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自衛隊の食事は貧相❓【違います】

要約 小笠原理恵さんが【自衛隊の食事は一日1000円】という発言により「もう少し金額を上げたら」という議論が盛り上がっています。
 しかし、問題の本質はそこではありません。
「小笠原さんたちの一部事実誤認、自衛隊の食事に関する誤解について修正」し、自衛隊の給食に関する予算不足や課題、米軍との比較などに触れます。


⚓前略小笠原理恵さま

前略 小笠原理恵様 自衛官の処遇改善や民間目線の提言ありがとうございます。日頃からの理恵さんの真摯な取り組みに敬意を表します。

 ただし、先日の【正義のミカタ】や【日本ジャーナル】での『営内者の食事代』については事実誤認がございますので訂正する必要があると思いますので拙文をしたためました。

 【日本ジャーナル】では井上和彦さんも出演されておられたので『もしかしたら確信犯』かな?と感じました。自衛隊の処遇を改善するために本質を理解しながらあえて『ショッキングな内容』を演じられていたのかもしれません。

⚓自衛隊の食事は無料?

 自衛隊の食事は『基本的に無料給食』だと勘違いされる方は多いようです。艦艇乗組員や航空機搭乗員など『自分の意思で自由に食事を取れない隊員』は基本的に無料です。

【幹部自衛官は無料の給食を利用できない】【曹(旧下士官)(旧上等兵~二等兵)は無料給食】という発言は事情を知らない方々へ誤解を与えると感じます。

 ひとつは『食費1000円』はあくまで原材料費の金額で、人件費や光熱水料、一般管理費などを含んでいません。ファミレスや民間の食堂で原材料費はおよそ3割ですから3000円で外食する感覚と同じでしょうか。

 たしかに『3000円の食事の割には貧相』に見えるかもしれません。

⚓【営外居住】

 ご存じだと思いますが、海士や陸士、空士も結婚などにより【営外居住申請】する隊員が多数おります。基地内の隊舎に住まず、公務員宿舎や敷地外の民間アパートから通勤すれば通勤手当と6700円弱の営外手当や住居手当を支給されます。
 引き換えに無料給食の対象でなくなります。【教育期間や任務中】なら営外者も無料給食ですが。

 営外者も普段は他の公務員同様にお弁当を持参する者や、コンビニで食事を購入するスタイルです。サラリーマンと同様の昼食風景です。

 自衛隊には22万8千人の隊員がいます。【令和4年度防衛省予算明細書】によれば営外手当の総額は69億1366万円で95,705人分の予算だと明記されています。陸海空自衛官の幹部+准尉は4万7千人なので18万人の曹士から9万5千人分を除すれば8万5千人の営内居住自衛官がいるようです。

 食事代は一般糧食費という科目で支出されます。その総額は陸海空あわせて320億円です。
 320億円÷8万5千人÷365日=1031円です。食事の原材料費はひとり約1000円なので合致する・・・少しおかしいですね。先ほど教育期間や災害派遣・演習中の隊員は無料給食です、その分はどこから捻出するのでしょうか?

 それがご飯は食べ放題でもおかずが貧相になる原因のひとつです。

⚓【防衛省予算明細書】

 海上自衛隊の一般糧食費は67億円です。現員の比率で全自衛隊員の18.7%が海自です。95700×0.187=17765人となり海上自衛官の41.3%は営内隊員と推計するのでしょうか?少し違います。
 自衛隊ごとの営外隊員数は公表されていないので一般情報から推計するしかありません。

 前出の【防衛省予算明細書】には乗組手当195億2601万円15,897人と記載されています。陸上自衛隊も艦艇を運航する計画がありますが、現時点では乗組員の大半は海自なので、海上自衛隊全体の36.9%が艦艇勤務者だと推計できます。

 艦艇勤務者のうち幹部+准尉の比率は2割程度です。したがって15900人のうち12700人程度が海曹士の自衛官だと推計します。艦艇乗組員は結婚していても営外手当はもらえません。【乗組手当=無料食事】の図式です。そこで先ほどの95,705人の営外者率を少し補正します。

 18万人の曹士自衛官から艦艇乗組員の曹士12700人を除すると167300人です。この数値を95,705人で割ると全曹士の57.2%が営外隊員となります。あくまでも予算上の数字ですが、前年の実績を加味しているので大きく実数とはかけ離れていないでしょう。

⚓【海自は無料給食の宝庫】でも予算は・・・
 海自の現員4万3千人×0.8=34400人-乗組海曹士12700人=21700人です。この数字が海自の海曹士で艦艇乗組員ではない隊員の数に相当します。この数字を用いて営外隊員と案分すれば100-57.2=42.8%となり、営内比率と21700人を掛け算すると9280人になります。
 3自衛隊の営外者の比率は全く同じではありませんが、事態はおおむね4割営内だと(細かい員数は・・・職務上知りえた・・・なのであくまでも推計値を使用します。)思います。

 9280人に艦艇乗組員15700人を加えるとなんと24980人です。海自全体4万3千人のうち58%が無料給食の対象となります。実はこの数字には航空機搭乗員は含んでいないので実情はもっと無料給食の対象者が多くなります。

⚓【食事代1000円の真実】実際は・・・
 67億円の一般糧食費で2万5千人を養うと一人一日当たりの金額は
【67億円÷2万5千人÷365日=735円】です。一般発表を用いた推計値の計算ですが【一人一日1000円】には遠く及びません。

 なぜそうなるのか?小笠原理恵さんがおっしゃられた【一人一日千円】という数字は【一人の自衛官に国が支出している一日あたり金額】ではなく【一人あたり一日に使用できる食材費の限度】です。

