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オフコース 「We are」その9 Yes-No

松尾作品「せつなくて」でホッとした後は、いよいよアルバム「We are」も小田さんの作品が3曲続いて大詰めを迎えます。

まずは「Yes-No」です。

この曲はシングルとしてリリースされたものがアルバムに収録されたのですが、シングル版とは異なります。シングル版では冒頭にフリューゲルホーンの独奏があったのですが、アルバム版ではカットされています。

これはどういうことなんでしょうか。単に収録時間の問題だったのか、それとも何らかの意図があったのでしょうか?

いずれにせよ、同じ「Yes-No」でもアルバムに収録された結果、アルバム版はシングル版とは違う表情を見せているような気がします。

シングル版では、恋に落ちた男の彼女に対する手探り感が私には感じられました。それは、やはり冒頭のフリューゲルホーン独奏がもたらす効果でしょう。男にとって初めて女性とデートすることはドラマなんですよね。そのドラマがフリューゲルホーンとともに幕開けしていくのです。戦いに臨むが如く、ですがそんなに積極的にもなれず、最初は相手の気持ちを探っていく、そんな状況です。

しかし、同じ曲ですが「We are」というアルバムの収録曲の1つに組み込まれた「Yes-No」は、その手探り感が消え、まさに「YesかNo、どっち?」という相手を問い詰めている感じが強くなっているような気がします。まぁ私の個人的感想なのですが。

「We are」の小田作品は、現在の(この当時の)オフコースサウンドを自信を持って展開しているのですが、その裏では「問いかけ」があるように思えます。問いかけの相手は、このアルバムを聴く人全てでもありますし、2人時代のオフコースファンでもあります。そして、何よりスランプに陥っているような、どこか悩んでいるような盟友の鈴木さんに問いかけてる側面があるのではと思います。

しかし、小田さんの問いかけに鈴木さんは正面から向き合いませんでした。

「おまえもひとり」では自問自答し、「いくつもの星の下で」では自分のパートナーに心情を吐露したのです。そして、「一億の夜を越えて」で出した答えが


いいさ いいさもう迷わない 
耳をかさな い
突っ走るだけ一億の夜をこえて
信じるがまま心叫ぶまま

だったのです。

小田さんからすれば


今何て言ったの?

って思わず聞き返してしまう心境になりますよね。

名曲「Yes-No」がアルバム「We are」に収録されるにあたり、B面のこの場所、3曲めになったのは、小田さんと鈴木さんの心の葛藤を反映したからかもしれません。

山際さんの「Give up」によると

「要するに、もうおれとは一緒にやりたくないというんだ。説得はしたんだ。今が一番しんどい時期だろうけど、ここを乗り切ればヤスもよくなる、と。 」

という小田さんの発言があります。これは鈴木さんが脱退を表明して小田さんが説得した時の小田さんの言葉です。2人時代の対等だった関係から5人のオフコースとなりリーダーとサブの関係へと変化してから、小田さんは鈴木さんに対して抱いていた思いだったのでしょう。

本書で、小田さんは続けて次のように述べています。

「…オフコース自体の、ちょうど曲がり角だった。 オフコースは、誰がリーダーだと決めてやってきたグループじゃなかった。おれがリーダーでヤスがセカンド・マンと決めてやっていたわけじゃない。ところが、 <We are> を作るころからマジョ(マネージャーの上野氏のこと:筆者注)が意識的におれを中心にプロモートし始めた。一人一人、個性を出していこうという方針をたてたわけだよね。その一番バッターがおれだったんだけど......」

このような小田さんの鈴木さんに対するこの思いが「Yes-No」の


何もきかないで
なにも なにも見ないで
君を悲しませるもの
なにも なにも見ないで

に木霊しているようでなりません。「とりあえず今は目を瞑ってくれないか」と。
その問いに対して「YesそれともNo?」なのか、と。

「We are」というアルバムのB面3曲め組み込まれた「Yes-No」。シングルでは感じなかった小田さんの思いが浮かび上がってきた、そんな印象を受けました。

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