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輸液反応性(入れるべきか 入れぬべきか)

ショックへの戦略は補液と血管収縮薬(と強心薬)

 循環動態が不安定(つまりショック)のときに、①補液と②血管収縮薬が主な戦略になると思います。強心薬の使い方は、別記事にあります(しぶい薬なので難しいかな?)。
 いずれも前負荷を増やす行為ではありますが、②血管収縮は後負荷も増やします。その代表であるノルアドレナリンは若干ながら心収縮能も上昇させます。

血管収縮薬だけで戦うな(〜これはみんな知ってる〜)

 血管収縮薬であるノルアドレナリンは、高流量で使用しすぎると心負荷による不整脈リスクが出てきます(※ 心拍出量を決める三要素「前負荷」「心収縮能」「後負荷」のうち、前負荷つまり輸液が一番、心筋酸素消費量の上昇が少ないので不整脈リスクが少ないといえます。今は詳しく述べません)。
 またノルアドレナリンによる四肢の黒色化を経験された方もいらっしゃると思います。「重要でない臓器・四肢などへの血流を抑えて主要臓器に血流を集中させることで「中心血圧」を上昇させるのがノルアドレナリンの役目です。

補液による影響(〜フランク・スターリングの曲線〜)

 下のイラストをみていただきましょう。前負荷(stressed volume)を上げる(右にいく)ほど、1回拍出量(stroke volume)が上昇するのでした。フランク・スターリングの曲線ですね(一方、「上の曲線」はざっくり「静脈圧の上昇による肺血管外水分量など」と考えてください。本来あるべきでないところに水分が漏れるイメージで大丈夫です)。

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 「輸液が有効」なエリアにいれば、輸液は1回拍出量を有効に上昇させることができます(緑の三角)。

 一方、「輸液が有害」なエリアにいれば、輸液による1回拍出量の上昇はわずかです。その代わり、静脈圧が上昇してしまい肺うっ血などをきたすリスクが高いです(赤の△)。つまり、輸液が割に合わないのです。

知りたいのは、患者がどっちのエリアにいるのか?

 上図のピンクのエリアにいれば、補液するだろうし、グレーのエリアにいれば補液を控えるでしょう。それは分かった。では、いま目の前の患者がどっちにいるの?知りたいのはそこですよね!

輸液反応性(〜静的指標と動的指標〜)

 「輸液反応性」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?輸液反応性があるというのは、上図でいうピンクのエリアに患者がいる、ということです。輸液反応性はいくつかの項目から推測できます(今後、良い指標がもっと出てくるかも知れません)。まずは静的指標と動的指標に分けましょう。

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 静的指標は、みなさんがよく使う、エコーでIVCが張っているか?というやつですね!もちろん右心カテ(スワン・ガンツカテーテル)が留置されている患者であれば、右房圧(≒CVP(中心静脈圧))や左房圧(≒PCWP(肺静脈楔入圧)を指標にすることもあるでしょう。
 静的指標が教えてくれるのはただひとつ。「IVCが虚脱」あるいは「CVPが低ければ」とりあえず入れておいて間違いはない、ということだけです。

 一方、動的指標は、ぶっちゃけ「いれてみて反応があるかをみる」という指標です。
 そして、静的指標と動的指標とでは、動的指標の方が信憑性が高いことが知られています。要するに、「入れてみないと分からない」という残酷な事実です!!!!心臓は揺さぶってなんぼです。
 輸液チャレンジテスト(Fliud challenge)というのが、実際に輸液してみて心拍出量が増えるかをみるという方法です。なんとも原始的ですね。

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※ エドワーズライフサイエンス社カタログより引用

「補液をしないですむ」動的指標2つ

 「輸液チャレンジが必要なことは分かった。だけど、実際に輸液をする前に、なにかヒントはないの?」というのがみなさんの本音ですよね。そのヒントとして有名なのは2つあります。

 一つ目は、外から輸液負荷せずとも患者の下肢の体液を負荷する、という方法です。PLR(passive leg raising)と呼び、下肢挙上により患者の静脈灌流を一時的に増やし、心拍出量が実際に増えるかをみるわけです。これで心拍出量が13%以上増えれば、「補液の価値あり」とするものです。逆に、心拍出量があまり増えなければ、「補液はやめとけ」となるわけです。

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※ エドワーズライフサイエンス社カタログより引用

 二つ目は、呼吸を利用するものです。呼吸による胸腔内圧の変化(そのほか種々の要因)により前負荷の程度は揺れ動きます。これを利用するのです。この「揺れ」は動脈圧の波形に現れます。これを測定したものがSVV(stroke volume variation)です。圧ラインにFloTracという装置をつけることで測定できます。

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※ エドワーズライフサイエンス社カタログより引用

 見ての通り、一回一回の心拍出が「レギュラー」でないと成り立ちません(心房細動では使えない)し、呼吸も「レギュラー」でないと使えません(理想は人工呼吸器管理中)が、これらの条件さえ整えば「リアルタイムに輸液反応性が確認できる優れものです。

「結局、入れてみないと分からない」ことを知っていることが大事

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 だからこそ、いつも後輩にはこう言っています。「自分が入れているつもりなのか、引いているつもりなのか、分からなくなるような管理をしたら迷子になるぞ」と。自分のとったアクションが間違っていたか正しかったかを適宜判断しながら、「フランク・スターリングの曲線の上を想像しながら歩く」のが実践的な輸液管理になります。

 長くなりましたが、ここまでおつかれさまでした。後輩のみなさんは、病院で見かけたら、相談してください。皆さんにとって、明日から役立つ知識であることを願います。


↓エドワーズライフサイエンス社 フロートラックの説明へのリンク↓

https://www.edwards.com/jp/professionals/products/flotrac


強心薬の立ち位置


前負荷についてもっとざっくり述べた記事↓

フランク・スターリングの曲線について↓


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