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東京から新幹線に乗って、地方に帰るときの安心感

私は今、東京に住む妹夫婦の家から子どもたちを連れて、北へ向かう新幹線に乗っている。
子どもたちは黙々と「つぶグミ」を食べている。香料の甘ったるい匂いがする。

そして私は子ども二人に挟まれて、はやく人家の密集していない土地を眺めて落ち着きたいと思っている。

関東都市圏に行くたびに思うのは、どこまでも人のためだけの生息圏が続いているなぁということである。
マンション、アパート、ビルに団地に持ち家……川には大きな橋がかかり、人を詰め込んだ電車が往復し続けている。人の生息する場所だけが隙間なくどこまでも続いている。

峠を越えたり、隣の市まで松林や田園地帯をうねうねと車で30分、みたいにはならない。

たとえは悪いけど、歯医者で歯垢を顕微鏡で拡大して見せられたときのことを思い出す。バラバラに動いている菌たちと、くっついてまとまっている菌の群れ。コロニー。(ほかにいい例えが思いつかないだけなんです、ごめんね)


私は東京生まれである。物心つく前に一家で福島県に越したので、その頃の記憶はないのだけど。
川崎市には今は亡き祖父母がいて幼少時からなじみがあった。親戚も皆、神奈川県か東京都にいる。

でも、なんだかずっと、ここに住んだら疲れてしまいそうだ、と思っていた。
だから志望大学を選ぶとき、関東圏は外した。就職活動でも。

昔、働いていた会社の新人研修で、東北の本社から横浜に派遣されていたことがある。期間は二ヶ月ほど、生まれて初めてホテル暮らしをした。
通勤しながら、巨大な生き物のおなかの中にいるみたいだと思った。血管の中を運ばれていく微生物になった気分だ。

東京には、関東都市圏には、なんでもある。ちょっと郊外でも、電車に乗ればすぐに映画館にも大きな本屋にも行けるし、寄席だって気軽に行ける。映画館に行くためだけに峠をドライブして県境を越えなくていい。駅を降りて歩いてみれば公園も川沿いも緑豊かで、けして無味乾燥でないところもいい。
たくさんの人がいるから、人間観察も捗る。
都会でしか見られないもの、行けない場所、たくさんたくさんあって羨ましい。
子どもに与えてあげられる選択肢も多いだろう。

でも、東京に出るたびに、早く帰りたいと思う。
私は密集地で生きるのに適しない種のヒトなのだろう。そして、車窓から都会の街並みをぼんやり眺めて、あんなにたくさんの人が住んでいる場所には、私みたいなヒトもたまにはいるんじゃないかと考えたりする。

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