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【オリジナル『終末の獣と魔法使い』】オモト


去年のクリスマスに合わせて描き始めたけど間に合わなかったとお察しください(笑)

オモト

身長:173㎝

誕生日:1月24日

「この世界にはもうとっくに人間はいないが…。僕達魔法使いと君達ティアゾオンでかつて人間達がはしゃいでいた聖夜を楽しむのも悪くはないな」

オモトは永き時を生きる魔法使い。もう自分がいくつなのかも分からないほどだ。

かつて。遥か遠い遠い過去には、とある国のとある村で人間達と暮らしていた。魔法で人間達を助け、時には人間に助けられ、穏やかに生きていた。しかしその暮らしは突然終わりを告げる。その国の5歳の王が、魔法使いが悪役の絵本を読み、魔法使いは悪だと、魔法使い狩りを命じたのだ。

「何故そんな子供が王で、そんな子供の言うことを聞いていたのかって? 好き勝手にできるからだよ。当時の僕は本当に甘かったよ…。5歳児を王にする国なんてまともじゃない。さっさと出ていってればよかった」

オモトが暮らす村にも国の衛兵が来て、オモトは牢屋に入れられた。

この頃のオモトは、村の人間達と助け合って生きてきたことから、人間を信じていた。

牢屋なんて魔法を使えば簡単に出られる。拘束だって解くのも簡単だ。

しかしオモトはあえてそれをしなかった。

自分は無害であると信用してもらうために。

「ハハッ。コイツ、女みてぇなツラして…そそるなぁ」

牢屋に拘束されてから、オモトは衛兵達に殴られ蹴られ犯され毎日暴力を受けた。

それでも魔法は使わなかった。

2週間後。“処刑”の日。

オモトの周りを衛兵達がニヤニヤと笑いながら取り囲む。

1人の衛兵が剣を持つ。

衛兵の剣がオモトの腹を貫いた。

「ごっ…はっ…あ」

どぱりと腹から、鼻と口から、血が溢れ出る。ぽたりと涙が地面に落ちた。

剣で腹を貫かれるその瞬間まで、オモトは信じていた。人間を。もしかしたら、村の人達が助けに来てくれるかも…と。その気持ちは、流れ出る血とともに失われた。

(もう…人間は信じない…!!)

オモトは瞬間移動の魔法を発動する。

行き先はどこでもよかった。人間が居なければ、どこでも…。

辿り着いたのは、木々が生い茂る森の中だった。人間の気配は無い。

血が流れる腹を右手で押さえ、ゴフッと吐血しながら、ヨロヨロと、近くの木の根本に座り込む。木に背を預け、左手を腹の傷に近づける。ポゥと左手が光る。治癒の魔法で傷を治しながら、痛みの中でつぅと涙を頬につたわせるのだった。

「それでその国はどうなったのかって? 3年後に隣国に戦を仕掛けて滅んだよ。……いち村人が国の衛兵に歯向かえないことは解っていたよ。それでも…あの村とは永い付き合いだったから……」

辿り着いた森で暮らし始めて3年。人間を信じないと思えど、助け合って生きてきたあの村の人達のことが気になっていた。あれからどうしているのだろうかと。

瞬間移動の魔法で、こっそり村の様子を見に行くことにした。

村を見て、オモトは血の気が引いた。

村の建物はあちこち崩れていた。攻撃を受けたのは明白だった。

オモトは魔法で姿や声を変え、何があったのか、村の人達に訊いた。国が隣国に戦争を仕掛けたこと。その戦争にこの村も巻き込まれたこと。建物はこの有り様だが、村人は全員無事であること。今は隣国の領地で、隣国が復興の支援をしてくれていること。村の人達が皆無事であることに、オモトは心の底から安堵した。崩れた建物を魔法で直したかったが、それをすれば“自分”だとバレてしまう…。国のせいでこの村が大変な時に自分は…森で穏やかに…人間なんてと……。合わせる顔がない…。村の人達に早く復興が進むことを願う言葉を送って、村を去るため、村の人達に背を向け歩き出す。

背後から小さな声が聞こえた。

「あの時助けられんで申し訳ない…」

はっと見開いた瞳は途端潤みだす。

(この声は…村長……!!)

