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ショッピングモールと裸足の少年『ジブチ』

2023年時点でジブチは飢餓が多い国ランキングで36位にランクインしている


バウディーモール・ジブチ

ジブチ国内で最も不思議に感じる景観はバウディーモール・ジブチという国内唯一の大規模ショッピングモールだ。
NayelというUAEの企業の出資によって二〇一七年十二月に開業した売場面積二万㎡超の近代的な商業施設である。
GÉANT CASINOというフランスの大型スーパーマーケットが核テナントとして売場面積の三分の一を占めている。

モール内には、ブランド販売店・スポーツ用品店・映画館・レストラン・コーヒーショップ・薬局・宝飾店・時計眼鏡店・銀行・両替商・土産物店・フードコート・ゲームセンターなど様々な店舗がある。
日本や欧米などのショッピングモールと館内は似ている。
全館が冷房された快適な施設は、市民の憩いの場である。
富裕層や中流の市民が非日常的な空間を楽しんでいる。

フードコートやコーヒーショップで提供されるコーヒーやファストフードは、日本国内の店舗より少し高い。
所得水準から考えると、高級な空間だろう。

富裕層を除く市民は、通常市内のスーパーで食料品や日用雑貨などを購入する。
バウディーモールに来店した時は高価な商品を眺め、スーパーで安売りの菓子や100DJF(約70円)のコーラを買っている。
基本はウインドショッピングを楽しんでいるのだ。

私は仕事での利用が多く、ジブチの休日である金曜日には利用しないようにしていた。
休日には広大な駐車場が満車になり、モール周辺の回廊に渋滞が発生するからだ。

空港よりも重要な場所?

日本のショッピングモールと最も違う点は警備が厳重な事である。
駐車場の入り口では軍隊や警察などの車両以外は警備員が一台毎に鏡を用いて車両の底まで不審物を検査している。

屋内へ入場するためには、空港の手荷物検査場と同様に来店者はすべて金属探知機を通過しなければならず、乳幼児や警官・軍人以外は男女の警備員から手指でボディーチェックを受ける。

二〇一四年五月に市内中心部の飲食店で発生した自爆テロ以降は、大規模なテロはジブチ国内では起きていない。
ソマリアやエチオピアと陸続きであるため、憲兵隊や警察などはテロリストを警戒しているのだろう。
ショッピングモールに限らず重要施設には警備員や警官または憲兵が常駐している。

一台毎の車両検査は、空港やフリーゾーンよりも厳重な検査だ。バウディーモールの検査は空港や港より警戒レベルが高い。
原理主義者には、ハリウッド作品を上映する映画館や欧米諸国の商品を販売するスーパー、ファストフード店などは自らの信条と反する対象なのだろう。
それとも高額な商品を売るのは安全が確保されているからだろうか。
モールに隣接する海岸地域は殺風景な埋立地である。
中国資本建設会社の漢字表記大型看板と灌木や放牧中のヤギやラクダが、道路という景観の背景を担っている。

裸足の少年

ワンブロック先の交差点では、停車するクルマに物乞いする子供や、海で採った魚を通行する車に売る少年が毎日出勤している。
彼らはバルバラや市内の貧困地域から歩いてきて定位置で活動する。

道端で物乞いをするのは大半が少年少女だ、乳児を背負い幼児の手を引いた母親も少数いる。
喜捨はイスラム文化でも重要な博愛精神の涵養である。

異教徒の外国人は彼らが目に入っても無関心を装って信号が青に変わる瞬間を待ちわびている。
目をそらす者が大半だ。
接触してトラブルに巻き込まれたくないというのが本音だろう。
無視したほうが良いという旅行雑誌もある。
欧米人はその指示に従っているのだろう。

当初は私も彼らとの接触を避けていたが、ある日あまりにも懇願するので、ミネラルウォーターを手渡した。
その子供は満面の笑みを浮かべていた。

たかが水のボトルをもらっただけなのに不釣り合いな感謝を表してくれた。
喜捨という習慣はこの土地に根付いた文化だ。

貧困層にとって植物も自生しない不毛の土地は、収入を絶たれた瞬間から待ち構えているのは生命の危機だ。
二項対立では推し量れない地域独特の互助システムが成立している証だろう。

およそ裕福には見えないジブチ市民も、彼らにタバコやガム、飴玉などを差し出すのが日常の光景だ。

眼前に広がる近代的な道路と、入場者をすべて検査するショッピングモール、中国語の看板。

信号が変わるたび轟音をたてて急発進するトラック。
砂埃を頭から浴びる乞食の子供たち。

いずれもアフリカのジブチという小国で、毎日繰り返されている日常の風景である。
それがこの場所に合致した景観なのかはわからない。
それでも、個々の要素を含めて現在のジブチという場所を構成する文化だ。


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