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2拠点・複業の働き方で目指す、文化と交流を生む場

下田のまちなかに静かに佇むなまこ壁のお店 「Table TOMATO」。元々は1980年からご両親が営業していたブティックでした。2017年の閉店を機に山田真由美さんが飲食店としてリニューアル。こちらのお店では、伊豆の食材をふんだんに使った料理を提供しています。店内のBGMは山田さん好みのジャズやシティポップなどがレコードで流れ、2階では、暮らしと自然をテーマにした「Books半島」という書店も経営しています。
下田と大磯(神奈川)の2拠点で生活をする山田さんが目指すお店は「文化と交流を生む場」。「Table TOMATO」がオープンして3年半、下田の変化とこれからについて山田さんに聞いてみました。

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ーー山田さんはどのようなお仕事をされているんですか。

下田で生まれ、短大卒業後に東京で編集・出版関連の仕事をしていました。
約15年で3社ほど転職しながら様々な分野を経験した後、フリーランスの編集者・ライターとして独立しました。

現在は神奈川県の大磯、静岡県の下田の2拠点で働いています。
大磯にいる時は編集・ライターの仕事を、ふるさとの下田に戻って来た時は「Table TOMATO/Books半島」を営んでいます。下田では月に一度程度「風待テーブル」という交流イベントも開催しています。

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ーー関東で働いていた山田さんが下田でも働くようになったきっかけは?

下田で「茶気茶気」というダイニングバーを経営する傍、デザイナーとしても活躍されていた渡邉一夫さんと知り合ったことです。渡邉さんは下田の情報誌『下田的遊戯』というフリーペーパーを発行していました。
※「茶気茶気/CHAKICHAKI(和カフェ)」は現在伊豆市に移転。

下田には“盆暮れ正月”にしか戻らない生活でしたが、たまに帰る下田がだんだん寂しくなっていくのを感じていました。
少し仕事にも余裕がでてきた頃、「何か下田に貢献できることはないか」と渡邉さんに相談したところ、フリーペーパーのインタビュー記事を担当することになりました。ライターとして下田に貢献できるきっかけができたことがすごく嬉しかったです。


その後、ご両親の経営していたブティック「TOMATO CLOSET」の閉店がきっかけとなり、その店舗を改装し「Tabele TOMATO」をオープンします。手探りで始めたお店ですが、2拠点での仕事の良さが組み合わさり、下田では他に類を見ないお店に。

ーー元々ブティックだったお店ですが、なぜ飲食店に?

編集の仕事の傍、少しだけケータリングの仕事として料理を作っていたことがありました。また、東京で下田の食材を食べてもらう「どよう酒場」というイベントを月に一度程度開催していたこともあり、料理だったらなんとなるかなと思い、まずは「食」で始めました。

編集者目線では、下田には海のもの、山のもの、畑のものと食材がとても豊富で、それらを糧に生きる生産者さんの暮らしなど、以前からずっと興味を持ってきました。それらを料理として表現し、SNSを通じて文章で紹介できる場として、「飲食店」というスタイルは私にとってかっこうの選択でした。

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みんなで食卓を囲んでいろいろな話をするサードプレイスだったり、交流の場のような形を作っていきたいと思い、「Table」とつけました。

ーー編集者・ライターの仕事が、飲食店の仕事にも活きているように感じますね。

料理には組み合わせの面白さや見た目の驚き、お店の空気感など、「五感で感じる美味しさ」があります。ライターとして新聞や雑誌、書籍などさまざまな媒体で、「食」にまつわる文章を多く手がけてきました。人気の飲食店や、注目の料理家を取材するなかで、こうしたら喜んでいただけるのではないか、面白いのではないかというアイデアが私のなかに蓄えられています。そのアウトプットの場が「Table TOMATO」でもあるのです。

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例えば、干物であれば焼くだけでなく、ポテトサラダやコロッケにしのばせてみたり。ひじきであればオムレツやペーストにしてパスタソースにするなど、地元の人にとっておなじみの食材であっても、アレンジしだいで、新鮮な料理として受け入れてもらえる気がしています。
見慣れた食材の中に新しい食べ方、見せ方を発見していただけたらなと思い、メニューのなかに積極的に地元食材を加えるようにしています。暮らしていると当たり前になりがちですが、ここ下田は本当にさまざまな種類の、おいしい食材が気軽に手に入る、とってもゆたかな土地なのです。

それもあって、大磯にいる時も料理の研究をしたり仕込みをしたりと、「Table TOMATO」のことを考えていることも多いです。むしろお店のことばかり考えているかもしれません。笑

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ーー山田さんは、町に不足している「文化」に触れることができるお店作りを目指しています。

下田には映画館もありませんし、昔は何軒もあった書店もいまや1店舗になってしまいました。文化は、どんなに小さなまちにも必要な、心の滋養だと思っています。少しでも下田のまちに心を潤すものを加えられたらとの思いから、2階をささやかですが書店にしました。BGMは、忙しいときでもできるだけレコードをかけるようにしています。デジタルには出せないアナログの温かい音色を聴き、棚の本を眺め、伊豆のおいしさを発見する。「食」もカルチャーの一部として、私は捉えているんです。そのおかげか、最近は感度の高い若い人たちも興味をもって寄ってくれるようになりました。

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いつも、来てくださったお客さまに「何を持って帰ってもらえるか」を考えながら、店に立っています。飲食店をやっているというより、「文化と交流を生む場」という意識のほうが強いのかもしれません。

ーー楽しさ、やりがいはなんでしょう?

