【和歌山】乗るしかない、このみかん船に!~和歌山のIRについて考える~ 【カジノ】【IR】


取り壊される わかやま館


¥1994年の夏
今から30年近く前、僕は上の写真で取り壊されている建物(わかやま館という)の入口に並んでいた。

 建物の正面には地図がかたどられた装飾があり、和歌山を起点に、そこから矢印が世界に向け四方八方に伸びていかにも和歌山がこれから発展するぞみたいな形だったと思う。

 1994年の暑い夏、和歌山県が行政、民間全てを挙げて開催した世界リゾート博の真っ最中だった。

 バブルが崩壊し、和歌山にもその波が押し寄せんとしていた頃だ。

 こうした地方開催の博覧会は普通は赤字、よくてトントンと言われた時代。世界リゾート博は、あてにしていた関西国際空港の開業が遅れ、十中八九失敗するだろうと言われていた。

しかし蓋を開けたら開催期間3ヶ月の間に約294万人もの人が押し寄せ、地方博としては大成功、余った収益で何年間か県内の学生をヨーロッパへ語学旅行に派遣できるくらい成功した。(僕の同級生も一人行ったのを覚えている)

 

 暑い夏、建物の中も外も埋め尽くさんばかりの人ざかり。僕は小学生だった。

 そこで僕はガラスケース越しにひとつの物語を見た。

 ガラスのむこうには精巧に作られた実際の何分の1かのサイズの江戸時代の船があり、それにちょんまげ姿の人の映像を合成した出し物だ。

 それは和歌山、昔の紀伊の国出身の豪商、紀伊国文左衛門が、江戸で高値で取引されるみかんを船に満載し、危険だという周囲の反対を押し切って嵐の中を出港し数々のピンチを乗り越えて無事江戸へ届ける物語だ。

 苦難の航海の末に陸地が見えてくる。合成映像の小さな人が叫ぶ、見えたぞー、江戸だ!江戸の町だ!江戸について一行はみかんを高値で売り捌き大成功を収める。

 多少記憶違いがあるかもしれないがおおよそこんな話だったと思う。

 彼はこのみかんの輸送販売で得た利益を元手に火事が多かった江戸の建築資材、すなわち材木を扱い大成功を収める。晩年は色々と不遇が続いたようだが和歌山出身の人ではまず間違いなく偉人の一人だろう。

 老朽化して取り壊されているわかやま館を見ながら、そんなことを僕は思い出していた。

 紀文のようにリスクをとらない限り、発展はない。紀伊國屋文左衛門の物語も30年近く前の思い出も今は昔、今この建物があるこの和歌山マリーナシティで県はまた新しい船出に出ようとしている。


¥前置き

 和歌山県は2027年秋頃の開業を目指して和歌山マリーナシティにカジノを含む統合型リゾート施設を整備する予定だ。IRとよばれている。

 この記事を書いている現在コロナウィルスの新型が猛威をふるいYahoo!ニュースで和歌山と検索しても出てくるのはコロナウィルス関連ばかりだ。

でも県はタイムスケジュールに従って粛々と事務を進めている。上のわかやま館の取り壊しもその一環だ。

 僕はIRについてはじめはとても懐疑的だった。でも色々調べたり考えたりしているうちこれはどちらとも言えない、リスクを許容してみかん船に乗るしかないような気もしてきている。

 今、県は2022年3月までIRの整備計画について県民に意見を公募している。

 役所にいる人からすれば、意見などないほうがいいのかもしれない。でもあまり皆無関心すぎやしないか。一部の人が騒いでいるうちに事業が進んでいいのだろうか、これがこの記事を書くきっかけになった思いだ。
 なお僕は賛成派でも反対派でもない。和歌山が活性化するならこんなにいいことはないと思う。一方で県の身の丈にあっていない事業をやって負の遺産になったりしないだろうかという危惧もある。


 この記事は僕が県などの公表されている資料を読んで、整理したこと、自分なりに解釈し思ったことを書いている。僕は専門家でも活動家でもない、ただの一般人であり、解釈違いや事実の誤認もあるかと思う。そうした指摘は謹んでお受けする。

