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Sへの手紙(20)

~子供達の夢のために~

《エピローグ》

「どうです柳田さん、
 決心はつきましたか?」

仙台市内のホテルのラウンジに
柳田とRT社、石井の姿があった。
一連の騒動により柳田達は会社としての
IR計画を潰した形となり、
プロジェクトチームは解散。
陰で動いていたメンバー、工藤は
北海道支店に転勤となった。
" より旨いものが食べられる "
と本人は喜んでいた。
城島は営業部から松田のいる総務へ異動。
武田本部長と大道常務は失脚し、
新しい本部長が東京本社から
来月にはやって来るらしい。

当の柳田は自分だけが無傷でいるつもりも
ないので、早々と辞表を提出する気だった。
プロジェクトの後始末をしている中、
RT社の石井氏から一本の電話を貰った。

" 柳田さん、貴方柔角商事をお辞めに
なるつもりではありませんか?
ならば、弊社に来ませんか?"

という内容だった。
その返事の為の待ち合わせであった。

「石井さん、お誘いは深く感謝致します。
 しかし、部下達にはペナルティを
 押し付けて自分だけ良い思いを
 する訳にはいきません。
 今回の事を機に福岡に帰り、
 福岡の子供達の為に何か
 出来る事を探そうと思っています」

「そうですか…残念です。
 貴方なら良い営業マンでいられた
 事でしょう」

「色々とありがとうございました」

そう言って二人はラウンジから
別れていった。

翔平は土地売買の事を村人から聞いた。

S-グラウンドについて、
栗山監督と共同名義なのは知っていたが、
まさかRT社のM会長に
万が一の事態を託していたとは
知らなかった。
おかげで今日もグラウンドには
子供達の声がこだましている。
翔平は、何故だか不意に帰国の途についた
機内の場面が脳裏を掠めた。

「翔平、元気でやってる姿が毎日の様に
 報道されるのを、
 TVの前で楽しみにしている。
 お前が海を渡ってから三年。
 ケガとかあったがついに夢を叶えたな!
 高校生だった翔平が、
 " メジャーで二刀流 "
 なんて話はそれこそ夢物語でしか
 無かったけれど、その可能性を
 一番信じてたのが翔平、
 お前自身だったな!
 俺も曲がりなりにもプロの飯を
 食べてきた人間だ。
 それなりに力とか分かっていた
 つもりだった。
 翔平、お前の思いは、そんな俺の
 その上を行ったな。
 お前のその真っ直ぐな目を見た時、
 お前の未来に賭けてみたくなった
 あの時の俺の目に狂いはなかったな。
 
 今後翔平に憧れて" 二刀流 "を目指す
 (翔平自身 " 二刀流 "と呼ばれる
  のは好きではないだろう?)
 子供達が必ず出てくるはずだ。
 その時は翔平、お前が子供達に、
 その歩んできた背中を、
 色んな可能性の未来を
 見せてやってくれないか?
 その日の為にグラウンドは用意してある。
 あぁ" 栗の樹ファーム "はダメだぞ!
 あれは俺がイチから作ったからな!(笑)
 詳しい住所は後に書いておくから。

 翔平、本当にありがとう。
 お前みたいな凄い選手に出逢えた事、
 俺の声を聞いてくれて
 ファイターズに来てくれた事に
 感謝している。
 これからも子供達が憧れ、
 目指す存在でいてくれ。

 翔平、改めてありがとう
       
       栗山英樹」


「ていうのを、大谷翔平が引退した後に
 " 実はこんな話があったらなぁ〜 "
 みたいな事を考えたんだけど、
 兄ちゃん、これって文章になるかなぁ?」

「へぇ〜っ、面白いじゃん!」

焼肉屋でカルビやハラミを腹一杯食べながら
富夫の話を聞いていた。
あいつの大谷選手に対する熱量は相当で、

「マスコミはすぐベーブルース以来とか、
 ○○○年振りとか言ってるけど、
 いっちゃん肝心な事を忘れてるわ!」
 
なんてアルコールも入ってないのに
かなりご立腹の様子!

「えぇ、肝心な事って?」

「兄ちゃんが分からん訳ないと思うけど…」

「何だろ?投げて打って走って、
 野球の原点をやっている!どうだ!」
 
と俺は力を込めて答えた。

「三十点!かな。正解はねぇ、
 そんな原点をやってるヤツ、
 世界で大谷翔平ただ一人だけなんだよ!」

 富夫は100マイルのスピードでつっこむ。

「兄ちゃん、今すぐじゃなくて、
 五〜十年後には、子供の頃に大谷を見て、
 憧れて二刀流になる奴が
 必ず出てくると思うんだ!」

「未来の野球選手のスタンダードって訳か」

「その証拠に俺達が、ひと回りも、ふた回り
 も年下のヤツに、こんなにも熱くなり、
 想いを残そうって思わないよ!」

確かに大谷翔平という逸材は
大谷以外こなせないのだろう。
だけど、いつか大谷翔平という存在を
特別な物じゃないと思う日が来るはず。
それはそれは悲しいけれど、
物凄く楽しみでもある。

「へぇ~っ、面白いよ!
 トミ、書きな!書こうよ!
 誰かが大谷翔平の事は書くと思う。
 でも、フィクションだけど俺達の
 大谷への気持ちを残しておこう。
 UPの仕方や編集は
 一番下の弟の辰巳に頼も!」

「タイトルだけはもう
 決まってるんだ!」

" Sへの手紙 " -子供達の夢のために-

           
                 完


拝啓
日頃のご活躍を毎日楽しみにしています。

本日は突然で不躾な手紙の事や
この物語で語られている事に関して
お詫び申し上げます。

貴方のご活躍に胸が熱くなり
自分の事の様に誇らしく思い
自分の事の様に嬉しく思い
知らぬ間に涙する時もありました。
それ程の感動を貴方は私達に
与えてくれました。
この年齢まで文章を書いたり
外部へ発信した事のない私達が
何かをやろうという勇気も
貴方から貰ったものです。

大谷翔平様

改めてありがとうと言わせて下さい。

お詫びと感謝を込めて
                           遠き日本より    T.T.K



最後までお読み頂きありがとうございました

※この物語はフィクションですが、登場する
人物、団体など一部オマージュのため
使用させて頂いています。

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