)息を飲むように(本来息なんて無いんだけど)さっと表情が変わるんだよね(私にはそう見えた…)。。。「え、まさか、パパ賛成するの?」と不安に哀しさが一滴ぽたりと落とされたような顔から始まって、「このチャンス掴もう」「過去を忘れよう」とダイアナに向けた言葉が続くにつれて、どんどん哀しみの墨が胸に広がっていくように目から光が失われていって、目が離せなかった。。。ダンはこの時点では、後に引き起こされるほどの強い記憶障害が出るなんて知らなかった筈なんだけど、でも「忘れよう」って言ってる時点でダイアナの過去が失われる点についてはあの場の中できっと一番肯定側だったんだよね。。

 ダイアナも、まさかあんなにごっそり記憶が抜けてしまうなんて全く覚悟していない筈なんだけど、でもダンの説得を聞いて同意するんだよね。(消極的であっても)ダイアナも同意したことが、ゲイブの心の墨をより一層広げてゲイブが影に溶け込んでいく。

「2人でやり直そう」を、せめてナタリーが聞かずに済んで良かった。


<ここで1幕終わり。毎回客席が放心状態に近くて、他の観劇に比べて席を立つ音が全体的に遅かった印象>


2-1. Wish I Were Here

 ECT開始。電気ショック療法を2週間毎日お母さんが受けている事実が重すぎて、ナタリーは連日レッドブルを片手にクラブを何軒もはしご。ダイアナが処方されてた薬をいくつも服用し、ヘンリーが献身的に追いかけて彼女を救出しては連れ帰って…を繰り返してる。

 病院ではダイアナが、ストレッチャーに乗った体から幽体離脱するような形で「生まれ変わる」「ここにいたい」と繰り返し歌い、ナタリーの声がそこに重なる。昆ちゃんの芯があって美しい、でもちゃんとパンチの効いた声と、とうこさんのエネルギッシュでハリのある声が、チカチカ明滅する背景の電球剥き出しの照明と一緒に客席にガシガシ突き刺さり(ちゃんと美しいハーモニーの上でのあの勢いなのでまた気持ち良い)、激しすぎる感情の波を持て余しつつも自分の輪郭(?)を失うまいとするような、その一方で変化に淡い期待を持つぐらぐら不安定に揺れて弾け彷徨う感じが、シンコペーションの入った曲とぴったりだった。 

 新納さんと海宝さんはDr.&助手役として手術着とあの独特の帽子でストレッチャーを押しながらのキビキビダンスタイム。ここが、、、もう、、、「髪型を封印されると、お顔立ちそのものの美しさが普段の5割増しで否応なく迫ってくるよね?!!!」と思わせて毎度本気で見惚れてた。。なんなんでしょうかあの整い方は。御髪がある時だってそりゃもうカッコよいんだけど、あぁいう帽子とかで髪型点数が取り払われた時の「これでもか!!」な美しさなんなのもう、、、と意味不明に逆ギレしてお二人にうっとりしてた。観るたびにかっこよさというか魅力が上がる恐ろしい新納さん&海宝さん。。

2-2. Song of Forgetting

 ECTが終わり、ダンに伴われて帰宅するダイアナ。落ち着いてる様子に一瞬ほっとする空気が流れそうになるも、ごっそり18年分の記憶が消えてしまった事実にリビングが凍りつく。ナタリーは、自分が「ここにいるのに見てもらえない(invisible)」どころか「存在そのものが記憶から消されてしまった」ことにしばらく言葉が出ず、「なんてすごい医学の勝利!!」「全部消されてしまった!!!!」と泣き叫ぶ。一方かろうじてダイアナの記憶に留まってたダンは少しずつ「そうありたかった」物語(記憶)をダイアナに植え始める。「見てもらえてないけど、変人な天才という認識や噛み合わなさはあっても16年分の年月は、normalじゃなくとも娘として重ねてきた」時間をごっそり奪われてしまったナタリーの、声にならない叫びが悲痛すぎて、背を向けてうずくまる昆ちゃんの華奢な背中にぼろぼろ泣いてた。一方ダンの、ダイアナがナタリーを完全に忘れてしまったことへのショックが浅すぎて、いかに「ダイアナがnormalに戻ること」だけを悲願としてきたかを思い知らされ、それも苦しかった。。

「歌おうあの歌を」と、一つ一つ思い出して再出発しようと言うダンにダイアナ、ナタリーが輪唱的に声を重ねていって、ハーモニーがさらけ出す不協和音そのもの、いびつながら無理矢理どうにかこうにか再生しなければと進もうとする3人の姿が痛々しい。

2-3. Hey #1

 「会いたかったよ!」と久々にナタリーと学校で再会するヘンリー。「君が心配だ」とナタリーを見つめる顔が本当に心の底から純粋に心配していて(心配する自分が好きで、とかそういうんじゃなくて、本気で気になって仕方ない真摯さがちゃんと伝わるのが本当に救いで、同時にナタリーの気持ちにシンクロするとその真摯さがしんどい)、穏やかなメロディーと優しい声がただれまくった物語にそっと生理食塩水(=沁みて痛くなったりしない)とガーゼが当たるよう。