 だが僕としてはこの記事の細かい間違いより、和歌山県民の大半があまりに関心が低いプロジェクト、和歌山にIRを誘致する事について考えるきっかけになればいいと考えている。


¥今決まっていること

 まず考える前提として、和歌山に統合型リゾート施設(以下IRとする)を呼ぶということで、既に決まっていることを整理したい。
 このあたり県や推進派の人というのは十分説明は尽くされていると考えているかもしれないが、意外と県民には周知されていないことも多い。県の資料は長く分厚く、簡単な動画はいいところしか説明がなくて肝心なところはわからない。


*場所…和歌山マリーナシティ(下の図面を参照)

全体図面
完成イメージ図。鳥居をイメージした建物とのこと

場所は和歌山市の人工島、和歌山マリーナシティでやることが決まっている。県は事業に関心のあるいくつかの業者に県内3カ所を提示し、業者が満場一致で選んだのがマリーナシティだ。ここは冒頭お話したよう1994年の世界リゾート博開催のために埋め立てて造られた人工島だ。

なお三ヶ所というのは和歌山マリーナシティ、コスモパーク加太、旧白浜空港跡地である。

 落選した場所についてあれこれ書いても仕方ないが、他の2つに比べマリーナシティが選ばれた理由、それは大きく2つある。ひとつは大阪に近いこと(というより他が遠すぎること)、もうひとつは基本的なインフラが整備され、施設建設に必要な土地がほぼ更地としてすぐに業者に引渡できるからだと思う。

なお土地は地権者が県、和歌山マリーナシティ株、信託会社に分かれており、業者にすみやかに引き渡せるよう県が県有地以外の部分を一旦買い上げ、一括で事業者に渡すというプロセスを取る。事業者への売値は約86億円、単価にして36,700円/㎡だ。


¥予定地

ヤシの木の向こう側の空き地がIRの主要部分となる。手前には駐車場などが作られる予定だ。

 マリーナシティというのは2つの橋でそれぞれ和歌山市、海南市と繋がれている。このうち海南市方面からの橋から島に走ってくると左手に見えてくる広大な空き地、ここがIR候補地の主要部分だ。上の写真では椰子の木とガードレールの向こう側である。


 なんでこんなに広い土地が空いたままになっているのか。詳しい利活用の状況はわからない。ひとつ確かなのは、ここは冒頭話した世界リゾート博のパビリオンなどがあったメイン会場だったということ、そしてマリーナシティで大きなイベントがあると臨時駐車場になるくらい普段は使い道のない土地だということだ。

 

IRは、下の写真で見える手前の駐車場、ヨーロッパ風の建物、ローラーコースターなどがある部分を含み約23,61haに及ぶ広大なエリアに整備される予定だ。

この写真に写っている範囲はすっぽりIRの区域内に収まる


*時期

県は下記のスケジュールに基づき、2027年の開業を目指して、事務を進めている。
※下記スケージュールは若干古いもの。最新の計画案では2027年となっている。

今は区域整備計画の認定前



 今は、県と業者が協力してIRの整備計画案を策定し、国に提出する前(2022年4月28日が締め切り)に県民に意見を聞いている状態だ。(パブリックコメントという)

 多くの県民の方がどういう認識かわからないが、既に事業者も場所も時期も固まり、あとはどうやっていくかを国に認めてもらい実際に作るだけぐらいの段階である。

後は事業者が降りるとか、知事が方針を変えるとか特別なことがない限り整備に向けて進んでいく段階だ。


*事業者、運営体制

 県が表に立って進めるIR整備だが、実際に運営を担うのは民間の事業者である。運営体制としてはIR事業者に選ばれた会社を中心に特別目的会社(SPC)というのを作らせ、そこにIR事業者に選ばれた会社、その他IRの運営にノウハウのある会社数社にも出資してもらい実務を担ってもらうという形をとる。

肝心の事業者について県は様々な手順で選定を行い、現在クレアベストニームベンチャーズというカナダに本社がある会社が選ばれている。

 少し経緯を言うと県の事業者の公募にはこのクレアベストとサンシティという2社が手を挙げ県としては後者が本命だった。
 というのはクレアベストというのはカジノ事業を手がけたことはあるが本業は投資会社で、一方のサンシティは実際にカジノを海外で運営しているからだ。
 投資会社というのは、事業の立ち上げ、事業が軌道にのるまでは面倒を見るが、ある程度育ってきたらその事業を売り払って利益を出す必要がある。(会社自体がそうした性格で実際、ここは別の国で手がけたカジノ事業を売り払って和歌山のIRの手元資金にすると述べた記事がある)
 このあたりが本命ではなかった理由だろうか。なにはともあれクレアベストという会社が事業者(優先権者と県は呼んでいる。)に決まった。


*県が作ろうとしているIRとはどんなものか?

