まじめな奴が国を滅ぼす -間違いだらけの経済常識- [2] 消費税5つのウソ(第2回
国や世の中のことを良くしようと考えている人のほとんどが、日本を滅ぼすことに加担している。なぜなら彼ら・彼女らの経済に対する考え方が、致命的に間違っているからだ。そんな悲劇的な状況を少しでも変えるべく、この連載を始めたい。まずは「社会保障の財源」として国民が納めている消費税が、いかに我が国をダメにしているか、いかにウソだらけの税金か、からスタートしよう。
今回はその第2回である(第1回は3月29日)。
3. ②消費税は「最も公平な税である」というウソ
-消費税は公平なのか?
社会保障のために消費税は減税できない、あるいは増税すべきというのは、前回見た通り大ウソであった。経団連などが消費税の増税を提唱するもう一つの理由は、消費税が公平で安定的だから。みんなから薄く広く徴収するから「公平」というのだが、これもまた大ウソなのだ。
何をもって公平とするかにはいろいろな意見があるだろうが、個人の場合は所得から同じ割合(%)をとるというのは、有力な考え方だろう。所得税は累進課税で、所得の多い人ほど税率は高くなっており、そちらの方が望ましいという考え方もある。しかし、少なくとも同じ税率(負担率)を適用することに反対する人は少ないと思う。
-消費税は所得の少ない人ほど税率が高い
しかし、消費税は所得の少ない人ほど税率(負担率)が高くなる(これを「逆進性」と言う)。下のグラフは、少し古いデータだが、総務省統計局の「家計調査」平成27年年報(2015年)を使って、二人以上の世帯で収入に占める消費税(当時の税率は8%)の負担額の割合を、世帯の年間収入別に示したものである。左から右に行くほど、年間収入は多くなる。
最も負担率の高いのは年間収入200〜250万円の世帯の7.7%であり、収入が上がるほど負担率はほぼ下がっていき、1,500万円以上の世帯ではわずか2.2%となっている。見事なまでの逆進性である。
その理由は明白で、所得の多い人ほど所得の中から消費に回す比率が低く、逆に所得が少ない人ほど消費に回す比率は高いからである。言い換えれば、所得の多い人ほど、消費をせずに貯蓄・投資に回す余裕があることになる。これのどこが公平なのだろうか?
-「安定的」な消費税は景気に逆効果をもたらす
「公平」に加えて経団連などが消費税増税を主張する理由は、消費税は景気の良し悪しに左右されない、つまり「安定的」だからというものだ。社会保障費は景気に関係なく必要なものであり、社会保障にあてる消費税の税収が景気によって上下するのは望ましくないという理屈である(そもそも社会保障にあてているというのがウソなのは、前回見た通り)。
確かに所得税や法人税は景気が良い時は増えるが、景気が悪いと減り、税収の変動が大きい。個人の所得や会社の利益が増えれば、支払う税金は増えるし、逆に所得や利益が減れば、税金は減る。それに比べると、消費はそこまで上下しないから、消費税額も変動が小さいことになる。
しかし、これは日本経済にとっていいことではない。なぜなら、景気を安定させるのが、税金の大事な機能の一つだからである。景気が良い時は所得税や法人税が増え、つまり個人や会社が持つお金を減らすことで、景気の加熱を防ぐ。景気が悪い時は逆に所得税や法人税が減り、個人や会社のお金を減らさないことが、景気の刺激につながる。これはビルト・イン・スタビライザー(自動安定化装置)と言って、高校の教科書にものっている話だ。
それに対して、消費税は景気が良かろうと悪かろうと(最近あまり景気が良いという話は聞かないが)、消費をする以上課される。景気が悪くても負担があまり減らないから、景気を良くするのには何の役にも立たないのである。それどころか、消費税は景気を悪くしてきたのだ。
4. ③消費税は「経済への悪影響は少ない」というウソ
-ほとんどの経済学者、エコノミストは消費税増税に賛成した
消費税が上がれば、消費支出が減ることなど、当たり前のように思えるが、経済の専門家のほとんどは「消費税は経済への悪影響はない」と言っていた。これもウソだった。
京都大学大学院の藤井聡教授によれば、政府は2013年に60名の経済学者やエコノミストなどの有識者に、2014年の消費税の5%から8%への増税について意見を聴取している。9割近い52名が消費税増税の景気への影響は軽微だとして「賛成(条件付きを含む)」、反対したのは6名だけであった。6名のうち、経済学者は1名、エコノミストは1名のみである。(藤井聡「プライマリー・バランス亡国論」育鵬社 2017年より)