 自衛官も基本的に土日はお休みです。営舎という隊内の宿泊施設に住んでいても休日には外出し、隊内の食事を食べない場合も当然あります。

 一般糧食費とは【使って良い食糧費の枠】です。

 計算方法の例は単純で【53人×昼食400円=2万1200円】というような計算によって実食数・給食額を計算し、月頭から月末まですべての金額を合計して一カ月分の給食額を計算します。

 そしてその月に調達した食料品や、備蓄食料のうち実際に使用した原材料費と給食額のプラスマイナスを求め、使用した原材料費<使用可能な予算という式が成り立つように献立を調整し、調理するのです。

⚓【任務は無料給食】有事も当然・・・
 演習や任務が重なると想定外に給食数が増える場合もあります。備蓄はそれなりにありますが、生鮮食品は保管期限もあり『持っている食材で需要を賄う』自転車操業です。【生鮮食料品も余分に保管すれば】とおっしゃる方もいますが、廃棄を生んでは国民の大切な税金が無駄になります。

 また大規模な駐屯地では『有料喫食』という実費を払って食事をとる営外者・幹部隊員や民間業者・見学者などへ想定外の食数を提供する場合があり、担当者は常にバランスをとりながら献立を作成し、調理する量を調整するのです。

⚓【空自立川基地】・・・栄養士泣かせ
 小笠原理恵さんが実情を示した【空自立川基地】などは、司令部機能を有する大規模基地の典型であり、栄養士さんは相当苦労されているでしょう。『若年隊員に不人気な献立』の日が重なっても仕方ないのです。

 『有料喫食』の食事代は自衛隊の収入ではありません。すべて国庫に納付し財務省の収入になります。自衛隊ではなく財務省です。その年度の一般糧食費に還付される訳ではありません。

⚓自衛隊は役所の論理で運用【有事を想定した予算はつかない】

 災害や任務で極度の予算不足が生じれば補正予算が付く場合もありますが、無料で食事をとれる隊員が毎日3度食事できる予算は、当初から配分されていません。※前年実績踏襲=食べなかった日を差し引いた予算

 なんと不思議な予算でしょう。ほかの省庁と同じで『一般の経費にはあらゆる場面でタガがはめられている』のです。もちろん毎年たくさんの有料喫食が発生する部隊には予算は幾分多めに配分されますが、それでも実食数に見合う予算はつきません。

⚓艦艇や地方部隊=努力 大規模駐屯地=適当???

『艦艇や地方ローカル部隊の食事は美味しくて見映えもする』のは、艦艇や地方では食事が活力の源泉という意味もあります。しかし『食数の変動が少なく無駄がでない』からです。大規模な基地ほど【食数が嵩んで身動きが取れない】のです。

 予想外に食数が増えたり減ったりを繰り返す部隊では『手間のかかる献立』は不可能です。勢い『冷凍食品・既製品』お世話になり単価が高い割に満足感が得られない献立となるのは自衛隊に限らず【大量給食の常】です。

 また、ファミレスのように『食材の大量発注』『セントラルキッチンの活用』も自衛隊の特性から不可能です。
 部隊は各地に点在し、陸自も海自も始終動きまわる特性があります。
『小ロット』『歩留まりのよい高品質野菜・肉・魚』『地産地消』などの問題も影を落とします。給食担当者や栄養士には不眠症の者が非常に多く、その原因も頷ける環境です。それでも給食隊員は奮闘しています。

⚓米軍はどこも『アメリカ本土』

 米軍の食堂はどこも『アメリカ本土』と同じです。私も5ドル支払って海外の米軍基地で食事させていただきましたが『米軍は世界のどこでもアメリカ』を成立させる気概と予算を持っています。アフリカのキャンプレモニエも『アフリカにありながらアメリカ』の生活を米軍兵士はすごします。それが米軍のスタイルです。

⚓自衛隊は『郷に入っては郷に従え』

 日本の自衛隊は基本的に、外地ではその土地で購買した食品を主体として食事を提供します。米軍は本土から空輸してでも『アメリカを演出』します。予算と国力差は簡単に解決できないでしょう。

 しかし、現地の業者と丁々発止するのも『私にとって素敵な思い出』です。一流商社員ではない一介の兵隊・・・自衛隊員がアフリカや中東、東南アジアなど各地で現地の人々と渡り合える経験ができるのは貴重だと思いませんか。

⚓自衛隊の予算『昭和30年代の理論で運営』
 自衛隊の装備は高額ですが近年はそれなりに充実しています。自衛隊でもっとも不足するのは理不尽な基準がまかり通る【弾薬・食料・消耗品】です。タマ不足、消耗品不足は常態化しています。予算が増えても簡単には改善しません。

⚓泣いて馬謖を斬る

『日本の自衛隊の食事は貧相』と発言されるのは『自衛隊を想っての事』だと小生は小笠原理恵さんが普段発言される内容から当然理解できます。

 しかし【立川基地の栄養士さんや調理員さん】は可能な限り努力を積み重ねても結果として現行の献立が限界なのかもしれません。

 それに食べ物は好き嫌いもありますし、医官から【健康メニュー】を推奨してくださいとお願いもされているのです。
 アメリカ軍の食事は確かにボリュームがありますが自衛隊の調理員が作る食事はボリュームや品数では米軍に劣りますが、味付けや栄養バランスはとても優れていますよ。

 以上が元調理員であり、食料調達や現場で実務を担当とした者の気概です。仲間たちへの理不尽な批判はどうしても看過できません。

 小笠原理恵さんが隊員の処遇改善に日夜奮闘されている事に深く感謝します。

 その刃は【予算と人員を適正に配分しない政治家と財務省】へ向けてご共闘願えると誠に幸いです。これからも自衛隊と後輩たちにご高配賜りますようにおねがい申し上げます。            草 々

                海尾 守


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