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モロッコに向かう飛行機の中で

ポルトガルでワインを堪能した僕を乗せた機体は、カサブランカ郊外にあるムハンマド5世国際空港へと向かった。モロッコを独立へと導いた国王の名が元となっている。

そんな華麗な背景とは裏腹に過去に例がないほどギシギシと音をたてた機体は上空を舞うように飛んだ。ここまでほとんどの空の旅を格安航空会社で済ましてきたが、この時LCCに搭乗したことを初めて後悔した。

大袈裟ではない「死」が頭をよぎる。父よ、母よ、育ててくれてありがとう。機体は何とか着陸態勢に入り、アラビアンな制服を身に纏ったCA達も席に着いた。徐々に傾く機体、安全な着陸を期待、さもなければ死体。命の危機が近づくほど人間は妙なことが頭に浮かぶものだ。

何度も飛行機に乗りパイロットの腕も分かるようになってきた頃で、この機長は最悪だと僕の経験は主張していた。そしてその直感は正しく、着陸時に機内の衝撃は地獄絵図のようで、僕は緊急着陸時に行う態勢をとったがそれでも衝撃に耐えかねずリウマチに近い症状が数日間続くことになる。しばらくして機体がスピードを落とすと機内の乗客がざわざわしたが、CA達は「これがモロッコよ」と言わんばかりの表情で「Welcome to Morocco」と口を開いていた。

これが僕とモロッコの最悪とも言える出会いだ。そして二週間という期間を通して、この世界地図の西の果てに位置するアラビアの異国に恋をすることになる。

続く

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