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オフコース アルバム「I LOVE YOU」 愛のゆくえ

オフコースの通算10枚目のオリジナルアルバム「I LOVE YOU」ですが、発売されたのは1982年7月1日。

そう、伝説の日本武道館10日間公演最終日の翌日。まさにこのタイミングしかないという絶妙のピンポイント。

We are over 

「僕たちは終わる」

I LOVE YOU 

「あなたたちのことを愛してる」

アルバム「We are」と「over」は、「自分たちのこと」を歌った作品群だと言えるだろう。それに対してアルバム「I LOVE YOU」はファンに向けてのメッセージとして捉えることができる。しかし、「I LOVE YOU」は「We are」や「over」ほどのまとまりは、残念ながら、ない、というか、私には感じられない。レコーディングも「over」のコンサートツアーの合間をぬって成された模様であり、メンバー五人が勢ぞろいして制作されなかったのだろう。

個々の作品の完成度は流石に高い。彼らの全盛期であっただろうし、乗りに乗っていた時期だった。でも、五人のオフコースとしてのパワーは感じられない。

そういう意味で、アルバム全体のまとまったレヴューを書くほどの考察は自分の中で未だにできていない。でも、好きな作品があることも確かで、点描的に感想を書いていこうと思っている次第。

というわけで、今回は鈴木康博作品の「愛のゆくえ」です。

この曲は当時何度も繰り返し繰り返し聴いていた思い出があります。鈴木さんの全てを悟りきったような感じがして大好きでした。

ただ、この曲自体、オフコースのメンバーの気配を感じないんですよね。鈴木さん独りの多重録音だったのでしょうか。その辺りにオフコースの終焉を感じさせる曲でもありました。


ゆっくり漕ぎだしたね
小さな舟だった
僕らはこの舟を
止めようとしている

舟とは、言うまでもなくオフコースの比喩でしょう。二人乗りの小さなボートだったのが今ではタイタニック級の豪華巨大客船となり、そのエンジンを82年6月30日に停止したわけですよね。オフコースが今後どうなるのか全く情報はありませんでしたが、この曲を聴いて自分なりに納得しました。

巨大客船ですからエンジンが停止しても完全に止まるわけでもなく余韻で進んでいく、そんなイメージですね。

この客船の乗客の一人だった私。今まで微かに響いていたエンジン音が鳴り止み、その振動も伝わらなくなった。でも船はまだ前進しているのが体感できる。ただ穏やかな波の音だけが静かに遠くから聞こえてくる。そんな感じをこの曲から連想しました。

「舟」を比喩に使っている曲といえば小田さんの「愛の中へ」ですね。


僕らをのせた舟は
風と嵐と
陽の光と闇をぬけて
季節の中を流れてゆく

と歌った小田さん。続けて、


きかせて あなたの声を

この「舟」をとめようとしていると歌った鈴木さん。

「over」の「愛の中へ」の返歌だったのでしょうか。

でも、感情的にならず淡々と歌う鈴木さんの歌声は心地良いです。爽やかな潮風に吹かれている感じです。


ああ 広い海よ 
黄昏ゆく空よ
ひとりなんだね
ぼくは今ひとりだね

空と海の間に存在しているのは自分だけ。

でも、この歌詞からは全く孤独感を感じません。穏やかな表情でこれから新たに漕ぎ出そうとしている海を見つめている、そんな感じが伝わってきます。

こんな思いでカセットテープを巻き戻しては再生していた当時の夏を思い出します。

その夏も遠くになってしまいました。

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