ウィト家のつなぐものがたり #1 【リレー小説】
『ウィト家のつなぐものがたり』とは?
わたしたち、ウィトゲンシュタインズが
1枚の写真をテーマに、
リレー形式で紡いでいく、ものがたりです。
ものがたりの展開は、結末は、誰にもわかりません。
そう、書いている、わたしたち一人ひとりですら。
それぞれの感性の、
化学反応から生まれる、ものがたり。
どうぞお楽しみください。
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(1/7)
冬の潮風にかじかむ手を温めながら、海をながめている。
夕日色に塗られた雲、淡い青空。
冬の年の瀬、毎年この時期に、招かれるようにここに来る。
もう、あれから何年経っただろう。
水平線を眺めるように、瞼の裏のスクリーンに、また、あの日を映し出す。
(2/7)
僕は最初、悲しみのあまり自分がおかしくなったのかと思った。
あまりにも眩しくて、美しくて、儚くて。
岩礁に佇む君は、遠目にもわかるほどに僕とは違いすぎた。
僕には足があるけど君にはそれがない。
君にはヒレがあるけど、僕にはそれがなかったから。
(3/7)
君と夢の中で会えた時、初めての幸せと高揚感に包まれる。
現実は残酷だ。君と僕との違い。違うのは足だけじゃない。
近づきたい。嫌われたくない。怖い。
眺めているだけで充分だったのに。
君が僕を見つめて微笑んだ時、心のすべてを奪われた、気がした。
(4/7)
そんな君がこの海から奪われた。
あの情景は忘れもしない。決して。
未だに理解できない。どうして奪われたのか。
悔しさと不甲斐なさが同時に込み上げて頭が痛くなる。
やはり僕たちは違ったのか。
いや、そんなはずはない。
探しにいこう。どこまでも。
(5/7)
あの日から僕は君を探し続けた。
そしてある街に辿り着き、遂に君を見つけ出した。
久しぶりに見た君からは、僕の心を奪ったあの微笑みは消えていた。
君は悲しい表情を浮かべ、ガラスに囲まれた場所で、街の人たちからの好奇な眼差しに晒されていた。
(6/7)
呆然と立ち尽くしている僕がいた。
君の瞳の中にも、僕の姿を写した。
君は一瞬にして姿を変えて逃げ出した。
街の人たちは誰も気づかない。
僕は動けなかった。足に違和感を感じた。
すると一粒の涙が僕の額にあたった。
視界が暗闇に包まれた。
(7/7)
春の潮風とともに、海を眺めている。
朝日にゆっくりと包まれる世界に圧倒され、純粋な瞳に思いを馳せる。
近づきたい、嫌われたくない。会いたい。
現実と相反する感情が、今年もここへ私を導く。
出逢えて幸せだった。
この一滴は貴方に届くだろうか。
完
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ご覧いただき、ありがとうございました。
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