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あの曲を米津玄師の声で聴きたい!<勝手にカバー曲セレクト Vol.1 >

 米津玄師のあの声をオリジナル曲だけに独占させておくのは、あまりにももったいないと思ったことはないだろうか?

 彼の歌唱力がどのレベルかと言う評価は専門家に任せるとして、ヴォーカリストとしての米津玄師を”別腹”で味わってみたいと、強欲な耳が涎を垂らしている。

 米津はカバー曲をリリースしていないしライブでも自身のオリジナル曲しか歌わない。初めてギターを手にした直後から曲を作り始めたと言う彼にとって、音楽とは創作であり、自己表現であり、時にメッセージでもあるのだろう。よって、この先カバーアルバムをリリースする確率は限りなく低い。

だが、あえてこう言いたい。

「あなた、カラオケ大好きですよね?
 人様の曲、弾き語ってますよね?
 あなたが歌うと、あの名曲が
 また別の輝きを放つこと、
 自覚してますよね?」

 「どうだろうな?」と言う反応をスルーして、”もしカバーアルバムを作るとしたら”と言う想定のもと、個人的な見解と好みで、あの声で歌ってほしい楽曲を勝手にセレクトしてみた。勝手ついでに私の脳内で流れている架空のアレンジも歌唱法も、音楽ド素人として無責任に書き連ねていこう。

TRACK 1  井上陽水「氷の世界」

 一発目はノリのよさと衝撃度を重視し、狂気を孕んだこの曲をセレクト。

流れてゆくのは時間だけなのか
涙だけなのか
毎日 吹雪 吹雪 氷の世界

 ほぼ半世紀前の曲とは思えない原曲の完成度と、陽水の歌声との狂おしいほどのマッチングは犯しがたい聖域である。

 米津が歌うのならば、人声のコーラスやブラスセクションをギラついたエレクトロにし、凶暴なベースをズシズシと効かせる。テンポは原曲よりやや早め。

 キーは最も高音だけがファルセットになるギリギリ高めで、吐き捨てるようなブレスアウトを随所に散らす。氷の世界の内側を冷たい炎で溶かすように歌ってほしい。

誰か指切りしようよ 僕と指切りしようよ
軽い嘘でもいいから今日は一日
はりつめた気持でいたい
小指が僕にからんで動きがとれなくなれば
みんな笑ってくれるし
僕もそんなに悪い気はしないはずだよ

TRACK2 くるり 「ワールズエンド・スーパーノヴァ」

別にタイトルが米津っぽいから選んだわけではない。この曲はサカナクションに多大な影響を与えたと言われている。

 無機質で乾いたダンサブルチューンがクール。真っ暗な砂漠の一本道をヘッドライトだけを頼りにドライブしているような感覚。どこに辿り着くのかわからない不穏さもたまらない。

 ほぼ原曲のアレンジで、感情を一切込めないフラットな歌唱がいい。米津特有の左右にやわらかく振れるリズムの取り方で、表情も変えずに淡々と、ただ怪しく揺れ続けてくれればいいと思う。

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いつだって僕らは誰にも邪魔されず
本当のあなたを本当の言葉を
知りたいんです 迷ってるふりして
僕は風になる すぐに歩き出せる
次の街ならもう名前を失った
僕らのことも 忘れたふりして

TRACK3 小椋桂 「揺れるまなざし」

 かつて、その眼差しに文字通り心を揺さぶられたCMがあった。その時バックに流れていたのがこの「揺れるまなざし」である。アイメイク商品の広告としてこれ以上の曲があるだろうか?

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 歌詞は”春雷”や”PLACEBO”にも通じる恋の始まりの戸惑いを、平易な言葉を用いながら情緒的に描いている。

めぐり逢ったのは言葉では尽せぬ人
驚きに戸惑う僕
不思議な揺れるまなざし
心をひとり占めにして
鮮やかな物語が限りなく綴られて
君の姿が鮮やかに夜を舞う

 米津の切なさの滲む声を生かすため、原曲ほどドラマチックにアレンジせず、ストリングスとピアノを中心としたアンプラグドな編成に「打ち上げ花火」のような和テイストをそっと忍ばせる。

 ヴォーカルは品よく抑制を効かせ、声は張らない。特にAメロ〜Bメロにかけては声そのものが揺れ、語尾は消えゆくように掠れ儚く。

TRACK4 スピッツ「ガーベラ」

 この曲は、前々回のインスタライブでの歌声が忘れられない人も多いことだろう。あそこまで聴かされたらフルで聴きたいと思うのが人情である。逆に言えば、このままでは蛇の生殺しである。

 フューチャリスティックで浮遊感のあるギターサウンドに、喉を縦に開く奥行きのある歌声を乗せる。吐息に濁点が混ざるブレスアウト、スッと息を吸う音、声と声の繋ぎ目に夜の微粒子が軋む音を静かに味わいたい。

TRACK5 CHAR 「気絶するほど悩ましい」

 日本を代表する大御所ギタリストであるCHARが、わずか22歳の時にリリースしたロック面した歌謡曲である。手練れ女に翻弄される男の苦悩が官能的に描かれている。さすが阿久悠である。

 元の音源よりもライブバージョンくらいにテンポを落としたシンプルなバンドサウンド。悩ましさを極めたドMな歌詞を若さを叩きつけるように歌ってほしい。

ああ嘘つき女と怒りながら
ぼくは人生をかたむける
うまく行く恋なんて恋じゃない
うまく行く恋なんて恋じゃない

TRACK6 ゆらゆら帝国 「つぎの夜へ」

 ゆらゆら帝国には、どこか米津のシングルカップリング3曲目に通じるものを感じる。決してA面ではない。ポップの裏に潜む心地いい堕落のような。

 最初は「空洞です」をセレクトしていた。特に中国人アーテイストの”る鹿”のカバーバージョンが秀逸すぎて、このアレンジをまんま米津の声で聴きたいと思った。

 しかし、結局「つぎの夜へ」を選んだ。る鹿の歌だけで泣けてくるほどお腹いっぱいになったのも理由のひとつだが、それ以前に、この歌詞は今の米津が歌うにふさわしいような気がした。

「テキトー」に踊って、歌ってすり抜ける。頑張るのではなく「その次の夜」へ連れて行こうと歌う。

痛みは 癒えるか 心は どうかわすか
真夜中 打たれた 楔は もうはずれた
街を歩きまわるんだ バラでも くわえて
踊ってすりぬけるさ 歌ってすりぬけるさ

みんな悲しみ つれていこう
そのつぎへ つれていこう
悲しみを つれていこう
そのつぎを 夜へ

 寄り添うとか、慰めるとか、癒すとか、そんなことはしない。やさしく突き放しながら彼のテンポで歩いていく。時々、そっと振り返りながら。

 ”かまってちゃん”にとっては冷たい仕打ちに思えるかもしれないが、どう感じるかの自由度を制限しない、そのすべてを否定しない、彼の言う「勝手にすりゃいい」はある種の許しのように思う。

 歩くようなテンポで軽やかに、つぎの夜へ、そしてまた、つぎの夜へと”心をかわしながら”歌いつないでいく。「大人ってそう言うものだよね」と。

 長くなってしまったので、Vol.1 はここまでとしたい。Vol.2で書きたい曲はすでに何曲もあるので、次回も読んでいただけることを切に願う。

<追記> さらにディープなVol.2はこちら

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