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10冊の歌集 #短歌を詠んだら歌集を編もう

すごい第一歌集が10冊も出たのを知っていますか。
小さななかに個性が詰まっていて、短歌大好きの方も短歌初めての方にもおすすめしたいと思ったので勝手にちょっとご紹介します。

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🌌『あんろろめら銀河』
わたしのこと犬かなにかと思っているでしょ?骨に心臓ないのすごく謎/太田垣百合子

謎。たしかに。謎?そうかも。……心の中にいきなり流星が飛び込んできて、でも受け入れちゃう、みたいな不思議な力がある。
重力のちがう星に来たみたい。地球上のどれにもよく似ていて、けれどどれとも違う気がする、しなやかな空気が一冊の中に充満している。幼少期に出会った、不思議で大人びている女の子にもう一度出会うような歌集です。

🔆『セミダブル・メルト』
いつの日か見た虹を忘れたままでひかりに乗って旅をしている/木村八朔

日向からうまれた人間はいる。そんな風に思える。ひかり、は光でも新幹線でもあるのかな。視界が一段階すっと柔らかくなる。
うれしいことは勿論、小さなさみしさや暮らしの切なさをもひかりの布でくるんでくれるような、暖かな眼差し。思い出や日々の呼吸を大切に触れる手触り。身体の中に陽だまりを作ってくれる、ビタミンのような歌集です。

🌿『ぐらでーしょんきせつ』
恋人と手をつなぐため水かきは退化したので溺れてもよし/紺屋小町

愛おしい気持ちをまっすぐ説得力を持って伝えられる歌は、すごい。溺れても という甘やかな不自由を受け入れる覚悟がある。
季節というのは大気や植物だけではなく、人と人がもつ空間にも発生する温度や手触りなのだと思わせられる。移ろいを大切に感受して書き留めるという貴いことを、一冊を通して受け取れる。あかるい窓辺の植木鉢みたいな歌集です。

🪞『ハルピュイアイ』
珊瑚でも苺でもないいろを塗るわたしに流れる血を信じない/里十井円

はっきりと否定できること。それはずっと前から気高いことだったと思い出す。本当はわたしは信じなくていいこと。
血の、身体の、生の不自然さ。言葉はささやかな武器。心からゆっくり確かに削り出した、美しい石のナイフのような歌たちが並ぶ、お護りになる本。この歌集は、この歌集が必要なあなたに必ず届く。私はそう信じています。

🔷『トランクイロ』
あなたから長女さずかりあなたからは次女をさずかるありがとうねサンキュー/清水水晶

なんてパワー。でも、力んでいない不思議な力強さ。サンキュー。なんだか涼しささえ感じる、この居心地はなんだろう。
この歌集の歌たちは現実や生活に脚をつけて歌われているはずなのに、なんだか別世界の色がついている。冷凍庫を開けた時のふわっとした心地よさのよう。人の思い出を見せてもらっているような、静かな一瞬の旅に誘ってくれる一冊。

🌇『タンカ タカノリ・タカノノタンカ』
夕方に生まれた私は割引のシールみたいに祝福された/タカノリ・タカノ

良い人、なのかはわからないが絶対に良い奴、と言われていると思う。俺とかじゃなく私なのとか、絶妙なシニカルのバランス。
鋭い視点と脱力感が一貫していて、それでたまに妙な熱さとかがあって、どんどん惹きこまれてしまう。唐揚げ(食べたら複雑な味付けで美味しい)、みたいな感じ。秘密にしておきたさと人に言いたさが同時発生する魅力のある歌集です。

🎒『Thank you for praying』
音楽をちょっとゆるめてこの町のごはんの明かりを見ながら帰る/薄暑なつ

平日も休日もこの主体は大切に歩める気がする。現実そうすることは難しくても、作品を読むことで自分も追体験できるような。
ページを進んでゆくごと、ひとつひとつの動作や匂いをつぶさに言葉にしてできた歌たちが光っている。時間の一粒一粒が自分のものだったと思えてくる。読む間は少しだけ時間が緩まるような、手のひらに灯を持つような歌集です。

🎀『HAPPY』
結局は真面目にやるのが一番で、アイスを買って帰っちゃおうか!/堀優季奈

生きていく上のミラクルってこういうことだと思う。小さいけれどその分確実なきらめき(もしかしたら命が光っているのかも)。
書籍名にぴったりの歌たち。でもこれは例えば悩みがないからではなくて、日々の大変さや切なさを受け入れた、軽やかながら覚悟を持ったHAPPYだとわかる。かけがえなく生きて暮らす人たちのためのパワーのつまった歌集です。

🏞️『水路をひらく』
好きだった以外の気持を伝えたく選んで買った鳥のクッキー/真野陽太朗

もしかしたら不器用で、でも誰よりも真っ直ぐ。気付いたら応援したくなるような、主人公のひたむきさみたいなものがある。
なんだか初めて物語に熱中したときのことを思い起こす。この歌たちの主体と同じ地平線には居ないのに、息づかいが聞こえてくるような感じ。やさしい言葉たちの奥からあふれる熱量が、皮膚に伝わってくるような質量の歌集です。

🌂『ただいま』
紙おむつを洗濯回した時くらい後悔したいそんな日もある/山口ヤスヨ

あるのか。回した時が。その上のそんな日があるのか。そしてこの言い切りがすごい。納得させられてしまう迫力。
「事実は小説より……」というが、まさにそうだなと思う。いや、この歌たちが実際事実に基づいているかとか以前に、はっきりと輪郭をもって迫ってくる。引力。ユーモアと日々を乗り越える力強さがカラフルな目の離せない歌集です。

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気になる現物は渋谷SPBS BOOKSさんで購入&予約ができました💐💐
https://www.shibuyabooks.co.jp/event/10087/

そしてなんと関連イベントとして、11/4(土)夕方に都内で歌集読書会もあるとか……📕
https://www.instagram.com/p/CyA3tB6hAHD/?igshid=MzRlODBiNWFlZA==

読んでくれてありがとう!
素敵な歌集たちが素敵に届きますように💐