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WEリーグ元年。ノジマステラを率いる北野監督が赤裸々に語る“女子サッカートップリーグの現在地”

今秋、開幕を迎えるWEリーグ。播戸竜二氏が新たに理事に就任するなど、コロナ禍の中でも徐々に話題性を高めつつあるが、現場の状況はどうなっているのか。かつてJ2リーグなど3チームで指揮を執り、2020年からノジマステラ神奈川相模原を率いる北野誠監督を訪ねたクラブハウスで、トレーナーや広報担当からも含め、“女子サッカートップリーグの現在地”が垣間見える話を聞いてきた。

ノジマフットボールパークに北野さんを訪ねてみた

2020年12月15日、ノジマフットボールパーク。

相模川沿いの、建築関係の会社とその社員寮らしきアパートメントの他には民家もまばらな場所。河川敷には市民のための運動公園があり、時折、ジョガーが通り過ぎていく。高層ビルに視界を遮られることのない広い空の下、人工芝グラウンドとクラブハウス、そして2棟の選手寮が並んでいた。

2021年秋に国内初の女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」の開幕を控え、一度、女子のチームを取材したいとはかねがね考えていた。折しも敬愛する北野誠監督が、2020年シーズンからノジマステラ神奈川相模原を率いている。わたしが北野さんを取材対象として追いかけはじめたのは、北野さんが当時J2のカマタマーレ讃岐を率いていた2015年頃のことだ。2017年刊行の拙著『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』の題材とさせていただいた5人の名将の1人でもある。

昨年2月にオンラインでのインタビューでお目にかかったのが直近の取材。直接お会いするのは一昨年の夏、FC岐阜の監督に就任した直後にクラブハウスにお邪魔して以来だ。15時からのトレーニングに少し遅れて到着したわたしを見つけると、北野さんは笑顔で声をかけに来てくださった。

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「今日は車? どっから?」
「羽田からレンタカーです」
「なによ。大分から自分の車で来たんじゃないの」

そんな軽口から入るのが北野さん流。もうこれだけで、大抵の人はこの人に魅せられてしまう。「また練習後!」と手を振ってトレーニングに戻りかけ、もう一度振り返ってこう言った。

「賢治がアウトになったね。さっき連絡来たよ」

2016年から2シーズン、北野さんが率いる讃岐で活躍したMF・馬場賢治のことだ。2018年から1年半はわたしが番記者を務める大分トリニータでJ1昇格の原動力となり、2019年夏に北野さんが監督に就任して間もないFC岐阜へと移籍して、2020年からは鹿児島ユナイテッドFCでプレーしていたのだが、折しもこの日、契約満了のリリースが出たのだった。気持ちの見えるハードワークを持ち味とする馬場を、北野さんは讃岐でも岐阜でも、厚く信頼して重用していた。

「えー! 困りましたね。今回は北野さんが呼ぶわけにもいかないし」
「そうだよ。俺に連絡くれたってさ、あいつ女子チームには入れないもん」

結局、年が明けて1月に、馬場は現役引退を発表した。北野さんは自身のSNSやブログで、馬場に渾身の「おつかれさま」と今後へのエールを贈った。その詳細にはまたいずれ、あらためて触れたい。

ボールを蹴る音が男子とはまったく違う

すでにはじまっていたトレーニングの、この日はオフ明け。ストレッチや体幹の後、パス&コントロール、ポゼッションと基礎的なメニューが続いた。ボールを蹴る音が、男子とはまったく違う。パスを出したあとの動きやポジショニングは細やかで技術も高いが、スピードや迫力の面では、やはり男子に比べると線が細かった。ノジマステラ唯一の代表メンバーであるMF・松原有沙の姿も確認でき、その様子からはやはり技術の高さがうかがわれる。

実はノジマステラにはもう一人、会いたい人がいた。2018年シーズンまで大分トリニータで、トップチームやアカデミーの選手たちの体のケアをしていたトレーナーの三井寿継さんだ。名前が名前なのでかの有名なバスケットボールマンガ『SLAM DUNK』の登場人物に絡められることも多く、人懐こいキャラクターでチーム関係者やサポーターにも人気だったが、2020年からは故郷の相模原に帰り、ノジマステラで働くようになっていた。

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フィジカル的には男子で言うと中学生年代に相当するくらいですね、と三井さんは女子について評する。

