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別れの情景 その1 安部恭弘「トパーズ色の月」

人は生きていると必ず出会いと別れに遭遇する。
ビリージョエルが歌詞の中で喝破したように

Life is a series of hellos and goodbyes.

なのだ。

その中でも特に、別れ、には様々なドラマがある。そんな別れの歌で特に好きな歌が安部恭弘の「トパーズ色の月」である。

私のようなアラカン世代にはヨコハマタイヤのCMで流れていたので記憶に残っている人も多いかもしれない。F1のレースシーンに流されていたがレースシーンとこの曲の組み合わせは不思議な雰囲気があり私にとっては妙に記憶に残るCMであった。ありがたいことにYouTubeにヨコハマタイアのCM集がアップされているが安部恭弘以外にも鈴木雄大や稲垣潤一といったシティポップ派がCM曲に使われていたけど、私には「トパーズ色の月」バージョンしか記憶にない。この曲は安部恭弘が1984年3月リリースしたアルバム「MODERATO」収録曲である。

この歌の男女は、男は別れたくなくて女は別れを決意している、そして、男はその気配を感じている、そんな状況である。

季節はいつ頃だろうか?

歌詞に


ヒーターが切れると
まだ寒い夜

とある。となると早春だろうか。3月の上旬頃であろう。

早春の夜、男が女をドライブに連れ出し海沿いの駐車場にクルマを停めた。

夜空にトパーズ色の月が輝き、波を照らしている。

女は何も言わず、俯いて自分の指先を見つめている。

男は沈黙に耐えきれず女を抱き寄せようとする。

女はその腕を遮る。


もうこれ以上悲しみを増やさないで

うーん…私は男性なので、どうしてもこの曲の主人公の立場で聴いてしまうが、彼女を抱き寄せようとした腕を遮られたら…絶望感を抱くだろう。このあとの歌詞のように

♪辛いね…♪

である。もうこの恋愛に先はない。それは痛いほど分かっている。でも、男は自分から別れを言い出せない。何故なら、男はまだ彼女のことを愛しているから。

だから


さよなら言って
ひとおもいに傷つけなよ

と男は思っている。

女はどうであろう。
季節を3月と想定すると、日本では節目の季節である。この女性に大きなチャンスが訪れたかもしれない。恋愛よりも今後のキャリアや人生に大きな影響を及ぼすチャンスを選択したのかもしれない。そう考えると女性の胸中の苦しさも理解できる。男のことを嫌いになったわけではない。むしろ、まだ好きなのだろう。でも、それ以上に目の前に訪れたチャンスにチャレンジしたい。そのためには恋愛はある種の足枷になる。さらに自分のキャリアのために男をいつまでも縛り付けたくない。

だから彼女は


振られるよりも 
振った方が痛いのねと 

君は不思議な言い方して 
泣きくずれた 

である。

男はあくまでも


さよなら言って
ひとおもいに傷つけなよ

である。

男の未練やずるさが垣間見える。

この頃から強い女性を描いた曲が増えていった気がする。その流れが今の草食系男子や肉食系女子につながっているのかもしれない。


流れる雲が 月の上を
滑ってゆく 
辛いね

二人の上に輝いていたトパーズ色の月に雲がかかり朧月おぼろづきとなる。はっきり見えていた二人の将来がぼんやりと霞んでいく。

朧月…春の季語である。

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