CMタレントとしての米津玄師のパワー
米津玄師が、SONYプレイステーションの広告に新曲POP SONGを携え出演することが1月22日に発表された。
初代から続くプレステ の合言葉「1、2、3」にちなんで1月23日からプレステ プラットフォームで先行公開し、一般公開及びTV放映は24日スタート!・・・のはずが思惑通り?”流出”したCM映像が、SNSやYouTubeで拡散されまくった。
また、渋谷109には大型バナーがお目見えし早くも話題沸騰と言ったところだ。
これまでに米津玄師が出演したCM
米津玄師は過去3本のCMに出演しており、今回が4本目となる。古い順に振り返ってみよう。
ソフトバンク 2018年9月
「白戸家ミステリートレイン」シリーズCM
使用曲:Lemon
ソフトバンクは既存MVをハメ込み合成しただけなので、出演と言えないかもしれないが、すでにYouTube再生回数が1億を超えていた「Lemon」のMVは、"動画・SNS放題の新プラン"の訴求CMにピッタリだった。
また、読みにくい名前をイジった企画はその名を正確に覚えてもらうことに少なからず貢献したのではないだろうか?
というのも、Lemonが大ヒット中だったとは言え、2018年時点での米津自身の全国的な知名度はそう高くはなかった。タレントパワーランキングのミュージシャン部門で、米津がトップ30入りを果たすのは紅白歌合戦出場後の2019年になってからだ。
知名度と関心度を掛け合わせたスコアで、2018年の122位から一躍4位に急上昇。
ソフトバンクの「白戸家ミステリートレイン」シリーズCMは2018年度の「CM好感度ランキング」の2位であり、その人気や出稿量は米津にとってもかなりのメリットがあったはずだ。
ソニー 2018年10月
完全ワイヤレスイヤホンWF-SP900
使用曲:Flamingo
事実上の初CM出演となったのは「SONY」の防水ワイヤレスイヤホン。ノンタイアップでリリースされたFlamingoに合わせて雨に濡れながら独創的なダンスを披露した。
2018年10月よりWEB配信され、テレビO.A(東京・大阪・名古屋のみ)は12月からだった。このタイムラグは当初のプラン通りなのか、あるいはWEBだけの予定を後からテレビにまで広げたのかは分からない。だが、SONYのプレスリリースによるとWEBでの反響が大きかったことは確かなようだ。
CMディレクションとグラフィック撮影は、Lemon、Flamingo、馬と鹿、カムパネルラ 、PaleBlueのMV監督である山田智和だ。このCM制作について彼はこう語っている。
この狙いは注目度の高いタレントの初出演CMとして正しい。そして見事に成功している。米津玄師がカッコよく見えなければ商品もカッコよく見えないし、その商品を使うこともカッコいいと思えないものだ。
SONYは米津の所属レーベルのグループ企業であり、クライアントというよりも身内だ。このCMでイヤホンが売れ、Flamingoが売れ、両者のイメージがアップしたとしたらこれ以上のWinWinはない。
ネットに疎いお茶の間視聴者にも、このCMは「誰?この人??」と言う美しいインパクトを与えたのではないだろうか?
