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春ピリカグランプリ

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2023年・春ピリカグランプリ、記事収納マガジンです。
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記事一覧

「春ピリカグランプリ」朗読配信ウラ話/⑰「車窓(掌編小説)」 作:林白果

「春ピリカグランプリ2023」すまスパ賞受賞作品の朗読について、読ませていただいた感謝と作品への向き合いを綴っていきます。 今回は林白果さん作、不思議な味わいの短編「車窓(掌編小説)」です。 林さんが高校生の時分に実際に乗っていた私鉄ローカル線の車窓風景をモデルに書かれたとのこと。 風薫る五月。 主人公の前髪が風に吹かれるくだりなど「風を用いた描写」が効果的に配置され、作者が思い描いた脳内の光景を、わたしたちも共有しているような感覚になります。 ふいに現れる「おばあさん」

「春ピリカグランプリ」朗読配信ウラ話/⑱「若者のすべて」 作:yuhi(ゆひ)

「春ピリカグランプリ2023」すまスパ賞受賞作品の朗読について、読ませていただいた感謝と作品への向き合いを綴っていきます。 今シリーズのラストを飾る作品はyuhi(ゆひ)さんの「若者のすべて」です。 「若者のすべて」といえば、フジファブリックの楽曲。あるいは90年代にオンエアされたドラマが思い浮かびます。さらに遡れば60年代にアラン・ドロンが出演した映画のタイトルでもあるようですが、さすがにそちらは私もリアル世代ではありません。 今回の作品も、上記のコンテンツに直接的なつ

「春ピリカグランプリ」朗読配信ウラ話/⑯「指紋」 作:師走

「春ピリカグランプリ2023」すまスパ賞受賞作品の朗読について、読ませていただいた感謝と作品への向き合いを綴っていきます。 今回は、師走さんが書かれた王道ショートショート「指紋」についてです。 はねのあきさんの作品の時に感じた星新一の匂い。師走さんのこの作品からもビシビシ感じます。意識して模倣されたわけではないと思いますが、少ない文字数の中で要素をそぎ落としながら骨太にSFの味わいを極めていくと、おのずと辿り着く理想的な形は似通ってくるのかもしれません。 いうなれば和食の

「春ピリカグランプリ」朗読配信ウラ話/⑮「優しい彼」 作:ひよこ初心者

「春ピリカグランプリ2023」すまスパ賞受賞作品の朗読について、読ませていただいた感謝と作品への向き合いを綴っていきます。 今回も私のとっての難門!ひよこ初心者さん作の「優しい彼」についてです。 アンニュイ。 アンニュイの権化のような、29歳女性の心の内面小説ですよ。そりゃ思いますよね。 「これ、わたしが読んで大丈夫かなあ…」って。。。 私の妄想の中では、2人は同じ広告代理店の社員。 仕事ができて人当たりのいい高野隼人(ピアニストのかてぃんさんに近い名前ですね)はリーダ

「春ピリカグランプリ」朗読配信ウラ話/⑩「モギー虎司と大きな鳥」 作:Nyaajima Hikaru(ぼんらじ)

「春ピリカグランプリ2023」すまスパ賞受賞作品の朗読について、読ませていただいた感謝と作品への向き合いを綴っていきます。 今回はNyaajima Hikaru(ぼんらじ)=旧「ぼんやりRADIO」さんの力作「モギー虎司と大きな鳥」についてです。 ニャアアジマさん、では書きにくいのでここは「ぼんさん」と呼称させていただきます。 ぼんさんと私は落語の話題から交流が始まり、実際に何度かお会いする機会も得ることができました。小雑誌「ウミネコ」の編集長も務めるぼんさんは私にとって

「春ピリカグランプリ」朗読配信ウラ話/⑬「誰モガ・フィンガー・オン・ユア・トリガー」 作:福永諒

「春ピリカグランプリ2023」すまスパ賞受賞作品の朗読について、読ませていただいた感謝と作品への向き合いを綴っていきます。 今回は福永諒さん作の、コントのようなユーモア作品「誰モガ・フィンガー・オン・ユア・トリガー」についてです。 「千里の馬は常にあれども、伯楽は常にはあらず」という言葉があります。 こうして次から次へと驚くような才能の持ち主が目も前に現れるのをみると、なるほど、天賦の才の持ち主も想像以上に野にいらっしゃるのだなと実感します。 そして、その才能にスポットラ

「春ピリカグランプリ」朗読配信ウラ話/⑭「背中をなぞる指」 作:しめじ

「春ピリカグランプリ2023」すまスパ賞受賞作品の朗読について、読ませていただいた感謝と作品への向き合いを綴っていきます。 今回はオトナテイストのちょっぴりコミカルじんわりホラー、しめじさん作の「背中をなぞる指」についてです。 いやはや、来てしまいました。 主人公が女性、しかもオトナジャンルが仄かに香る難作。おっさんが演るとキモい感じになるのではと恐れていたシュチュエーションです。 しかも、数少ない男性のセリフは要イケボという、これまた高いハードル。 むむむ。 といいつつ