オモトは変化の魔法を解いた。スゥとオモトの姿が元に戻っていく。

「ほんとうに…ほんとうに、みんなが無事で良かったです。よく…僕だと判りましたね」

振り向いたオモトの顔は涙に濡れた笑顔だった。その涙はあの時の涙とは違う。

「さすがあなたの魔法です。最初は判りませんでしたよ。でも、村の皆が全員無事だと聞いたあなたの顔を見て、あなただと判りました。あなたこそ、生きていて良かった…!!」

「今あなたがどこでどうしてるか…あえて訊きません。今、人間の世界は、魔法使いを危険視する風潮が広まっています。あなたは優しく魔法も強力だ。その風潮に染まった人間があなたをどう扱うか…。せっかくあなたと再会できたんだ。私達もあなたとまた暮らしたい…! でも、あなたにはもう、人間のせいで、痛い思いも、つらい思いも、苦しい思いも、悲しい思いも、してほしくない…! だからもう…人間とは関わらないことを…おすすめします」

「この3年、僕は人間と隔絶して生きてきましたが、同族の魔法使いから、遠方の地で魔法使い狩りが始まっていると聞きました。いずれ世界は僕達を狩ることに染まる…。そうなる前に、みんなのことが気になって……」

「魔法の痕跡は魔法使いにしか判りませんが、この村の建物を直すような大掛かりな魔法は人間にも気づかれる。最後に、みんながこの先も無事であるように、天寿を全うできるよう、祈りを────」

この村に最後の魔法を…────

村の人達と別れて、どれくらいの時が経ったのだろう。100年? 1000年? 人間は技術を得るたびに時を経るたびに、醜悪さを増していった。村のみんなが懐かしい…。

「!?」

それは突然だった。

森から離れて約20㎞ほど…海に近い。

強力な魔力を感じた。いや、正確には、魔法使いの“それ”とは違う。

魔力の行使を感じた場所には、魔法使いは居ない。

(3日ほど前に人間が来たのを気配で感じたが……)

人間と関わるのは面倒だが、人間が魔法に近しいものを使ったとなると、放っておくわけにはいかない。

瞬間移動の魔法を使い、魔力の感じた場所へ向かうと、1軒の古びた小さな家があった。

(僕達の魔法で言う結界魔法…だな。僕の瞬間移動魔法の到着点がずれたのもこの影響か。しかし…やはり僕達の魔法とは違う。ぐちゃぐちゃに絡まった糸のように、ちぐはぐででたらめだ)

(この家の中に居るのはやはり人間だな。それともう1人…いや、人間のようで人間ではない…獣…? …結界は防御と同時に侵入を防ぐ意図もある。このちぐはぐな魔法もどきといい…嫌な予感しかしないな…)

家の中へ入るべく、オモトは結界もどきの解除を始める。

ちぐはぐででたらめな魔法もどきの、絡まった糸をほどいていくのは、困難を極め、結界もどきを完全に解いた頃には、到着から1日も経ってしまっていた。

(解除中、2回魔力の行使を感じた…!! 行使したのは確実に人間…!! 人間ではないもう1人が無事だといいが…)

急いで家の中へ入ると、30代ほどの人間の男と…ベッドに長い黒髪の青年が居た。

青年は裸で、その様子から、人間の男に無理やり犯されたのであろうと察することができた。

「なっ、なんなんだお前はっ!!」

男はかなり動揺している。よほど自分の結界に自信があったのだろう。手には1冊の本。その本からは魔法使いの魔力を感じる。

「人間が魔法使いを狩る時、狩る前に無理やり魔法を教授する本を作らせることもあった…。お前の持っている本もそうだな。お前の先祖が作らせたのか、たまたま入手しただけか。そんなことはどっちでもいい。狩られていった魔法使いは、それでも最期に呪いをかけた。自分の死後、自分が作らされた本を悪用する人間に」

