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クリケット・ワールドカップ2023のまとめと今後のクリケット世界大会に向けての道のり

2023年10月5日から11月19日まで、クリケット・ワールドカップがインドで開催されました。クリケット自体の情報が日本では非常に少ないので、こんなワールドカップがあったのかと驚かれる方も多いかと思います。また、2028年のロス・オリンピックで、クリケットが公式競技として採用されることも決まりました。日本のマスコミではほとんど取り上げられないのですが、世界的にはサッカーに次ぐ人気のスポーツとなっています。クリケットについて、少しでも知っていただきたいという使命感を感じて、自ら情報発信していこう思っています。よろしくお願いいたします。

そもそも、クリケットとは?


クリケットとは、英国発祥の球技で、楕円形の芝生のグラウンドで競技します。細かいルールを説明するとややこしいので、簡単に説明しようと思います。

投げたボールをバットで打つので、野球に似ています。野球は、一塁、二塁、三塁、本塁とあり、本塁に戻れたら点が入りますが、クリケットはクリースという2本の線の間を走り、無事に走れたら点になります。走り終わるまでに、打ったボールが戻ってきてウィケット(3本の柱)を倒されたらアウトになってしまうので、そう簡単には走れません。

ワールドカップで行われる形式では、守備側(ボールを投げる側)と、それを打って走る攻撃側の1イニングのみになります。野球だと9イニングまであるのですが、クリケットは1イニングのみです。1イニングと言っても、アウトの数が10、あるいは規定投球数が終了するまで続くので、野球のように簡単には終了しません。

試合はサッカーと同じで11人でプレイします。攻撃側は、アウトにならない限り一人の選手が延々と打ち続けることができます。アウトになったら別の選手に交代します。攻撃側は、1イニングの間にできるだけ多くのランを稼ぐことを目指します。野球のホームランのように、ノーバウンドでバウンダリーと呼ばれる境界線を超えれば6ラン、ゴロで境界線に到達すれば4ランです。守備側の選手がいないところに打てれば、あるいは選手の間を抜ければ、より多くのランを稼げます。

攻撃は、二人がペアになっていて、どちらか一人が打つのですが、走ると位置が入れ替わるので、打つ選手も変わります。攻撃ペアは、打ってもすぐ球が帰ってきてアウトになりそうな時は、走らないという選択もできます。

クリケットは、360度どこに打ってもよいというのが野球と大きく違うところです。打つ選手は、前だけでなく、横とか、後ろとか、守備が手薄なところに打ちます。打ちにくい球を、見事打ち返す、その瞬発力、判断力、技が見せ場となります。

守るほうはどこを守ってもよく、野球のように定位置はありません。守備側はウィケットキーパーという、野球のキャッチャーのようなポジションもありますが、それ以外の守備位置は自由なのです。

野球のように打たないで見送るというというのは基本的にありません。ある程度の範囲内に投げないといけませんが、バッツマンが打ちにくいようにワンバウンドで投げます。バッツマンはどんな球が来ても打たなければなりません。もし空振りして、ボールがウィケットにあたればそれでアウトです。

打った球がフライになり、それがノーバウンドで捕球された場合、アウトになります。すべての野手は素手なので、野球の硬球のような硬くて球速の速いボールを素手で捕球するのは大変な技です。

6球ごとに1オーバーという区切りになり、ボウラーは2オーバー連続で投げることはできないなどのルールがあります。また、投球も肘を曲げてはいけないとか、バッツマンが打てないような遠くに投げてはいけないなどの細かいルールもあります。一見ややこしそうですが、ルールがわかってくると、このスポーツの面白さも徐々にわかってきます。

クリケットの国際試合の3つのフォーマット

クリケットの国際試合は、ICC(国際クリケット・カウンシル)という組織が管理していますが、テスト、ODI、T20(T20Iとも言う)の3つの形式で別々に世界大会が行われています。また主要国では国内リーグも行われています。

テストというのは、最も伝統的な試合形式ですが、5日間に渡って開催されます。2イニング制で、投球数は無制限で、10アウトで交代となります。国際試合は、複数の国で、2、3年に渡って開催されますが、ICC認定国のみが参加資格があります。日本には参加資格はありません。

ODIというのは、ワンデイ・インターナショナルの略ですが、1日(約7時間)で終了する形式です。1イニング制で、規定投球数は300球(50オーバー)となっています。規定投球数に達するか、アウトの数が10になるかどちらかでイニングが終了になります。

ワールドカップは男子が1975年から開始になっていますが、女子は1973年から開始になっています。4年に一度開催され、今年インドで行われたのは男子のODIのワールドカップでした。ODIのワールドカップには10カ国が参加し、総当たり戦で上位の4カ国が準決勝、決勝に進みます。

ワールドカップ以外にも、ICC Championship Trophyという大会も開催されているのでちょっと紛らわしいですが、こちらは2013年と2017年にイングランド・ウェールズ共同開催で行われ、2025年にはパキスタンでの開催が予定されています。形式はODIです。