しかし、2014年の実質成長率はマイナス0.44%であった。
-消費税増税は、リーマンショックや東日本大震災より日本経済にダメージを与えた
過去の消費税の増税3回(1997年、2014年、2019年)が景気に致命的な悪影響を与えたのは、明らかな事実である。これは意見でも主張でもない。客観的な事実である。
このグラフは、内閣府統計より株式会社クレディセゾン主任研究員の島倉原氏が作成したものである。1994年第1四半期から2020年第1四半期までの民間消費支出の推移を青線で示している。3回の消費税増税のたびに、GDP(国内総生産=日本の経済規模)の6割弱を占める消費支出が落ち込んでいるのがわかると思う。
赤い点線は、ショックによる落ち込みが底打ちした四半期から、次のショック直前の四半期までの消費支出の伸び率を示している(消費税増税前については、駆け込み需要が想定される増税直前の四半期よりも1四半期前まで)。2008年の米国住宅バブル崩壊(リーマンショック)でも、2011年の東日本大震災でも、消費支出は落ち込んでいるが、まもなく伸び率は回復しているのがわかる。しかし、1997年の消費税5%への増税、2014年の8%への増税の際には、伸び率そのものが落ちたままで回復していない。増税後の消費の落ち込みを増税前の駆け込み需要の反動だと言う人もいるが、そうではないことが明らかである(反動であれば、早晩伸び率は回復するはずだ)。
消費税を8%から10%に増税した直後の2019年10-12月のGDPは、年率換算で7.1%も落ちている。はっきり言っておくが、これは2020年になってまん延した新型コロナウイルスの発生より前の出来事である。
仮に消費税を上げるにしても(私は上げるべきではないと思っているが)、景気の良い時期に上げなければ、経済への悪影響は避けられない。この30年間本当に景気が良かったと言える時期は、日本にはなかったわけだから、消費税率を上げるべきではなかったのである。いやむしろ、逆に消費税を上げたことが、経済の停滞につながったといえるのだ。
-消費税増税は、財政悪化につながった
過去の消費税の増税は、日本の財政を悪化させてきた。そのメカニズムは図のようなものである。①消費税増税は、②消費支出を減らし、景気を悪化させ、GDPを減少させたため、③税収を減らし、④かえって財政赤字を悪化させる。
そもそも現在に至る日本経済の停滞は、1997年の消費税増税から始まっている。1997年4月に消費税が3%から5%に引き上げられた。さらに所得税・個人住民税の特別減税の廃止、社会保険料の引き上げが行われる一方で、財政支出は抑えられた。こうした政策を緊縮財政というが、赤字国債の発行を抑制し、財政構造改革を達成することが目的であった。結果はどうだったか?
消費税を増税した1997年は一時的に税収が増加したものの、翌1998年の税収は49.4兆円で、増税前年の1996年の52.1兆円から2.7兆円も減少している。消費税増税が(それにアジア通貨危機も加わり)、法人税や所得税が減ってしまったためだ。その後デフレ(物価下落)の進行により、さらに税収は減っていくことになる。
税収が減り、さらに不況になれば失業手当などの社会保障費用は増えるから、赤字国債を発行するしかなく、消費税増税以降、発行額は急増した。消費税増税の1997年以前の10年平均の3.1兆円に対して、1997年以降の10年平均は22.9兆円である。つまり、消費税増税により日本経済は停滞し、法人税・所得税の減少と社会保障費用の増加を招き、赤字財政の拡大につながったのだ。
後から振り返ってみると、1997年という年は、平均給与、小売販売額など、日本のさまざまな経済指標がピークをつけた年であり、日本衰退の起点である。その原因については、生産人口の減少をはじめ、さまざまな説があげられてきたが、真の原因は消費税増税と緊縮財政にあると考える。
すべてはバブル崩壊が悪かったと考える人たちもいる。たしかにバブル崩壊のダメージは甚大であったが、1997年までは日本経済は持ち直そうとしていたのである。それについては、この連載で改めて論じたい。(つづく)
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