 カジノを含む統合型リゾート施設というのは一体何なのか。ニュースでも頭にカジノを含む統合型リゾート施設とよく言われるし、反対派の人はカジノガーカジノガーと叫んでいるが全体の面積からするとカジノというのは小さく(それでも延床面積が4,6haもあり、これはガーデンパーク和歌山の敷地面積5,9haよりやや小さいくらいだが)、施設の大部分というのはMICE施設(大小の会議場、展示場がたくさんある東京ビッグサイトとかパシフィコ横浜みたいなものと考えてほしい)、駐車場、プールなどの娯楽施設、そしてもっとも大きいホテルが占める。

 県資料によれば鳥居のようなメインの建物と周りの大小の建物からなる一連の大型リゾート施設、これがIRということらしい。(なおカジノはこのメインの建物の中に作られるようだ)

 なお後でも少し触れるが、現在建っているポルトヨーロッパの主要部分、すなわち遊園地部分、ウォータースライダーなどがある大きな建物のあるあたりはイメージ図ではメイン施設や公園に置き換わっているため、今の事業者から県が土地を買受ける前に取り壊させるようだ。


*カジノ

反対派の人が最も懸念しているカジノについてだが、中身としてはいわゆるカジノ、ラスベガスとか、ダニエルクレイグの007第一作でボンドが勝負したみたいな、ああいうカジノだろう。

だが公が関与するため海外のカジノのように一夜で大金持ちになったり、すってんてんになったりしないように厳しい制限が何重にも付いている。例えばカジノエリアに入るためには入場料が6000円必要だ。(24時間有効)。なかなか強気である。6000円以上は勝たないとお金を払ってカジノ見物にきたみたいになるのだろうか。


¥和歌山県はなぜIRを整備するのか

 細かくは省くが、IRというのは、急に降って沸いたような話ではなく、和歌山県での検討だけで見ても約20年越しくらいの話になる。国へのいろいろな運動、検討が重ねられ2016年にIR推進法というものが制定、全国の自治体にIRやりたいやついる?と呼びかけ色々あって今やりたいですと手を挙げているのが、大阪府・市、長崎市、そして和歌山だ。

 国は”最大”3ヶ所を認定する方針なので、認定から漏れる可能性もゼロではない。


*えっ?和歌山みたいな田舎にIRを?

できらぁっと知事が言ったかどうかはわからないが、県や知事のスタンスというのは、県の実施方針、整備計画案、知事の議会答弁などを総合すると次のような感じだ。


・和歌山県は人口の減少、少子高齢化が尋常じゃないスピードで進んでいる

・1970年代くらいに県に誘致された大企業(地元では住金や東燃と呼ばれる素材や原材料加工の会社だ)の事業所の縮小、撤退が相次ぎこのままだと尻すぼみに県の経済は縮小していく

・カジノを作って県民がギャンブル依存症になったり治安が悪くなるリスクがないとはいえないが、そうしたリスクを取ってでも、この大型な投資を呼び込む必要がある。こういう投資はもう和歌山にはなかなか見込めない。

(県の経済規模が約3兆5000億円に対し、このIRの投資は4700億円もあり、県の試算ではその後も数千億円の経済効果を見込める)


*反対派のスタンス

市民グループや共産党系の議員さんの議会での質問をまとめると大体次の感じだ。

・ギャンブル場を作ってギャンブル依存症の人がたくさん出たらどうするんだ、カジノなんかいらない。以上。
※茶化しているわけでもなんでもなく、色々主張はあるがネタでもなんでもなくこれにほぼ集約される。