T20(トゥエンティ・トゥエンティ、T20Iとも呼ばれる)は、さらに試合時間を短めにした競技方法です。1イニング制で、アウトの数が10というのはODIと同じですが、規定投球数を120球(20オーバー)と少なくしています。これにより、試合時間が3時間ほどになりました。そのおかげでテレビ放映も可能になり、国際試合も容易になりました。

T20のワールドカップは、男子が2007年から、女子が2009年から始まっていて、2年に一度開催されています。男子は、2022年にオーストラリアで開催され、2024年6月には、西インド諸島・アメリカ合衆国共同開催で行われる予定です。アメリカがホスト国となるのは史上初です。また参加国も16から20に拡大します。

女子のT20のワールドカップは2023年には南アフリカで開催され、2024年にはバングラデシュで開催される予定です。参加国は10カ国となっています。

2028年のロサンゼルス・オリンピックで、クリケットが競技として採用されましたが、男女ともにT20の形式で行われる予定です。クリケットがオリンピック種目として採用されたのは、1900年のパリオリンピック以来ということですが、この年に行われたのは、英国とフランスの決勝戦のみ(英国が勝利)だったそうです。

クリケットはこれまで、英連邦諸国(かつてイギリスの植民地だった国)で行われていたスポーツですが、アメリカが参戦することで、世界的なスポーツとなっていくと思われます。アメリカでも2023年からメジャー・リーグ・クリケット(MLC)がスタートし、現在6チームが参加しています。

インドでは、インディアン・プレミアリーグ(IPL)が開催されていて(2008年に開始)、10チームが競い合っています。このような下地があるので、インドはクリケットでは世界でも圧倒的な強さを誇っています。また
2023年から女子のプレミアリーグがスタートし、5チームが競い合っています。

クリケットのワールドカップに参加している国は、国内にプロリーグを持っています。タリバン政権下のアフガニスタンでも、プロリーグがあり、現在6チームが所属しています。

ちなみに日本にも日本クリケット協会が主催する日本プレミアリーグがあり、5チームが参加しています。

2023年のクリケット・ワールドカップで絶好のチャンスを逃したインド

ODI形式による2023年クリケット・ワールドカップは、インドで10月5から開幕しました。

10カ国が参加し、総当たり戦でグループステージを戦い、準決勝に進出したのは、1位インド、2位南アフリカ、3位オーストラリア、4位ニュージーランドでした。1位のインドは全戦全勝でした。名門イングランドは勝ち残れず、アフガニスタンはあと少しで準決勝に残れるところまで行きました。

準決勝を勝ち残ったインドとオーストラリア。その決勝戦は、11月19日に、グジャラート州のナレンドラ・モディ・スタジアムで開催されました。そこまで無敗で勝ち進んできたインドは、グループステージでオーストラリアに勝利しています。インドの勝利はほぼ確実でした。

世界ランキングの1位はインド。しかも10戦全勝。インドが準決勝でニュージーランドと戦ったのは11月15日、オーストラリアが南アフリカを破った試合は11月16日、決勝の11月19日まではインドのほうが1日分休養できています。オーストラリアは慣れない国での長期滞在で、しかも負傷者の数も多く、どうみてもオーストラリアは不利です。さらに、ここ数年、ワールドカップで勝利するのは、ほぼホスト国という事実もありました。

さらに2023年のインドは、いろんな出来事で国威が最高潮に盛り上がっている時です。

まず国際政治の分野では、今年インドでG20が開催され、モディ首相が政治的手腕を見せつけました。アフリカなどグローバルサウスをG20に引き込んだという功績が評価されていました。次にインドの無人探査機チャンドラヤーン3号が、8月23日に月面着陸に成功しました。南極に着陸したのは世界初でした。また人口が中国を抜き、インド映画のRRRがアカデミー賞で歌曲賞に輝きました。そして、クリケットでインドが勝利すれば、今年は大フィーバーになるはずでした。

さらに、決勝戦が行われるのは、モディ首相のお膝元のグジャラート州アーメダバード。13万2000人収容可能というこのスタジアムは、クリケットだけでなく、サッカーやフットボールの競技場と比べても世界トップクラスのスタジアムです。しかもそれが開催されるのが、インド最大の祭りであるディワリが終わった直後という盛り上がり最高潮のタイミング。

しかし、何ということか、インドはオーストラリアに敗北してしまうのです。オーストラリアはコイントスで後攻を選ぶのですが、先攻のインドは、次々とウィケット(アウト)を取られ、何とか50オーバーまで凌ぐのですが、ランの数は240。ウィケットの数は10でした。通常は打つのがうまい選手を前半に集めるのですが、インドは11人目の選手まで打順が回ってしまいました。

後攻のオーストラリアは、240以上のランを稼げば勝利となります。当初の予想ではインドは300以上のランを達成するとみられていたのですが、240は楽勝とは言わないですが、わりと達成可能な数字です。最初は、オーストラリアがそこまで行けないのではないかという感じもありましたが、二番手のトラビス・ヘッドがセンチュリーを達成します(100ランを稼ぐこと)。最終的には137ラン稼ぐのですが、規定投球数をまたずに241ランを達成して勝利してしまいました。