大塚製薬 2020年8月
カロリーメイト
使用曲:迷える羊
大塚製薬の本社は東京だが発祥は徳島だ。今でも徳島に工場を始め、本部や研究所を構えている。徳島出身の米津がツイートしたこの想いがCM出演の理由だったのかもしれない。
カロリーメイトのCM放映がスタートしたのは2020年8月。新型コロナウィルス新規感染者が1日1000人を超え始めていた頃だ。
そんな時、近未来の砂漠のような世界観の中、「世界は驚くほど早く変わっていく。しかし、人間にとって必要なものはそれほど大きく変わらないだろう。」と静かに語りかける米津のナレーションにハッとする。
「世界が変わっても人間にとって普遍的なものでありたい」と願うカロリーメイトと、常に「普遍的な音楽を作りたい」と言い続けている米津の想いがピッタリと合致している。
このCMのために書き下ろした楽曲”迷える羊”。「1000年後の未来には僕らは生きていない」と歌っているが、米津が寄せたコメントのように、1000年後の人間とも心が通じ合う共通点があるのかもしれない。
さらに、コンビニを巻き込んだプレゼントキャンペーンなども展開し、その景品には米津ビジュアルのクリアファイルや、件のSONYワイヤレスイヤホンなどを設定。トップアーティストに登りつめた米津のタレントパワーを余すことなく使い切っていた。
正式な契約期間はわからないが、露出期間はわずか1クールほどだった。多くのタレントが年契を希望しがちだが、常に変化し続ける米津は特定の企業やブランドのイメージがつくことを避けているのかもしれない。
最大パワーを発揮する最新CM
ソニー 2022年1月
プレイステーション
使用曲:POP SONG
新CMで流れる書き下ろしの新曲タイトルが「POP SONG」だとCM公開直前に発表された。
米津は常に「自分が作りたいのはポップソング」だと言い、広く遍く自分の音楽を届けたい。長く残る音楽を作りたいと言っている。そんな彼がズバリ「POP SONG」と言うタイトルの曲を出してしまうとは。。。
もう答えを出してしまうのか?引退でもする気なのか?
だが、そんな杞憂はすぐに吹っ飛ぶほど、公開されたばかりの最新CMは、これ以上ないほどのインパクトを持ってPOPした。POPとはネットゲーム用語でキャラクターやモンスターが出現することだ。”ポップソングのポップ”と”POP SONGのPOP”がWミーニングになっているのかもしれない。
ポップとアイロニーとユーモアと
ほんの30秒の映像に含まれた情報に、これまでの伏線が鮮やかに回収されていた。
米津はかつてのインタビューで「あなたにとってポップとは?」と問われ、こう答えている。
そして、こうも言っている。
昨年頃からの米津は「誰にでも共通するもの=ポップ」として「笑い」や「ユーモア」にフォーカスしているようだ。
そして、その笑いに潜む皮肉や逆説、風刺的視点も重視している。
米津に「ユーモア」を強く意識させたのは、爆笑するドアップから始まり空まで飛んだ「感電」のMV。そこで初タッグを組んだ奥山由之監督だったと言う。
奥山の写真集刊行に贈ったコメントでも彼のユーモアを称賛している。
ゲラゲラ笑いながらレコーディングしたと言う"PaleBlue"も着物姿で噺家を演じ世間を驚かせた「死神」のMVも、ユーモア米津の流れだろう。
スケジュール的に考えて、この頃にはすでにプレステCMの話はあったと思う。同時期のインタビューでこんな発言をしている。
そして、2021年にタレントパワーランキング(ミュージシャン部門)」1位を獲得した米津が、自らも企画やキャラクターデザインに関わり完成したCMがこれだ。
デビルにもハーレクインにもトランプのジョーカーにも、はたまたデスノートやティムバートンの描くキャラクターにも見えるヘアメイクとコスチューム。ボディラインが出ることをあんなに嫌がっていた男が、ミニスカート姿で惜しげもなく美脚を披露してる。
道化にも、ディランにも見えるイカれた表情で、おどけ、嘲笑いながら兵士たちを翻弄する。シリアスを脱ぎ捨てた米津は、変身したゲームキャラクターのそのものだ。米津ファン以外は彼だと気付かないかもしれないほど、最上級のサプライズがCMへの注目度を押し上げる。
このビジュアルに加え、「そうさ、どうせ何もかも 全部くだらないね 君だけの歌うたってくれ」の後に「 それもまた全部くだらねぇ」と続く歌詞が、公約通り、ポップとアイロニーとユーモアをきっちりと踏襲している。
ただ、この映像はあくまでもプレステのCMだ。POP SONGのMVは別途制作されるのだろうか?それはこのCMのインパクトさえも凌ぐのだろうか?
楽しみというより、もう「怖いもの見たさ」みたいな気分で追加情報を待ちたいと思う。
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