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魅惑の館

青葉の上を吹き渡ってくる緑風が心地よい、東京にいることを忘れさせる。
 
 東京に降り立った目的の魅惑の館は、広々とした庭園の先にあった、魅惑の館とはアール・デコの粋を集めた建築と評される旧朝香宮邸(*1)のことだ。
 
 


ヨシコ
“アール・デコの館にしては、装飾性に乏しく、シンプルな表現ね!”
クニオ
“でも、列柱が古典を、縦長の窓が新しい時代=インターナショナルスタイルを暗示しているとおもわない?”

 
 確かに外観はシンプルな印象を与える、これは全体の設計監理を宮内省が行ったことが影響しているかもしれない。
 アール・デコはフランスを発祥としアメリカで花開いた、マンハッタンのスカイスクレーパーはその象徴だ。
20世紀初頭の大量生産・大量消費の時代の気分を表し、特にニューヨークはアール・デコ建築の都市と言ってもいいだろう。
 
旧朝香宮邸はフランスのアール・デコの香りをプンプンとさせる、キュビズムからシューレリアリズムに至る20世紀の前衛的な芸術を吸収してソフィスティケートさせた役割を果たしたアールデコ(*2)の香り  がである。
 


では、アールデコの美学でまとめ上げられた旧朝香宮邸の内部に踏み入ってみよう。
 


正面玄関では、ルネ・ラリック(*3)がデザインした有翼の女性像をモチーフとしたガラスレリーフ扉が訪問客を出迎えてくれる。
ヨシコ
“素敵! 女性の輝きや聡明さを表現しているわね”
クニオ
“20世紀初頭は様々な分野で女性の才能が開花したる時代、有翼の女性像はそんな時代の気分を表しているかもね!”

 
大広間から左に視線を向けると、黒い台座に咲く白色の香水塔と呼ばれる噴水機が人目を惹く。


モザイクタイルで幾何学的な模様が施された床、柱の黒と人造石の壁の朱色のコントラスト、三段の掛子と浮遊感のある天井……アール・デコ調の華やかな装いをまとった空間だ。
…… 香水塔の香りが客を饒舌にさせ、その後のおもてなしに期待を膨らませたことだろう。
 
クニオ
“いやー アール・デコ特有の華やかさと気品があっていいね!”
ヨシコ
“香水塔って巨大な生け花のオブジェかと思ったわ (o^ ^o) / ”
クニオ
“確かに ラパン(*4)もモチーフにしたかも! |* ̄ー ̄|  ”


 さて、続いて旧朝香宮邸で最も濃密なアール・デコの世界が堪能できる大客室へ。
 


長い縦窓はハッとするほど高く天井まで達していて優雅だ、その窓からの外光に照らし出された大客室は荘厳でさえある。
 シャンデリアもエッチング・ガラスをはめ込んだ扉も格子枠の壁もイオニア式の柱頭(黒檀だそうです)のある付け柱も素敵だけど   それらが織りなす空間はなぜか不思議な世界に観えた。
 
俗と幽玄は紙一重 …… しばし食い入る様に眺めていると……
 


 
そのしじまが突然裂けた
お客様、お客様 息を吹きかけないでください  !”
どうもエッチング・ガラスの扉を食い入る様に眺める姿に不安を覚えた係員が口を尖らせたようだ。
 
ヨシコ
“顔、くっつけすぎ!”
クニオ
“(;´∀`)   ”

 


*1)現 東京都庭園美術館 
 朝香宮鳩彦王(あさかのみや やすひこおう)夫婦がアール・デコ博覧会に強い影響を受けて建てた邸宅。戦後、外務大臣、首相公邸、迎賓館を経て、1981年に東京都庭園美術館として公開された。
*2)アール・デコ
 1910年代から30年にかけてフランスを中心としてヨーロッパを席捲した、ファッション・工芸・建築などの分野に普及した装飾様式の総称。
*3)ルネ・ラリック 1860〜1945
 フランスのジュエリーデザイナー・ガラス工芸家
*4)アンリ・ラパン 1873〜193
 フランスの室内装飾家、デザイナー、香水塔の他大広間、大客室、次室などの内装デザインを手がけた。


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