インドの落胆といったらありませんでした。勝てるはずの試合に、負けてしまったのですから。

インドのヴィラット・コーリが、今回のワールドカップを通してのMVPとして表彰されたのですが、決勝に負けていたのであまり嬉しそうではありませんでした。彼はこの大会で765のランを稼ぎ、ランの数ではナンバーワンでした。また平均ラン数も95.62というすごいものでした。ODIでの累積のセンチュリーの数(100ラン以上を達成すること)も、このワールドカップのニュージーランド戦で50を達成し、これまでインドのレジェンドのサチン・テンドゥルカルの記録を超えて、世界のトップとなっていました。

一回の試合で最も多くのランを稼いだのは、オーストラリアのグレン・マックスウェルでした。これはアフガニスタン戦で、負けそうな試合をこの選手の活躍で覆した試合でした。

あと、こちらはボウラー(投げる側)のランキング。いずれのカテゴリーもインドの選手がトップです。

インド選手の活躍は目覚ましいものがあったのですが、最後の決勝戦で不運に見舞われ、勝利を逃してしまいました。

ちなみに、今年、南アフリカで開催された女子T20ワールドカップもオーストラリアが優勝していました。

2028年ロサンゼルス・オリンピックで採用されるクリケットに向けて

ワールドカップで勝てなかったインドは次を目指して頑張るしかありません。ここで、これまでのワールドカップと今後の予定を整理しておきたいと思います。

2024年に行われるワールドカップはT20が男女とも開催されます。男子が西インド諸島と米国の共同開催。女子がバングラデシュでの開催です。その翌年、はODIの男子がパキスタンでICCチャンピオンシップトロフィーという大会が予定されていますが、女子はインドでのワールドカップがあります。26年はT20ワールドカップの男子がインド・スリランカで、女子がイングランドで開催されます。27年は南アフリカ。ジンバブエ、ナミビアでのワールドカップ、そして28年はT20男子ワールドカップもありますが、ロサンゼルスオリンピックです。

2024年のT20ワールドカップ(男子)は、ロサンゼルスオリンピックの絡みもあって、アメリカがクリケットの国際舞台に登場してくるという重要なイベントになります。開催場所および時期はすでに確定しています。

アメリカは3都市、西インド諸島は4都市で、期間は2024年6月4日から30日となります。参加国もすでに決まっています。

トータルで20カ国が参加するのですが、ホスト国は自動的に参加資格を持つので、アメリカと西インド諸島は参加します。また2022年大会での上位8カ国も自動的に参加。あとは国際ランキングの上位国から追加(今回でいうとアフガニスタンとバングラデシュの二カ国)。さらに地域予選の勝者が追加となります。

選考プロセスはこんな感じになります。

アジアは激戦区なので、アジアとEAP(東アジアパシフィック)に分かれていて、日本はEAPに入っていたのですね。EAPの予選はAとBに分かれていて、Aがクック諸島、フィージー、サモア、バヌアツ、Bがインドネシア、日本、韓国のグループで2022年の予選で、Aグループからはバヌアツが、Bグループからは日本が2023年の予選に進出し、パプア・ニューギニアで開催された試合で、EAPからはパプア・ニューギニアの出場が決まりました。

ちなみにこちらは最新の国際ランキング。ODIもT20もインドが世界のトップです。日本ははるか下の50位以下ですね。

こちらはバングラデシュで開催予定の女子のT20の図です。

バングラデシュで開催予定の2024年女子T20ワールドカップの参加国は、ホスト国としてバングラデシュが、2023年のワールドカップの上位6カ国(オーストラリア、イングランド、インド、ニュージーランド、南アフリカ、西インド諸島)、2023年のICCのT20女子世界ランキングから一カ国(パキスタン)残り二カ国は2024年に開催される予選を勝ち残った国となります。

この予選に参加できる国は、アイルランド、スリランカ、そして地域予選の勝者となります。日本は2023年の9月に行われたEAP(東アジアパシフィック)地区予選に参加したのですが、残念ながら勝ち残れませんでした。勝者はバヌアツでした。アフリカ(2カ国)がまだ決まっていませんが、他の地域予選の勝者は、アメリカ、タイ、UAE、オランダ、スコットランドとなっています。

こちらは女子のICC世界ランキングです。

ODIもT20も世界ランキングはトップはオーストラリア、2位がイングランド、3位はODIが南アフリカ、T20がニュージーランド、4位はインドとなっています。日本は50位前後ですが、世界との壁はまだまだ高いと言わざるをえません。

日本では、テレビなどでクリケットの試合を観戦する機会はありませんが、ワールドカップはインターネットでも試合経過をリアルタイムでフォローでき、ハイライトシーンもほぼリアルタイムで見ることができます。

国際スポーツとして、今後クリケットが日本でも人気が高まることを期待しています。スポーツ観戦人口としては、サッカーに次いで世界2位のクリケットなので、今後ともクリケットの情報を発信していきたいと思います。よろしくお願いいたします。

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