スーツの左ポケットに潜んでいたパインアメ
昨日に引き続き、今日も電車ネタで恐縮なのだけど。
ターミナル駅に向かうためのホームで電車を待っていた。私は先頭から数えて3番目。私の前、2番目は大きなリュックサックを背負ったスーツの背の高い男性だった。取引先に行くのか、行ってきたのか。会社に行くのか、帰るのか。どっちかはわからない。
電車のアナウンスが鳴って、前の駅で乗客対応があったため少し遅れるという内容だった。
すると、私の前にいたスーツの男性がおもむろにスーツのポケットに手をいれた。スマホか、と思っていたら、まさかパインアメを取り出した。それも、飴1粒の袋じゃなくて、飴いっぱいの袋を。
ええ~~~~~~~!?!?! 袋で!?!?!
と、私はぎょっとして男性を見たけど、見えたのはうなじだけだった。ガサガサガサガサ、前で音が鳴ったから、たぶん袋の中から1粒を取り出したのだろう。そして開けた袋の口をくるくると2折ほどして、またスーツの左ポケットに戻した。まるで、そこがパインアメの定位置であるかのような流れだった。ピッと小さな音が聞こえたから、男性が飴1粒の袋を開けたのかもしれない。空になった袋をくしゃっとして、また左ポケットにいれた。
ただ、それだけのことが私の目の前で起こった。
なんだか、うん、別にいいんだけど、見てはいけないものを見てしまったような気がした。彼の秘密が私の目の前で意図せず暴かれてしまったような感じで、「あれ、これって見てもよかったの……?」と思った。
夜、お母さんがこっそり泣いているのを見たような、恋人のかつての恋人と撮ったプリクラを思いがけず見つけてしまったような、おばあちゃんが終活しているシーンに遭遇してしまったような、秘密を目撃してしまったときの気持ちに似ていた。
彼は、袋の状態でスーツの左ポケットにいつもパインアメを常備している。実際は単なる小腹が空いたときの非常食なだけかもしれないし、喫煙できないときの口寂しさを紛らわすためだけのものかもしれない。だけど一方で、わからないこそ思うのは、もしかしたら心の拠り所かもしれないし、働くお守りの可能性もあるということ。
私のカバンに入っているキシリトールガム、グレープ味と同じように。
”終わりよければすべてよし” になれましたか?もし、そうだったら嬉しいなあ。あなたの1日を彩れたサポートは、私の1日を鮮やかにできるよう、大好きな本に使わせていただければと思います。