「男子に比べて100%の力を出しきる瞬間が少ないんです。だから腿裏の肉離れが起きない。筋肉が張る程度ですね。逆に人工芝グラウンドの影響でふくらはぎに負荷がかかったり、腿前に来たりすることが多いです」

そもそもの身体構造が男子と女子とでは異なるので、ケアのポイントも当然変わってくる。最もわかりやすいのは、およそ毎月1回やってくる月経だ。月経時には貧血気味になりがちなだけでなく、関節が緩みやすいため大怪我につながる危険性も高くなる。薬により月経周期をずらすなどして調整しているという。

「えー、でも三井さん男だし、どのくらいしんどいか、本当にはわかんないでしょ」
「男にはわかりようがないですからね…」

知識は持つことが出来るが、あのつらさは、わかってくれと言われても体感しようがない。でも三井さんとともに働くアシスタントトレーナーとドクター2人、女性スタッフが控えているので、そこはカバーしてもらえるそうだ。

午前の選手たちはノジマの家電販売員

女子サッカーの多くのチームで見られる「男子に比べて100%の力を出しきる瞬間が少ない」という事象は、これまで続けられてきた慣習に由来している。

ノジマステラに来たばかりの頃、北野さんはコーチからこんなことを言われた。

「この子たちは100%の力を出し切らないから、1日2試合とか連戦とかもこなせるんですよ」

えっ、そんなことあるわけないじゃんと思ったが、実際にそうだった。逆に言えば、それまでは1日2試合できる程度にしか力を使っていなかったということだ。

これまで、ノジマステラの選手たちのほとんどは株式会社ノジマの社員として契約を結んでいた。朝から3時間、近隣のノジマの店頭で家電販売の仕事に従事し、15時からグラウンドでトレーニングをスタートする。北野さんが来る前まで、トレーニングは3時間ほどにも及んでいたという。

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「この子たちは逆に、休むことも知らなかったんですよ」

強度を求めていないから、長時間やれた。ただ、集中が保てていたかどうか。

「そんな状態だったから、ずーっと同じテンポで続くメリハリのないサッカーになってしまっていたんだね。最初は男子とは別のスポーツのようだった」

北野さんはそう分析する。

レイモンドのトレーニング理論で体系づけられているように、サッカーは90分間の中で、瞬間的な力を連続して出すことが求められる競技だ。当然、トレーニングもそれに即して行われるほうがいい。北野さんは三井トレーナーに「今年は100%出させようぜ」と相談して、トレーニングメニューを組み直した。

そのぶん練習時間は1時間半から長くても2時間、集中的に取り組ませる。慣れないうちは選手たちがフラフラな状態になっていたので、怪我をさせないように三井トレーナーと様子を見ながら負荷を調整した。それでも時間を短くするかたちで、強度は落とさない。

北野さんの“改革”は、そんなところからはじまった。

もっとダイナミックなサッカーがやりたい!

ポゼッション練習を終えたチームが次に取り組んだメニューはカウンター。半面ほどに狭めたコートの両エンドにゴールを置いて、3人1組で縦に速くボールを運んでいく。これは北野さんがFC岐阜でもやっていたトレーニングだ。讃岐時代に選手たちがよく披露していた、長い三つ編みがほどけてはまた編まれるように美しく交差しながら繰り出されるカウンターを思い出す。このメニューはスピードに乗っているため、ポゼッションに比べるとかなりダイナミックで迫力が感じられた。

最後にゲーム形式。互いにダイヤモンド型のグリッドのサイドでポイントを作り、ゴールへと迫る術を考えながら対戦させていた。後方でポゼッションしつつ相手を動かし、隙を突いて長いボールを入れたりもする。自ずと長短のパスが必要となり、これまでのメニューとは一転、ボールの動きにメリハリが生まれた。

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練習終了後に「岐阜でやってたのと同じメニューですね」と言うと、北野さんは「そう。男子みたいなサッカーするねってみんなに言われるんだ」と笑った。

「女子のサッカーはやっぱりベレーザみたいな、短いパスをチョンチョンつないでやるスタイルのチームが多いの。でも僕はもっとダイナミックなサッカーがやりたいなと思っていて」

フロンターレよりもマリノスのサッカーが好きだという北野さんらしい志向だ。だが、女子は男子に比べてキック力が弱く、長いボールを蹴れない。監督就任直後の2月に話を聞いたときには、男女の差異に衝撃を受けていた。それから10ヶ月が経ったいま、グラウンドでは質量の感じられるロビングが飛び交っている。