・僕の気になる点

僕は基本的に賛成も反対もしないコウモリみたいなスタンスだ。世界リゾート博の頃のように和歌山に活気が戻れば嬉しいが、身の丈にあってないことをやってないか、失敗したら県が結局尻拭いするんじゃないかという懸念が一方である。次に僕の考えや気になる点を列記する。


①ポルトヨーロッパの処分、和歌山マリーナシティとの交渉経過

 僕がまず気になるのがポルトヨーロッパの主要部分が計画案ではほぼ消滅していることだ。これについて県民に取り立てて何の説明もない。いや計画案や実施案には書いてあると県は主張するかもしれないが、多くの県民は説明会なんか行かないしそんな細かい資料は見ない。事業者は何の思い入れもないから、それをなくした絵を描いてくるが、県は説明をすべきではないだろうか。わかやま館や大観覧車のように取り壊しの結果をもって納得せよということなのだろうか。

 県の実施方針や計画案、事業者応募時のFAQを見るとポルトヨーロッパの主要部分は取り壊しの上、業者に土地を更地にして引き渡す計画だ。(黒潮市場、紀州くろしお温泉、和歌山マリーナシティホテルなどは残存)。
 建設から30年近く経ち、当時開発を担った会社が経営破綻して今は和歌山マリーナシティ株式会社が運営しているが、既に大観覧車が取り壊され、メイン通り沿いにあるわかやま館も取り壊しが進んでいるため、残して活用というのは確かに現実的には難しいのかと思う。

 だが30年にわたって和歌山市の一大観光拠点だったエリアの大部分がほとんど消滅することについて県はIRの旗振り役として説明があまりになさすぎるのではないか。

 老朽化した施設など早く取り壊したほうがいいという方もいるだろうが、僕はやはりこれがまず気になった。

 次によくわからないのがIR区域の主要部分を持つ和歌山マリーナシティ株式会社との交渉経緯だ。もう既成事実のように進んでいるが、いつ縮小するとか、閉めるとかいったアナウンスは特にない。
 ここでマリーナシティの立場としては二つ考えられる。一つは、事業は続けたいが、公共事業なので渋々土地を売るというパターンだ。もうひとつはマリーナシティも経営が苦しいので渡りに船で県の打診にのっかったパターン。
どちらにしても土地代を所有者に払うのはわかる。
 県が土地を買い上げているから、まずこれは日本型IRという公共事業の一種という整理をしているはずだ。そして事業者を公募した時のQAによれば上物は所有者に壊させると言っているので、和歌山マリーナシティが今後順次建物その他を壊していくのだろう。でもその取り壊し費用はマリーナシティが負担しているのだろうか。県のいうことを聞いて持ち出しとはなんだか妙だ。では県が土地購入代金の上乗せしているのだろうか。
でも土地は最終、事業者に売るから、事業者に売る際に上乗せして県とすれば負担をIR事業者に転嫁しているのだろうか。これならなんとなく説明はつく。このあたりが議会の議事録とかにもなく、どうなっているのかよくわからない。


②カジノは根付くのか

 僕は全くギャンブルをしないので、ギャンブルの面白さは推測するしかないが、スマホのゲームなどと違って結局お金を賭けて儲かるか負けるかのヒリヒリしたスリル、儲かった時の嬉しさ、あとは各種ゲーム自体の楽しさが面白さなんだろうか。

僕は反対派の人が言っている依存症というのは多分パチンコ屋とか馬券売り場ができた以上のことは起きないという考えでそんなに心配していない。

なぜなら県は事業者、警察、保健所なども巻き込んでギャンブル依存症対策には万全を期すつもりのようだし、物理的にカジノエリアへ入場しお金をかけ遊ぶまでに幾重にも制限がかけられている。普通のカジノとは全然違い、パチンコや競馬場より厳しいかもしれない。

すなわち入場にはIRカードなる入金機能とおそらく個人認証機能がついたカードが必須、7日のうち3日しか入れない、入場料は6000円(24時間有効)、ATMが中にない、クレカ禁止などだ。カジノとして面白いのかどうかはさておき、なかなかの制限だと思う。