オモトは右手でパチンと指を鳴らした。

「ぐっあ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」

苦しみ悶える男の体は、足先から塵のようにサラサラと消えていく。男の衣服は激しく燃えているが、男がどんなにのたうち回っても、床などに燃え移ることはなく、ただただ男を焼いているようだった。

「本来は本を使用してから呪いが発動するまでに時間がかかるようだが…それを早めてやった。時間がかかるとしても必ず発動する呪いだ。その本を悪用した者は皆お前のように苦しみながら消えていっただろう。何で自分がと思っているのなら、お前だけじゃないから、安心するんだな」

苦しみとともに消えていく中、男は思い出した。自分の家系に“突然消息不明となった”者がいることを…。

男も男の衣服も跡形も無く消え、本がどさりと床に落ちる。

「これを書かされた魔法使いよ…もう君の魔法が悪用されることはない」

オモトは魔法で本を燃やした。本も跡形無く消えた。

ベッドの青年へ目を向けると、青年は何か言いたげではあったが、「衰弱しているから、今は喋らないほうがいい」と制止し、森の自宅のクローゼットから分厚めの服を魔法で喚び出し、青年をくるむように羽織らせた。

オモトは青年を抱きかかえ、瞬間移動の魔法で森の自宅へと戻り、青年をベッドに寝かせ、休ませた。

オモトの魔法の効果もあって、3日後には青年は普通に食事を摂れるまで回復した。

青年が人間ではなく獣であることは判っていたので、食事は人間らしいものではなく、まず青年に、植物類・肉・魚を見せ、魚に興味を示したので、魚を食べさせた。今は人間の体であるため、魚は軽く焼いた。

最初こそ衰弱していたためオモトが食べさせていたが、案外人間の体の動かし方への理解は早く、フォークなどの食器をすぐに使いこなした。

もっと驚いたのは、人の言葉を喋れること。

本人…と言うべきかは悩むが…どう動かせばよいか、どう話せばよいか、本人も何故だか解らないが、解るらしい。

あの人間の男は、あの本に書かれていたであろう魔法とあの本の魔力を使って、獣を人間の姿に変えた。魚を食べたことから、おそらく海の生きもの。男が使っていた家も海に近い。あそこは長らく放置されていたから、男の所有物ではなく、たまたま見つけて勝手に使っていたのだろう。男の家系の誰かの所有物だったという線もあるが。参考にしたのは変化の魔法あたりか。目的は性的な玩具を欲してのことだろうが……すぐさま人間の体を動かせるようにしていたり人語を話せるようにしていたとは…なんとも悪趣味な人間だ。自分のいいようにしたいなら姿を変えるだけでいい。それをわざわざ人間らしくするのは抵抗や喘ぎを愉しむためだ。オモトはかつて自身を犯した衛兵達を思い出し、嫌悪に顔を歪め、身震いする。

魔法で翻訳して訊くつもりだったことを青年に訊く。

青年は元々はオスの若いシャチで、1艇の船に興味を惹かれ、家族から離れ近づいたところ、突然動けなくなり捕まった…とのこと。

おそらくその船に乗っていたのはあの男で、その時点でもうあの本を持っていたのだろう。

そして、捕まった直後気を失い、気づいたらもうこの体であったと。

すぐ男に犯され、途中小さな体にされ再び凌辱、また元の大きさに戻され…。

結界もどきを解除中に感じた2回の魔力行使は、少年の姿に変え再び青年の姿に戻した、ということか。つくづく嫌悪で顔を歪ませる男だ、あの人間は。

青年を元のシャチへ戻すことを試みたが、こちらも結界同様…いや、結界以上にぐちゃぐちゃに絡まってちぐはぐででたらめで、ほどくのは不可能だった。

魔法の知識も魔力も無いど素人の人間が、強い魔力の籠った本で魔法を使った結果だ。

魔法は魔力を持つ者しか扱えない。それが魔法使いだ。魔力を持たない人間などが魔法を使うには、魔力が籠った物が必要となる。しかしそれだけでは魔法を使いこなすことはできない。知識も必要なのだ。