「蹴れるようになりましたねえ」
「うん、みんな練習したもの。でもここ、人工芝でしょ。ここで蹴れても試合会場は天然芝だから、また違っててね。それも難しかったなあ」

アメリカなど海外の女子リーグは球際が激しい。だが、なでしこリーグではコンタクトプレーを避けて細やかにつなぐのが美徳とされる傾向にあった。「試合で球際強く行かせると、すぐにレフェリーが笛を吹いちゃうんだよなあ」と北野さんは嘆いた。

黒船は浦賀ではなく相模原にやってきた

北野さんが求めるのは、パワーとスピードに限った話ではない。ノジマステラではこれまで、相手を見て試合ごとの戦略を練るという要素が少なかった。どの試合でも淡々と“自分たちのサッカー”を貫いてきたという。

対戦するほとんどの相手もそういう感じだったようだ。この日トレーニングしていた斜めの突破について「相手がL字で固めてきたらどうするんですか」と訊ねると、「うーん、女子はねえ…そういうのがないんだよ」と北野さんはちょっと残念そうな表情をした。

「守備は固めるんだけど、アプローチが出来ない。中間ポジションが取れない。中間ポジションという言葉すら聞いたことがない」
「え、じゃあどうやって守ってるんですか」
「ただ一所懸命。ただ頑張る。頑張ってるところを見せるのが女子サッカー。でも、男子の頑張るところと女子の頑張るところは違うんだよ」
「確かに女子のサッカーって、見ていてあまり戦術的な駆け引きが感じられないですね」
「そう。だからちょっと物足りないの。でもね、その中でベレーザは、流れるようなサッカーをする。彼女たちはよく見てる。見てるところが全然違う。ひとつ先とかね。で、聞いてみたらやっぱり、ヴェルディのユースなんかと一緒に練習してるんだよね。だから全然違うんだよ」

そういう一部の強豪チームを除いては、戦術的な指数は決して高いとは言えない。そんな界隈にやって来た北野さんは、まさに“黒船”だった。なんせこれまで北野さんが主戦場としてきたのは“魔境”J2だ。J1昇格とJ3降格の狭間にあり、J1のようなスーパープレーヤーに頼るほどの予算もなく、智将たちが手練手管、趣向を凝らして相手の裏をかきシノギを削るリーグ。その魔境で謀略巡らせあいながらの百戦錬磨、相手のストロングポイントを潰させたら天下一と言われた名打ての戦術家、ペリー北野は選手たちにゴリゴリと意識の開国を迫った。

スペースの認知、距離という概念。これまでとは一変したサッカー指導に選手たちはたちまち食いつき、チームは戦術眼という新たな視野を得た。

それが奏功したように2020年10月13日、なでしこリーグ1部・第13節。ノジマステラはクラブ創設以来初めて、強豪・日テレベレーザに勝利する。

「リヴァプールのストーミングを見ていてあれをここでもやってみたら、それがたまたま上手くハマったんですよ」

北野さんはこともなげに笑うが、「あれをここでもやってみたら」と、そう簡単に言われても。

「いま女子の世界で最もやらなくてはならないのは戦術の部分。スピードとパワーがないぶん観客も考えながら見やすいから、戦術をきっちりやれば観ている人が絶対に面白い。『あ、このチームはこういうことをやってるんだ』っていうのがわかりやすくて、サッカー観戦の入門編になる。WEリーグになったらそういうところも育っていくといいね」

そんな話を聞きながら、思わず妄想がひろがる。ロティーナ監督あたりが女子を指導したら、それはそれは面白いことになるんじゃないだろうか。

女サカ経験者広報が明かす“女の園”の実態

ノジマステラの昨季の登録選手は20人だった。取材に行った日は、うち2人が負傷離脱中。全員揃っていたとしても11対11のゲームが出来ないから、紅白戦にはコーチングスタッフやアカデミーコーチたちが多数、入ることになる。対相手の想定はしやすくなるが、これではやはり選手たちが11対11の状況に慣れることが出来ない。使える選手をフルに使って紅白戦をやると、次の日に練習試合が出来なくなったりする。