 実際に開業すれば、それでも抜け穴を使って色々問題も起きるかもしれないが、公共が携わっている以上ひとつ問題が起きたら更に制限がガチガチにかかるから、このあたりは多分問題ない。

 問題は上でも行ったが、果たしてカジノ初見の人、海外のカジノしか知らない人からしてこれは面白いのか、行く価値はあるのかということだ。もっというと県や事業者が見込んでいるカジノ利用を果たして達成できるのかということだ。

 はじめ僕は日本に根付くかどうかわからないカジノなんか飾りにして大きなイベントとかホテルとか他の部分でがんばればいいじゃないかと思っていたが、県の計画では事業が軌道に乗ってIRが動き出すと見込む頃には、年間2800億円の収益が上がり、うちカジノは1400億円を稼ぎ出すことになっている。これに基づいて施設の維持修繕や更新費用なども経過しているからカジノは絶対稼いでもらわないとダメなのだ。

 また県の計画では2030年の事業が軌道に乗る頃の入場者は日本人540万、外国人110万人と見込んでいる。金持ちの外国人をあてにしつつも、やはり通常営業では日本人が来ることを前提にしているのだ。

 つまり日本人にこの規制ガチガチのカジノが根付かなければ成り立たないのである。  

 県が想定する日本人の利用層とはどういう人たちなのだろう。僕よりもう少し上の50代とかである程度お金がある人達だろうか。毎週土日に行ったとして入るだけで6000円とるのは、いくら非日常性を出すと言ってもボリすぎな気もする。それなら使える金に上限をつけたほうがよくないだろうか。

 また金儲けや一文なしになるワクワク感は日本型IRでは追求は不可能なのだから、カジノゲーム自体を楽しめるものにするしかない。卑近な例だが麻雀とかゲームセンターのメダルゲームみたいに友達と集まってゲーム自体が楽しいみたいなそんなエリアにした方がいい気がする。


③和歌山マリーナシティの交通キャパは持つのか

 和歌山マリーナシティは行ったことがある人ならわかるが、アクセスするには2本の橋のどちらかを通るしかない。島に行くための電車などはない。
公共交通としてはバスだけだ。この橋自体は片側1車線ずつの立派な橋だ。大きなイベントがない限り混雑することはまずない。だがIRができたらどうなるのだろうか。

マリーナシティと海南市側を繋ぐ橋。大規模イベントでは車で渋滞する

県の計画でもページを割いて交通対策を検討しているが、とりあえずは新たなハード整備はせず交通予測とか交通業者と協議して対応していきますみたいな結論だ。

県の整備計画ではIR区域への入場を2030年に650万人と見込む。地元民でもピンとこないかもしれないので卑近な例を出そう。

 和歌山マリーナシティでは毎年、大晦日にカウントダウンライブを開催し、僕が行った2015年の実績は大晦日1日で入場者数は4万人だった。この時はIR予定区域の空き地が臨時駐車場になり、カウントダウンが終わる頃には2本の橋、和歌山市、海南市までの関連道路が車で埋め尽くされマリーナシティを出るまで2時間くらいかかった。
 県の予想であるIR区域への入場者650万というのは365日で割ると1日約17000人になる。実際は土日祝日に偏るから、カウントダウンライブの比ではない混雑になるのじゃないだろうか。
 もちろんカウントダウンライブはイベントが終わったら一気に人が帰るという特殊要素はある。それにしてもとりあえずやってみないとわからないみたいなのはどうなんだろうか。

 世界リゾート博の時は3ヶ月で294万人、この時もすごい混雑だったが、時間限定のイベント的なものもありシャトルバスがフル稼働して人をさばいていたように思う。それを半永久的にやるということだろうか。

 海に面しているのだから小さなフェリーの運行などを検討しないのかなと思う。


④身の丈にあった事業なのか、民業圧迫しないのか

 県の計画案や実施方針ではIR区域にできる施設は高級路線なので、周りの民間施設と競合しません!キリッとなっているが果たしてそうなんだろうか。

 建設される施設が巨大すぎ、稼働率を上げるためには、和歌山市、海南市の観光、ビジネス需要を根こそぎ奪わないと成り立たないビジネスなんじゃないかこれはと心配する。

 例えば作ろうとしているホテルは部屋が2500室あり、これは今ある日本のホテルの客室数と比べると品川プリンスホテルに次いで日本で2番目のホテルになる。和歌山に日本で2番目のホテルなのだ。

