背伸びして上場を目指す経営者に対する10のお願い

2007/08/21 http://anond.hatelabo.jp/20070821033820 より

大分昔、あるITベンチャーに勤めていました。
私は上場をきっかけに辞めました。
そんな私からの、上場を目指そうと思っている経営者に対するお願いです。

上場前

会社はあなたのものですが、社員はあなたの奴隷ではありません

うっかり他から資本を入れてなければ、あなたは十分な議決権を持っていると思います。会社はあなたのものです。しかし、社員はあなたのものではありません。社員に無理をさせてまで上場したいと思ったところで、喜んで血反吐を吐いてくれる社員はそうそういません。皆嫌がります。

上場する前提で目標を設定しないでください

確かに売り上げが沢山無いと上場が難しいのは理解できます。しかし、目標を設定するのはいいですが、その目標には現実的な根拠はありますか?現状を元に現実的な戦略はちゃんと練れていますか?それが無ければ無謀な目標です。

高い目標を設定することは良いことですが、無謀な目標を設定するのは社員のモチベーションを削ぐだけです。

多くの社員は無理してでも上場したいと思う強い理由がありません

上場すると社員は何が嬉しいのでしょうか?ストックオプションくらいですかね?ローンの信用がちょっとよくなるかもしれませんが、それなら転職するほうが楽だと思います。

あなたの会社がよほど魅力がある会社ではない限り(もちろんあなたは背伸びしてるのでそんなことはありません)、長期的に見て株価が暴騰することは期待されません。あなたの会社が少数精鋭で無い限り、社員の多くは大したオプションは与えられません。ロックされている期間で割って、月額でみるとがっくりする人は多いのでは?

ストックオプションは財産を増やすための道具ではありません

増してやあなたの私腹を肥やすための道具ではありません。

必死になって現場で頑張っている社員の多くはあなたが持っている株と比べればカスくらいのストックオプションすら持っていません。上場におけるあなたの役割は大変重要なのはわかりますし、立場上株を持ち続けなくてはいけないことも理解しています。しかし、大したオプションも与えられていない社員からしてみれば十分な議決権を持っているあなたが、必要以上にストックオプションを自分に対して発行するのは金の亡者に見えてきます。

また、政治的な目的で発行されたストックオプションは上場するために必要なのかもしれませんが、社員のモラルを低下させます。

上場まで頑張ってきてくれたみんなに対する感謝を込めてストックオプションを渡してください。また、大して利益にもならないストックオプションを渡すくらいなら普通にボーナスを出したほうがみんな喜ぶと思います。

真っ先に辞めるのは優秀な社員です

必死で売り上げを作るために社員は皆馬車馬のように働いているでしょう。そんなきつい環境で辞めるのは優秀な社員です。優秀な彼らは他の会社から常に誘いを受けています。増してや辛い仕事をしていると周りが知れば、なおさら強力に誘いがかかるでしょう。

彼らは何故あなたの元で辛い仕事を無理してまでしなくてはならないのでしょうか?

上場後

社員は上場を期に辞めます

上場というのは大きなイベントであり、一つの区切りでもあります。人によってはそこで責任を果たしたと自分で納得し、これを期に辞めることを考えます。私がいた会社では、上場が決定した時点で残っていた優秀な人達のほとんどは1年以内に辞めています。その後も残った優秀な人達は昔からずっといる人ばかりです。ストックオプションを多く与えられていたり、情が移っていたり、ただ単に我慢強かったりと色々理由はあるようですが、そう長くは続きませんでした。

辞められては困る社員に、ロック期間が長いストックオプションを与えることで引き止めることはできます。もちろん良い株価を維持できることが前提となりますが。

上場してもいいエンジニアは集まりません

IT系の企業にとっては良いエンジニアを集めることは料理屋にとって良い素材を集めるのと同等に重要です。

そもそも良いエンジニアはよほど給与が低くない限りは面白い仕事を求めて職を探します。では良いエンジニアがどんなところを見るかというと、あなたの会社のプロダクトとエンジニアです。あなたの会社には良いエンジニアの応募が集ってきていますか?もし答えがNoならば次の質問に答えてください。

・あなたの会社のプロダクトは魅力的ですか?
・あなたの会社のエンジニアは素晴らしい技術を持っていますか?

もし両方に対して自信を持ってYesと答えられるならば、あなたの頭がおかしいか、人事戦略が相当間違っています。そのまま上場したところであなたの元にはしょぼいエンジニアが集まるだけでしょう。

社員は株価を上げるのに大して興味はありません

あなたのように株価に対して責任があったり、一杯株を持っていない限り、血反吐を吐いてまで株価を上げるインセンティブは皆無です。つまりあなた達取締役クラス以外の社員は、株価は上がってくれればいいと思っていますが、別に必死になって頑張って上げたいとは思っていません。

社員が限界以上に頑張って働いてなんとか上場できました。しかし上場後も株価を維持するためには同等の売り上げ、収益が必要です。社員は永遠と続く地獄に付き合いたいとは全く思いません。

投資家は騙せても社員は騙せません

希望に満ちあふれたIRの資料を見て、投資家はあなたの会社に夢を見るかもしれません。しかし社員はその内情、現実を見ています。

投資家の方々はその夢の資料を元に株価を見ますが、社員は内情を元に株価を見ます。あなたの会社が必死に背伸びして上場して、ストックオプションを優秀な社員にしっかりと渡したところで、社員からしてみればストックオプションただの紙くずです。会社に残り続けるための強いインセンティブにはなり得ません。

社員を大事にしてください

あなたにとっては上場することは財産・社会的地位・名声の面でとても重要なことだと思います。しかし多くの社員はいずれも関係してきません。

彼らは厳しいコーポレートガバナンスやコンプライアンスよりも常識の範囲内で自由に仕事することを望みます。

彼らは経費を削減するより、好きなだけ書籍や必要な道具を購入できることを望みます。

彼らは上場するために必要な売り上げを身体を壊してまで達成するより、日々安定した生活を望みます。

社員は財産というのはただの奇麗事ではありません。上場することで短期的にあなたの財産は増えるかもしれませんが、長期的に見てあなたの最大の財産、つまりあなたの会社、人材はどうなるのでしょうか?

最後に

私がいた会社は、上場を目指す前は、比較的優秀な少人数で構成された会社でした。雰囲気もアットホームで、社長も良いものを作るには時間とコストがかかるということを理解した上で、しっかりと研究開発に予算を組んで時間をとってくれるいい社長でした。確かにきつい仕事はいっぱいありましたし、愚痴をもらしたことはあります。けど私はそれでも楽しかったし、多分その頃はみんな同じ気持ちだったと思います。

上場することが悪だとは思いません。ただ、社員を苦しめてまで上場するのは結果として良いことはない、ということです。私がいた会社も上場を目指す前はとても利益率が高く、いいものを作って順調にやっていました。無理をせずに上場を見送り、しっかりと時間をかけてマイペースで成長した上で上場に挑むこともできたはずです。

私は経営者ではないので、きっと無茶なことも書いていると思います。ただ、一つだけ社員として絶対正しいと自信を持って言えることがあります。

「社員を大事にしてください」

人は自分を大事にしてくれるところで働きたいと思います。大事にされた社員はあなたのために頑張って働いてくれるはずです。

長文失礼致しました。

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