そういう状況も、プロ化すれば大きく変わっていくはずだ。取材させてもらった昨年末時点で、徐々に社員選手からプロ契約へと切り替える話が進んでいた。

この日そういった話を教えてくれたのは、昨年2月の北野さんの取材でもお世話になったクラブ広報の小室瑞紀さんだ。都立高校サッカー部でプレー経験を持ち、サンフレッチェ広島時代のミシャさんのサッカーを追ったり、実家から近い小平グラウンドまでFC東京のトレーニングを見に行ったりしていた。だが、卒業後もプレーヤーを続けるのは無理だと考え、当時からよく読んでいたサッカー雑誌の編集者を目指そうかと模索していた中で、ノジマに入社。当初は違う部署だったのだが、社内公募で手を挙げて広報業務に携わることになった。

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自身がサッカー経験者なだけに、選手たちにも寄り添いやすい。女子同士でなくては話せないこともある。選手たちにとって、プロになるのか社員のまま続けていくのかは、今後の自身の生き方にも影響してくる選択だ。かつてのチームには結婚後もプレーしていた選手がいたが、現在は既婚者はいない。母になってサッカーを続けた選手も、これまでにはいたことがなかった。

グラウンド、クラブハウス、選手寮が同じ敷地内にあり、朝、それぞれの勤務店へと出勤した選手たちはトレーニング以降は夜までずっと、ともに過ごすことになる。その密な人間関係は時に心強く、時に息苦しい。社歴による先輩・後輩関係もある。「選手たちはずっと一緒にいるから、グラウンドで解決すべき問題をその外にまで持ち出すこともある」と北野さんは課題を挙げていたが、小室さんが調整役を務めることもあるようだ。

ファンサービスの線引きもデリケートな問題のひとつ。店舗に行けば販売員として選手たちに気軽に接することが出来るのは、ファンにとってこれまでのノジマステラの大きな魅力だったが、選手たちのプライバシーを守ることも考えなくてはならない。

今後、プロリーグ文化を育てていくにあたって、刷新しなくてはならないことが山積みだ。浦和レッズレディースやジェフユナイテッド市原・千葉レディースのように、これまでもJリーグクラブの傘下にあったチームにとっては移行のハードルは高くない。一方で、ノジマステラやちふれのような“実業団”のチームにはプロリーグのノウハウがないため、まったく新しい文化へと切り替わっていくことになる。

プロになればこれまでの生活が一変するのは選手たちだけでなく、小室さんたちクラブスタッフも、従来とは異なる役割が増えることだろう。

やはり勃発していたパワハラ・セクハラ問題!?

就任からしばらくは異国に放り出されでもしたかのように、言語や文脈を通じさせることに苦労した北野さんだったが、「ようやく最近になって俺の言ってることをみんなが理解してくれるようになったんだ」と手応えも口にした。ゲームにおいて対相手という観点が乏しかった選手たちが「立ち位置は相手があって決まってくる」ということを考えるようになってきたという。

新しいやり方に最初は半信半疑だった選手たちが、成功体験を積んで北野さんへの信頼感を見せるようになった。監督というのは結局、どのチームへ行ってもそうやって存在意義を確立していくしかない。

「俺が女子の監督やるって言ったらみんな俺のパワハラやセクハラを心配してたんだけど、そんなこと出来るわけないよ。逆にこっちがパワハラやセクハラ受けてるからね、マジで。普通にケツとか蹴ってくるしね。慣れたらみんなタメ口。タメ口じゃない選手のほうが珍しいくらいだよ」

北野さんの数あるエピソードの中でもわたしは、讃岐の監督時代、グラウンドが使えずフットサルコートで練習したときに、選手たちのモチベーションを上げようとして自らゴール前に立ち「よし! 俺に当てずにゴールに入れろ! 当てたら怖いぞ!」というレクリエーションで体を張ったという話が大好きだ。それを思い出して笑うと北野さんは苦笑いした。

「それがさあ、男子はみんな俺に当てたら本当に怖いと思ってくれたけど、いまだったらわざと俺に当ててくるからね」

ともあれ、われらが指揮官はここでもたちまち人気者になったようだ。

選手たちと似た年頃の娘も持つ北野さんだが、やはり監督としてチームを率いるのは我が子と接するのとは大違いだという。

「いままでの俺のやってきたマネジメントがまったく通用しない。最初のうちはいくら熱く語っても響かなくて、『なに言ってんだこのジジイ』みたいな目で見られてたんだよ。だから180度、やり方を変えたの。マネジメントに関しては、いままでの経験がまったく生きないね」

これまでいろいろなチームで、特に讃岐で、強烈な個性派集団をまとめてきた北野さんにも未知の領域があったのだった。そのあたりはまたいずれ、今度は女子の世界を離れたときに、あらためていろいろ教えていただきたいと考えている。

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愛車は多摩ナンバーの軽! 中古で25万円!