「春ピリカグランプリ」朗読配信ウラ話/⑨「ファティマの指」 作:樹立夏

「春ピリカグランプリ2023」個人賞入賞作品の朗読について、読ませていただいた感謝と作品への向き合いを綴っています。 今回は「Marmalade賞」を受賞された樹立夏さんの「ファティマの指」についてです。 前回開催の「夏プリカグランプリ2023」の際に「太陽と月のエチュード」で「ピリカ賞」を受賞された樹立夏さん。 私としては2回連続で作品朗読をさせていただくという、レアな経験となりました。 樹さんの作品は、そのエモーショナルな世界観が大きな魅力だと感じています。登場人物

「春ピリカグランプリ」朗読配信ウラ話/⑧「われらのピース」 作:くま

「春ピリカグランプリ2023」個人賞入賞作品の朗読について、読ませていただいた感謝と作品への向き合いを綴っています。 今回は「ピリカ賞」を受賞された、くまさんの「われらのピース」についてです。 作品朗読にとりかかろうと、ページを開いた時に目に入ったのがタイトルの写真でした。眼下に広がる雲海を前に佇む人影。もともとの写真を撮影された方のキャプションを拝見すると、まさに『富士山の山頂付近での写真』とのこと。物語の世界観にあった素晴らしい写真を見つけられたようです。 高校時代

「春ピリカグランプリ」朗読配信ウラ話/⑦『「指の綾子」考』 作:泥辺五郎

「春ピリカグランプリ2023」個人賞入賞作品の朗読について、読ませていただいた感謝と作品への向き合いを綴っています。 今回は「穂音賞」を受賞された泥辺五郎さん作の『「指の綾子」考』についてです。 自らもSF調のホラーテイスト作品を書かれる穂音さん。その彼女が「凄まじい」と評する氷点下ホラー。それが『「指の綾子」考』です。 何度読み返しても正解には辿り着けなさそうな、無限ループの迷い道。「住人全員が噓つきの村」入り口の看板前で怯んでしまうような、疲労感。 本格ホラーのみが持

「春ピリカグランプリ」朗読配信ウラ話/⑥『断たれた指の記憶』 作:豆島圭

「春ピリカグランプリ2023」個人賞入賞作品の朗読について、読ませていただいた感謝と作品への向き合いを綴っています。 今回は『猫田雲丹賞』を受賞された豆島圭さんの『断たれた指の記憶』についてです。 豆島圭さんとの絡みは、今回の朗読が初めてでした。 個性的なホラーで知られる猫田雲丹さんが選出されただけのことはあるという、さすがの完成度に、身の引き締まる思いがいたしました(^^♪ 「断たれた指」というワードから、怖いテイストであることはわかるものの、テーマが見えない中で読み進

「春ピリカグランプリ」朗読配信ウラ話/④『ぐっぱ!』 作:バクゼン

「春ピリカグランプリ2023」個人賞入賞作品の朗読について、読ませていただいた感謝と作品への向き合いを綴っています。 今回は『紫乃賞』を受賞されたバクゼンさん作の『ぐっぱ!』についてです。 すまスパのヘビーリスナーとして番組を応援し続けるバクゼンさん。そのバクゼンさんの『ぐっぱ!』を一読して唸りました。文中で経緯や病状は語られませんが、主人公は重度の障害があり、他者とのコミュニケーション手段を失った若者です。おそらくはALSのような状況を想定されていると感じました。その彼

「春ピリカグランプリ」朗読配信ウラ話/⑤掌編『ダストテイル、朧げ。』 作:白鉛筆

「春ピリカグランプリ2023」個人賞入賞作品の朗読について、読ませていただいた感謝と作品への向き合いを綴っています。 今回は『橘鶫賞』を受賞された白鉛筆さんの『ダストテイル、朧げ。』です。 まずこのタイトルにやられますよね。ダストテイル、という何かはわからないけどやたらオシャレな単語の響き。調べてみると「彗星の尾の一種」とのこと。うはー!はい、もうカッコいいー! それが「朧げ。」なんですよ。「朧げ」ではなく「朧げ。」です。 余韻の上乗せ。 物語のテーマである「ためらい、ま

「春ピリカグランプリ」朗読配信ウラ話/③『こゆびくんと赤い糸』 作:camyu

「春ピリカグランプリ2023」個人賞入賞作品の朗読について、読ませていただいた感謝と作品への向き合いを綴っています。 今回はさわきゆりさん賞を受賞のcamyuさん作の「こゆびくんと赤い糸」について語らせていただきます。 わたくし、camyuさんとは今回の作品朗読が「初めまして」でございます。予備知識のない状態ですが、ユニークな内容には大変興味をそそられました。 イメージとしては「大人の紙芝居」。 裏社会の人間をめぐる恋愛事情を文体だけ子ども向けにあつらえるアレンジは、洒脱