 またMICE施設といわれる展示場、会議場も同様だ。県の計画にある施設は大会議場が収容人数6000人超、これは横浜にある日本で一番MICEで利用されているパシフィコ横浜の大ホールより大きい。こうした会議やイベントものはいきなり増えたりしないから、よその需要を奪うしかない。 

 僕はカジノよりこちらの方が実は気になる。大きな貸館事業は作った建設費を何年かかけて回収しないといけないから、ここの稼働率が悪いとIR自体の経営自体が悪くなるのだ。これは本当に大丈夫なんだろうか。

 県は企業にプロモーションしたり、会議をどんどん誘致してやるといっているが、このあたりは未知数だ。


⑤県が被るリスク

 県の実施方針や計画案では運営も通常リスクも負担は事業者負担となっている。

 だがリスクというのは問題が起きないことを前提にしているから詳細に書いてないことが多い。例えばマリーナシティと同時期に作られた関西国際空港は毎年地盤沈下対策にすさまじいお金をかけている。和歌山マリーナシティの土地が沈んでいるという信頼おけるソースはネットには不思議なことにないが、このあたり県は事業者に納得してもらっているのだろうか。土壌汚染や液状化などの問題というのは何も起きなければいいが、起きたら泥沼というのがお決まりのパターンだ。

 また一番の懸念は、事業者たるクレアベストは投資会社だという点だ。投資会社は事業という果実が収穫可能になったら遅かれ早かれ売却する。この時、事業のヘッドたるクレアベストがいなくなったら事業はうまく継続されるのだろうか。どこまで県はクレアベストを縛れるのだろう。

また運営をやらせる特別目的会社には県は出資しない。出資はしないが、協定などにより口は出すという仕組みだ。金は出さないが口は出す。これで監督できるのだろうか。

またニュースでも言っていたが、クレアベスト自体が投資会社としては非常に規模が小さく自己資金だけで投資費用を調達できず、半分以上をクレディスイスなどの金融機関からの借り入れに頼る計画だ。IRについて県議会で審査した際、資金調達方法が不透明だとバツをつけられたと報道された。
地方議会の議員さんは県民の代表だが、別に投資や金融のプロではない。この人たちを説得できない資金計画というのは不安が残る。

⑥高野山や白浜との一体的なビジョンがない
これは主要な都市圏からのアクセスの図面などを見ていて思ったことだ。
和歌山に来る外国人は大部分、高野山とか白浜とかごちゃごちゃしていないところを目当てに来ているはずだ。和歌山マリーナシティから高野山、白浜までどれだけかかるとか、今はこんなに時間がかかるが、こうなりますとか、高野山、白浜とIRの利活用の記述が計画にあまりない。これでは標榜する自然とか伝統とかのIRの意味がないんじゃないだろうか。


 自分が思ったのはこんなところだ。けっこう投げっぱなしで気になるとか、わからないばかりで締まらない感じになってしまったが公表されている資料では僕にはこれが限界だった。
 何度も言うが僕は別に反対でも賛成でもない。IRができた後、運営がうまくいかなくても業者に投資さえしてもらうだけで県は潤うなら、いいことだと思う。
 ただこの施設を本当に成功させ和歌山という田舎の県にどう根付かせるのかの検討がもうひとつ足りないような気はしている。
 シムシティのように建物だけポンと現地に置くのではないのだ。
地域に根付かなければこの事業は成功しない。
ひとまず県は下記のホームページで整備計画案について意見を募っているし、説明用の動画を公開している。また何回か説明会もやるようだ。自分とは関係ないとは思わず考えてみてほしい。(完)

参考にしたページ
和歌山県 IR推進室
https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/020100/ir/top.html
和歌山県特定複合観光施設区域整備計画(案)に対する県民意見募集について(https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/020100/d00208944.html
「和歌山県特定複合観光施設設置運営事業」の事業者公募における優先権者候補の選定について(https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/020100/d00207455.html

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