見出し画像

ごめんねフェルディナント

自分がアトリエを借りているのは、皆でリノベーションした旧製糸工場跡である。

そこには割と広い駐車スペースがあって、特に誰の場所とかいうこともなく、メンバーがてんで勝手に使っているのだが、今日はちょっとした異変があった。

軽トラとかミニバンとか、そんないつものラインナップの中に、いきなりいかにも高級車然とした、背の低いスポーツタイプが鎮座しているのだ。

わたしも運転をすることはするのだが、免許を取ったのは、親の介護で必要に迫られてのことで、40過ぎてからだった。
正直、それまでもその後も車には全く興味がなく、メーカーだの車種なんぞは今でもよく分からない。

だがしかし、この車についてはさすがにわかったのである。

そうポルシェなのだ。

言わずと知れたドイツの高級車である。
だがこれはどう考えてもこの場所にそぐわない一台だ。
というより、こんなところに停まっているはずもない一台である。

というわけで、アトリエの連中に聞いてみると、メンバーの一人を訪ねてきたお客さんの車らしい。

「どう考えても我々の乗る車じゃないですね」
「誰かが乗ってきたら、宝くじでも当たったとしか思えないな」
「いや、一億当たっても買わないだろ」
「そうですね、一億あったらまずドイツ製の工作機械を一通り揃えて・・」
「その前に作業場をちょっと広くしてだな」
「それでも一億かかんないでしょ」
「資金余ったら買うかな?ポルシェ」
「買わない」
「うん、買わない」
「10億だったら?」
「買わないなぁ」

要するに、ものつくり系の人にとって、どこまでも優先順位の低い車なのであった。

少し行儀が悪いのだが、こっそり車の横まで行ってじっくり観察した。
美しいフォルムの車ではある。
だがここの人たちには、全く求められない。
ちょっとポルシェが不憫になった。

この記事が参加している募集

404美術館

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?