心に残るお客さんとのエピソードがたくさんあることです。
成人式を終えた後の女の子たちが来てくれたことも嬉しいエピソードの1つです。若い人には少し入りづらい雰囲気もあったと思いますが、成人という節目にお店の扉を開けてくれました。

別のお客さんには「ここに来ると豊かな気持ちになれる」と言ってもらえました。「美味しかった」とかではなく「豊かな気持ちになれる」です。
こうした、お客さまからかけていただいた言葉の数々は、文章を生業とする私にとって貴重な宝物です。人々の素直な感情や、心の真実がそこには表れていると思うからです。何も、ドラマティックなことが起きるわけではないけれど、お店に立っていると、日常のなかにある、見過ごしてしまいがちなちいさな幸せに気づくことができるんです。
そうしたささやかなエピソードの数々が、自分の執筆活動に大きく影響していることを最近感じます。

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現在、来春の刊行を目指して二冊目の著書、女性の料理人さんをテーマにしたルポルタージュを描いているところなのですが、この作品のなかにもトマトでお客さまと過ごした時間が息づいているような気がするのです。

1冊目の著書「おじさん酒場」

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ーーどちらの仕事も山田さんの中でよい相乗効果を生んでいるんですね!

「Table TOMATO」では月に一度程度、「風待テーブル」という交流イベントも開催しています。「風待テーブル」は『風待ちをする船のように自然とさまざまな人たちが集まり、まちのこれからについて語り合う』イベントです。山田さんが招いたゲストスピーカーのお話も聞くことができます。

風待テーブルも計画的にやっていきたいと思っています。連続することで勉強になるような感じにしたいです。いつも思いつきや出会いの中で企画してしまっているので。笑

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ーー「Table TOMATO」を始めて3年半経ちましたが、始める前と今を比べて下田の町の姿は変わってきましたか?

年々下田は良くなってきていると思います。
始めた時は、「Table TOMATO」も知られていなかったし、人との繋がりも少なく、ただお店を開けているだけでした。

今はテレワークやワーケーションの拠点施設(「LivingAnywhereCommons」など)もでき、人の流れも変わってきました。お店にも人が来るようになったし、町歩きやイベントをしている人も増えたと思います。移住者の人たちも少しずつ町にとけ込んで、コトを起こし始めています。何かやりたいと思っている人が行動できる環境が整ってきているのではないでしょうか。町の中でパソコンを広げて仕事をしている姿など、今まで見なかったことも見られるようになってきたと思います。

ーー山田さんの働き方も下田にとって良い刺激を与えていると思います。
  最後に
これからやっていきたいことを教えてください。

もっと「発信」することに力を入れていきたいですね。
下田だけでなく伊豆には素晴らしい食材があり、素晴らしい生産者さんがたくさんいます。「私に食を届けてくれる人」を掘り下げて紹介する場を増やしたい。それは紙やWebなどの媒体というようりも、「Table TOMATO」という店自体を発信の源にしていきたいんです。先ほど、店を「文化と交流を生む場」としてとらえていると言いましたが、さらに大風呂敷をひろげちゃうと(笑)、お店自体が下田を伝える媒体になれたらと、最終的にはそんな夢を描いています。

そのためには、自分自身も勉強をして下田のことをもっと知る必要があると感じています。歴史と風土をひもとけば、金目鯛などの海産物の豊富さや、土壌や気候の特性から野菜や果物の個性も見えてくるでしょう。「おいしい下田」の裏付けができたら、地元の仲間たちともまた違ったステージで切磋琢磨していけるのかなと思うのです。

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2拠点での生活や違うタイプの仕事、それぞれの良さをうまく組み合わせた新しい視点で下田を捉えている山田さん。下田を客観的に見ることで、課題や問題点を自ら考え、下田に足りないものを補いながら自分自身も成長していく姿勢が素晴らしいと思いました。山田さんの考える「文化と交流を生む場」は少しずつですが、確実に広がってきているように感じます。「Table TOMATO」に訪れた人同士がつながり、より良い下田へと変化していくのではないでしょうか。

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「Table TOMATO / Books半島」
〒415-0021 静岡県下田市1-11-18
https://facebook.com/TableTOMATO/

ライター: 温泉民宿 勝五郎 土屋尊司
写真提供:山田真由美、鈴木さよこ(3枚目)、津留崎鎮生(10枚目、12枚目)

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