2-4. Seconds and Years

 「程度の差こそあれ」記憶が失われるのは “normal”と歌うDr.マッデン。施術後のダイアナの心身が安定して改善してること、前に訴えていた症状が消えていることを一つ一つ確認。前より心のもやは?「晴れてます」前より感覚は?「鋭くなりました」。幻覚は?「もう見えないロックスター」。

2-5. Better Than Before

「少しずつ」「焦らずに」記憶を取り戻そう、とDr.マッデンの勧めに従って写真を見せながら会話する3人。明らかに意図的に、ダンは記憶を「こうありたかった」物語に塗り替えようとしていて、ダンにとってのダイアナの幸せは「ダイアナが歩いてきた過去を彼女自身が受け入れて彼女として再び歩き始める」ことじゃなく、「ダイアナが痛みを感じずにnormalな生活を自分と送ること」なんだなと突き付けてくるよう。ナタリーはダンと比べると比較的「事実」を「ありのまま」(過去に起こしてしまった事件など)ダイアナに紹介し、「最低な母親ね。。」という言葉に複雑な表情。ナタリーとのエピソードも含めてだんだん戻って来る記憶に、希望を見出す2人。「前より良くなれる」と声を重ね、明るいメロディー。

と、そんな3人を2階から静かに影に溶け込むように見下ろすゲイブ。

2-6. Aftershocks

 「彼らは僕を墓に返すだろう」、「記憶を無くしても魂は覚えている」、「傷を取り除いても穴は塞がれずに開いたまま」、「苦しいのは病気なのかそれとも治療なのか」と静かに、でも目を離すことなくダイアナを見つめてゲイブがつぶやくナンバー。自分が消されてしまうことへの抵抗と、自分との記憶を奪われたダイアナが安定する筈無いというある種の確信と、不安定に記憶を奪われたダイアナを心配するニュアンスが見事にないまぜになって見える歌。すべての音も言葉もクリアに聴こえるのに、あくまで「微かなつぶやき」として聴かせるさりげなさが徹底されていて、それだけにこちらの胸に、冷たい、静かな涙で湿った風のようにゲイブの気持ちが入ってきて、生々しくないのに哀しさと不安と寂しさだけは結晶のように声に込められてるのが苦しくて苦しくて、観るたびに胸が刺され続けた。歌うゲイブの顔付きも、心細くお母さんとの繋がりを見つめる純粋な魂のようでありながら、18歳どころかもうとっくにその年齢を超えてしまった存在のようにも見えて、今にも涙が溢れそうな瞳が痛かった。

 「必要な記憶なら戻る」とダイアナに告げてゲイブの隣を素通りしていくダンの厳しい横顔に、幻覚が出なくなって尚、この父と子の間には緊張感がみなぎってるんだなと感じて、頑なにゲイブを封印しようとするダンに苦い思い。

2-7. Hey #2

 ナタリーの部屋まで訪ねてくるヘンリー。明日のダンス、一緒に行こうよ、嫌かもだけど、君と行きたいんだ、と絶妙なトーンで告げるはっしー君。ここの押しが強すぎると「あぁもう面倒な奴だな」になるし、かといって消極的すぎると「(そんなへっぴり腰で)お前にナタリーが救えるか!!」となるし、バランスが本当に難しそうな役どころなんだけど、「真剣なんだけど押し付けがまし過ぎないギリギリ手前」で止まって、過度に腫れ物に触れるような優しさに歪むこともなくナタリーにアプローチし続ける姿がすごい。さらに、これまためちゃくちゃ安定感やら自信みたいのが滲みすぎてないところもある種リアリティがあって、好感度大。「これどうやって演出したんだろう」「castingが大成功なのか本人がここまで探り当ててコントロールしてるのかその両方か」と思ったり。が、観るたびにいろんなバランスがぴったりになっていくので、きっとものすごいスピードで間やお芝居の勘を育ててるんだろうなぁ…としみじみしてた。

脚本上、ヘンリーのこの根気と熱意がナタリーを救いつつある種苦しめてるとも思うので、癒しのようなシーンになると同時にちくちく胸に引っかかり、ドアを叩く側にも叩かれる側にも気持ちが共鳴してしんどくなる。

 「僕をあきらめないで」というフレーズが上から聴こえるところ、暗い照明の中で階段に腰掛けてダイアナをじっと見つめるゲイブも実は舞台上手に残っていて、オーバーラップを感じる。

(次でラスト。3/3へ。)

参考にしたサイト/脚本:

https://www.amazon.com/Next-Normal-Brian-Yorkey/dp/1559363703

4/18…目次追加
4/23…参考資料欄に直接飛べるよう目次編集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?