初めて浦賀に降り立ったペリーが日本文化に新鮮なインパクトを受けたに違いないのと同様に、北野さんもこうして“異文化”の中で監督としての幅を大いに広げた感がある。

女子はチーム数も試合数も少ないため、J2を率いていた頃に比べるとサッカーを観る時間も潤沢にある。DAZNでもチェックするが、相模原と町田のホームスタジアムが近いので、昨季J3とJ2は現地観戦したチームも多いという。

「片野坂がすごいのはね、サイドのローテーションが上手いんだよ」
「最近、ミシャはどうなの? オールコートマンツーマン」

取材の合間にそんなおしゃべりをするのが楽しくて仕方ない様子だ。手練れの指揮官が跋扈するJリーグと比べると、現状の女子サッカーはまだまだ物足りないという。なんせ監督たちに支払われる報酬が、Jリーグに比べると圧倒的に少ない。クラブによっては部活の外部コーチのような扱いにも見え、それでは指揮官のモチベーションやクオリティーも上がりにくそうだ。この点もプロ化にともなって変化してもらいたいところ。

「え、じゃあ北野さん、いま車は?」

北野さんは車やバイクが好きだ。J2を率いていた頃はカスタマイズしたベンツとハーレーを、さも悪そうなオッサン風情で(あくまでも風情で)楽しそうに乗り回していた。

「売りましたよ。俺いま25万円の軽自動車だもん。多摩ナンバーのあれ」
「マジ!? じゃああのデカい高級車たちは…選手の?」
「そうだよー。選手のほうがよっぽどいい車に乗ってるんだよ」

正社員契約で安定給与、ボーナスも保証。寮費は格安だから、選手たちは戦績に関係なく、そこそこの生活が出来る。だが、プロ契約となればそうもいかない。サッカーに集中できる生活と引き換えに安定を手放し、自らのサッカーで勝負しなくてはならなくなる。サッカーへの取り組み方も変わってくるだろうか。駐車場に並ぶ車の変化も見守っておきたい。

北野監督とノジマステラ、そしてWEリーグの今後

北野さんはWEリーグ元年もノジマステラを率いる。開幕が秋で、春から夏にかけては6節からなるプレシーズンマッチを行うという、なかなか難しいシーズンになると思われるが、新境地を切りひらく女子サッカーに新しい風を吹かせてくれることに期待したい。一方で、Jリーグに戻ってきてもらいたい思いもある。今後どうするつもりなのかと訊ねてみると、これまた実にいろんなことをやりたがっていた。

「監督よりもコーチがいいな。名だたる監督の陰で参謀役。あと解説やってみたいね。俺はカラオケバトルのAIで好成績は出せないけど、ライヴで聴かせるタイプだよ。DAZNの人に売り込んどいてよ」

取材すれば話の面白さはダントツだし、ブログ『腹の底から笑いたい』の文章もやたら巧みだ。と思っていたら「小説を書いて直木賞を狙う」などというニュースが出ていて大笑いした。相変わらずどこへ行っても報道陣の人気の的になってしまう。

元J監督が小説家デビューへ準備 直木賞目指し本気」(日刊スポーツ)

女サカ的に切ないのは「元J監督」という肩書だ。早く「WEリーグ監督」という肩書でキャッチーな訴求が出来るようにならないものか。

「北野さん、GMとかは?」
「やりたいやりたい。でも俺には最大の欠点がある。情に流されちゃう」

そんなことを笑いながら話したが、まずは2021年、WEリーグ元年の現場に、北野さんは立つ。

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WEリーグが掲げる1試合あたりの目標入場者数は5000人。コロナ禍のいま、いやそれ以前から、Jリーグでも観客動員は課題であり続けている。コロナ禍でのスタートという、いきなりのディスアドバンテージを負ったかたちだが、WEリーグにはJリーグとともに日本サッカー文化を底上げしてもらえるよう、期待している。

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