…人間に捨てられたどうぶつ・人間に改造されたどうぶつ・親に虐待されている子・親に捨てられた子を保護しサポートする組織【ライフ】…魔法使いの仲間から聞いたことがある。

シャチに戻せない以上、その組織に渡したほうが良いだろう。

魔法使いの仲間から聞いた限りでは悪い組織ではないが、オモトは念のため、オモトが居る場所に瞬間移動する魔法を籠めたペンダントを「僕に会いたくなったら、これを持って、僕に会いたいと念じなさい」と言って青年に渡した。もちろんペンダントのことは秘密にするように言って。

瞬間移動の魔法で、シャチの青年を【ライフ】に連れて行き、諸々の説明をした。自分が魔法使いであることが判る部分は正直はしょりたかったが、彼に対しての対応はちゃんとしてほしかったので、全て話した。

【ライフ】の人間は、オモトに対して敵意も悪意も怖れも負の感情が一切無く、むしろシャチの青年を助けたことに感謝をし、オモトは今時珍しいと驚きつつも、この人間達ならば彼も大丈夫だろうと思った。

シャチの青年を【ライフ】に渡して5日後。

青年はオモトの家に突然現れた。銀髪で青と黄のオッドアイの青年を連れて。

渡したペンダントを使って来たのだろう。そしてペンダントのことはちゃんと秘密にしているらしい。連れてこられた銀髪の青年が混乱している。

銀髪の青年がかわいそうなので、オモトは魔法の説明をした。

落ち着いたのち、話を聞くと、青年はオルカという名前で人間の世界で生きていけるよう学び中。銀髪の青年はヴォルフと言い、元々は狼であり、同じように人間の世界で生きていけるよう学び中で、仲よくなったのだそうだ。当然、オモトにはヴォルフが獣であることは、気配で判っていた。

「ヴォルフくんの気配は妙だと思っていたが……生い立ちを聞いて、その気配に納得したと同時に、人間に対しての怒りでおかしくなりそうだったよ」

【ライフ】にもペンダントのことは秘密にしているようで、今日は2人で買い物訓練中に来たらしい。【ライフ】にもペンダントのことを言っておいたほうがいいかもしれない。

それから2人は度々オモトの家へ遊びに来た。

ペンダントのことは【ライフ】に話した。

「“人間として”あの子達にいろいろ教えてあげてほしい。我々には教えられないことが、あなたにはありそうだ」

そう言われた。

オモトにとって、自分のことを人間と捉える人間は、初めてだった。

かつて人間の村で暮らしていた頃のように、自分のことについて訊かれれば自分の人生を少し話しながら、食事を共にしたり、お菓子を食べたり…。

(誰かに教えるなんて…僕はそんな大層な存在じゃないが……これだけ僕の人生を話せば、さながら人間の歴史の授業だな…)

数十年が過ぎ、オルカが【ライフ】の職員、ヴォルフが【ライフ】の代表となってからは、会える回数も少なくなり…

ヴォルフが人間に襲われ、見舞いに行く回数が増えていった。

今自分が人間の前に出れば大混乱だ。解っている。【ライフ】の負担になる。魔法使いは今や人間の中では御伽噺の存在なのだから。解っている。解っているが…もどかしい…!!

そんなある日。

オルカが真剣な顔つきでオモトの家にやって来た。ヴォルフや【ライフ】のために魔法を教えてほしいと────