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アートのような体験のおはなし

みなさんにも一つや二つ、おありでしょう。終わってみれば、なんだか夢のようにフワフワした記憶。結果として美しい映像となった時間が。

わたくしにとっては、パリでのハマムnightの体験がその一つです。その日、現地に住んでいる日本人友と、その友達のアルジェリア人と3人でサウナのあと夕食をしようということになりました。そう、ハマムとは日本でいうサウナです。初体験の日本人二人を案内するワ、と張り切っていた彼女が、このアート体験の原因です。

千夜一夜という店名のハマムはお手頃で、彼女が子どもをご主人に預けて月イチで通うというお薦めの場所。その名もなんとシェヘラザードというくるくる黒い巻き毛と黒目がちの美しい女性に連れられて、夜の街へと吸い込まれたわたくしたち。
最寄りのメトロの駅を降りた時にはもう真っ暗でした。なぜならば、シェヘラザード。。幼稚園の面談が終わったあとそのまま直行するはずが「ううん、あのゥ、、、パンツ忘れてきちゃったノ」と言うではないか。すかさずご主人が「大丈夫だよ、君、僕が走ってすぐ取ってきてあげるからね」と二人でもごもご話しているうちに、「やっぱり子供といったん家に帰るから、あとで集まろう」ということに。でもいつまで経っても電話が来ないから、家まで迎えに行ったのでした。(めっちゃウエルカムしてくれた)
駅からハマムへの道は慣れているはずが「あれェ、この道さっきも入ったよネ、暗いから間違えちゃっタ」と実にニクイ魅力的なふるまいで迷い続けること、確か30分以上。友はといえば「調べればわたしたちの方がわかるね」とニヤニヤしながら付き合っている。。そうだね、ご主人はあの魅力にやられたんだね、と彼女の後ろで会話する日本人二人。とうとう店に着いた時には「あぁ~、ヤレヤレ疲れた、着いたワ、遅れちゃったノン」と待ちくたびれてふてくされたスタッフへこれまたニクイ魅力の粉を振りかけて、うやむやにしている。(どうやら予約していたらしい)とにかく、何ていうか、おっとりして恐ろしいほど可愛い女性なのです。

当の施設は、ぜひこちらをご覧ください。HAMMAM 1001 NUITS BASTILLE (hammam-les1001nuits.com) 一気に超エキゾチックなワールドへ。サウナのあと高床のベッドでごろごろ雑誌を見ながら寝転んで休んでいると、担当者が呼びにくる。ゴマ―ジュ(垢すり)はオープンな体制だったのでみんなに遠くから見られてる感じ。ただ、シェヘラザードは、サウナでもゴマージュでも、いない。恥ずかしがってかわいくコソコソ一人で過ごしていたのでした。(じゃぁなんで一緒に行こうなんて言ったんだ)顔を合わせたのは、マッサージの前の休憩所。とつぜんオレンジを出しながら(どこから??)「おばあちゃんが教えてくれたノ。ハマムの時は、必ずオレンジを食べるんだよっテ」と剝いてくれました。「持ってきたの?自分で?」「ウン。いつも」「どこに持ってたの?」「ウフフ」しかし、そんなことしている人、だ~れもいませんでした。お店のひともこちらを見てたけど、特に何もなく。なぜならば、シェヘラザードだから。。。

すっかり夜もふけてから、タジン鍋レストランへ。「お肉は食べないノ」と自分のメニューは悩んだシェヘラザードが、私の好みを聞いてすぐ選んでくれたワインが大当たりに美味しかったです。ハマムですっかりリラックスしたあとの食事と、酔っぱらったシェヘラザードのおとぼけな会話。途中でダンサーたちが楽しいショーを披露して、パリジャンたちの大人なエキゾチックな夜に、自由に浸って楽しんだのでした。このレストランのつくりも階段で段差をつくって店内を見渡せるようになっていて素敵だったのですが、残念ながら失念してしまいました。

何にでもよく言われることですが、実に、運も感動もひとがはこんでくるもの。日本人にはいない魅力の持ち主シェヘラザードがはこんで来た「千夜一夜」、もう今となっては、あんな不思議な時間を本当に過ごしたのかどうかさえ、こうして書き残しておかないと忘れそうな日々です。


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