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"They Don't Care About Us"のダンスについて考える。

【この記事を読む前に】


まず、楽曲そのものの内容に迫る考察や丁寧な解説をされている素晴らしいサイトは沢山あるので、そちらを是非読んで頂けたらと思います。(特に参考にさせて頂いたのは下記のサイトです。)

また、それらのサイトからの引用もあります。ご了承下さい。

【はじめに】

お久し振りです、Winnieです。マイケル・ジャクソンのファンで、たまに彼のダンスを真似して踊ったりしています。好きな曲は何かと訊かれると沢山あるので選べませんが、最も特別な思い入れを持っているのは"They Don't Care About Us"(以下"TDCAU")という曲です。筆者が初めて観たマイケルのパフォーマンスが"THIS IS IT"のTDCAUで、現時点で筆者がマイケルを演じられる唯一の曲なのですが、今回は曲の中身も込みで、踊った経験がある身としてパフォーマンスに於けるTDCAUの考察をしていきたいと思います。

【コンサートでのTDCAUに対する疑問】

筆者がマイケルの様々なパフォーマンスを観ていて気になった事は、コンサートに於ける"TDCAU"の立ち位置と役割です。この楽曲の内容やテーマ、製作からリリースの経緯に関しては(特にマイケルのファンであれば)ご存知の方も多いですし、筆者よりそれらの事に関して知識や理解がある方に対して無礼を働く事になるのでここでは詳細に書きませんが、TDCAUのパフォーマンスを初めて真剣に観た時、「何故このようなシリアスな楽曲を前半に持っていくのか?」というシンプルな疑問が沸きました。

"Dangerous World Tour"以降、メッセージ性の強い楽曲のパフォーマンス(特に現代社会に根差した深刻な内容のもの)は必ずと言って良い程後半に組み込まれています。分かりやすい例が、"Earth Song"でしょう。(他にも色々ありますが、"TDCAU"との共通点としてマイケルが自ら作詞作曲したものを選ばせて頂きました。)

"Earth Song"で「地球の嘆き」として歌われている「環境破壊」や「戦争」は我々もよくニュース等で目にしますし、世界中で大規模な問題として捉えられているので、このような書き方をするのもなんですが「どんな人でも簡単に共鳴し、とっつき易い」側面があるように感じます。

反面、"TDCAU"はどうでしょう。'95年~'96年に開催された"HIStory World Tour"では序盤のメドレーで2曲目に"TDCAU"が組み込まれていました。楽曲自体は近年盛んになった人種差別反対運動の象徴として再評価されている反面、人によっては「警察による暴力」や「差別の実態」がピンと来なくて、何処か他人事に思ってしまう節は少なからずあるかもしれません。勿論、人が人に対して暴力を振るうのは行動に起こした時点で理屈抜きに良くない事ですが、それらが国家レベルの問題かつ社会の秩序の崩壊となり得る事例がごまんとあるのに何故か表立っていないのも無関心の一介となっている可能性があると思っています。(アジアがルーツの人々に対する人種差別がさほど問題視されていないのも不思議ですが……。)

こうした首を傾げたくなる様な政治や社会の仕組みを批判する楽曲は『プロテスト・ソング』と呼称されており、単なる強いメッセージ性の枠に留まらないであろう"TDCAU"も例外ではありません。

長々と書いてしまいましたが、「観客を非日常に連れていく」と銘打ったコンサートで、目を背けたくなる現実を突き付ける楽曲を楽しいパフォーマンス中心の前半で突然持ってきても「カッコいい!」という感想が勝るので、世界中の人々が楽曲の中身をいちいち深刻に考えずとも楽しめる演出が計算し尽くされていたのでしょう。その辺りは流石マイケルです。ショートフィルムでは当事者かつ被害者として描かれたマイケルは、コンサートでは英雄さながらの出で立ちで理不尽な社会に立ち向かう想いの強さ、ソルジャー・オブ・ラブと呼ばれるダンサーとの結束力の強さをパフォーマンスで体現しています。このパフォーマンスは、他の楽曲と異なりマイケルだけが目立つ場面が極端に少ないのです。パフォーマンス自体はHIStory World Tourを踏襲している為か、最初から最後までマイケルとダンサーが一緒に踊る構成となっています。

【振付・演出について】

最たる例が"Drill"です。軍隊の行進を彷彿とさせるダンスパートで、振付師のトラヴィス・ペイン氏は"THIS IS IT"の特典映像で「行進さえもステップに取り入れている」と語っています。マイケルは様々なダンスを習得し、ダンスを含めて様々なステップや動きに発見と感動を以て着想を得るスタイルで創作をしており、その姿勢は「"魔法"を見つける才能がある」と評されていました。"THIS IS IT"のバージョンでは振付の複雑さが顕著になり、リズムだけのトラックや意識しないと気付かない程の細かい音に併せた俊敏で規則正しい動きは、まるで音を目で見ているかの様です。(これは実際に振付を覚えて思った事なので、かなり主観ですが。)

コンサートでは共通して間奏でギタリストとの掛け合いが終わると、マイケルは1回(コンサートによっては2、3回)雄叫びを挙げ、ダンサーと共に敬礼をします。この時サンプリングされている音楽はムソグルスキーの組曲『展覧会の絵』より『キエフの大門』とアルバムタイトル曲の『HIStory』です。映像では分かりづらいですが、"HIStory World Tour"ではアメリカの国旗とコンサート開催国の国旗が掲げられる演出があります。(筆者の初見の感想は「ご当地演出だ!良いな~」です。もしかしたら観客の愛国心(?)を掻き立てる目的もあったかもしれませんが……。)

"THIS IS IT"では"HIStory"の音源が長く引き伸ばされ、キング牧師の演説が引用されています。"THIS IS IT"はメドレーではなく曲単体での採用なので、ビジュアルも含めてより社会派色の強いパフォーマンスになる予定だったのかなと思いました。

【結論】

音楽やエンターテインメントの力を借りてTDCAUをパフォーマンス付きの楽曲にした明確な理由は見当たらないものの、「マイケルの"They Don't Care About Us"への思い入れはパフォーマーとして、そして人間として相当なもの。そうでなければコンサートで披露しなかっただろう」というのが筆者の個人的な結論です。
長文乱文になりましたが、ここまでお付き合い頂き、有り難う御座いました。

【おまけ】

"They Don't Care About Us"のブラジル・バージョンの撮影が行われたのは、下記のサイトによると、なんと2月9日~2月12日だったそうです。'96年の今頃、マイケルはブラジルに居たんですね。とても感慨深いです。

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