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家計の巨額な現預金を狙ったものの、瀕死のFintechスタートアップたち

先日日経に以下の記事が掲載されました。


日銀が20日に発表した4~6月期の資金循環統計(速報)によると、6月末時点で家計が保有する金融資産の残高は前年比0.1%減の1860兆円だった。マイナスは2四半期ぶり。米中貿易摩擦を背景にした株式相場の下落傾向などが響いた。
家計の金融資産の内訳は、現金・預金の残高が1.9%増の991兆円、保険・年金・定型保証は0.5%増の527兆円、株式等は9.7%減の195兆円、投資信託は3.7%減の70兆円だった。

2019年3月末の現預金は971兆円でしたが、上記の通りリスクオフの影響で株等のリスク資産から安全資産である現預金へ換金が進んだのではないかと思われます。

それにしても家計の金融資産が1,800兆円超、現預金だけでも1,000兆円ですから、マーケットとしては超巨大です。1%で10兆円、0.1%でも1兆円ですから、少しのシェアを取るだけでも大きな収益に結びつきそうです。

一方で大きなマーケットを狙ってアグレッシブなバリュエーションにより大型の資金調達を行ってきたスタートアップは、今かなり危険な状況にいます。

先日話題になったのはテーマ投資をスマホアプリで提供するFOLIOの2019年3月期決算です。FOLIOは未上場企業ですが、第1種金融商品取引業者のため財務諸表の開示義務があります。

経営成績の推移

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営業収益はわずか1,100万円…営業収益の内訳は、顧客からの受け入れ手数料が2,000万円だったものの、トレーディング損益で1,100万円強の損失を出したため、トータルで1,100万円となりました。そして経常損失および当期純損失は24億円です。

twitter上では仲の良い起業家から、受け入れ手数料が前年同期比3倍になっているとか、そもそも売上をあえて立ててない、といった擁護のツイートも散見されましたが、そもそも調達した資金でTVCMや電車内広告など売上を立てるためのマーケティング費用を湯水の如くつぎ込んでいるわけですから、それでこの売上は正直ないでしょう、というのが私の意見です。投資段階の起業で赤字というのはベンチャーにとって珍しくないですが、FOLIOの問題点は、巨額のマーケティングコストをかけたにもかかわらず、それに見合うだけの収益を全く立てられていないことです。このペースでは、黒字化は非常に難しいと言わざるを得ず、大幅な方針転換が必要であると考えられます。

FOLIOは累計で91億円の資金調達を行っています。

Cashは50億円強あるので、更に踏み込まなければすぐの資金ショートは無さそうです。

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FOLIOの上位株主

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四苦八苦しているのはFOLIOだけではありません。先日同じくスマホの株式投資アプリを提供するOne Tap BUYは先日創業者である林社長が退任しましたが、原因は業績不振であることは想像に難くありません。

One Tap BUYの2019年3月期決算の主要経営成績です。

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売上は伸びつつあるもののそれでも2億円強、純損失は15億円でした。こちらも今のペースでは黒字化はかなり時間がかかりそうで、キャッシュが尽きないかが懸念されます。

One Tap BUYは累計で44.5億円調達しており、キャッシュは22億円程あります。

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One Tap BUYの株主

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ソフトバンクが大株主にいることもあり、体制も大幅に変わったのですぐに資金ショートすることはないかと思われますが、黒字化はかなり高いハードルであることが予想されます。

他のFintechの決算も見てみましょう。

お金のデザイン(AI投信「THEO」を提供)

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WealthNavi(AI投信「WealthNavi」を提供)

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Fintecの優等生と言われるWealthnaviでさえ、黒字化はまだまだ遠いように思われます。ただ、FOLIOと違い売上は立ってきているので、まだまだ広告宣伝費にお金をかける投資段階と言えるから、それほど悲観する状況ではないかもしれません(競合の「お金のデザイン」は厳しそうですが)

他のFintecですと、Finatextは黒字ですが、子会社でスマホ証券アプリ「Stream」を提供しているスマートプラスは投資段階で赤字ですので、今後連結ベースでは赤字になっていくでしょう。おつり投資アプリ「トラノコ」を提供しているTRANOTECは情報が見当たりませんでした(子会社のTORANOTEC 投信投資顧問株式会社は赤字

原因としては主に下記の2点が挙げられます。

- これらのサービスはスマホの利用に慣れた若年層を主なターゲットとしているが、家計の預貯金の大半を占めているのは60歳以上の高齢者であり、この層を取り込めていない。(トップラインが伸びない原因)

- 金融業は規制が厳しく、人材要件や開示の必要性もありコストが高く、売上がまだ立っていないスタートアップへの負担が重い。(高いコスト)

先日米国の証券会社チャールズ・シュワブが手数料無料化を発表しましたが、ますます証券会社間の競争は厳しくなっていくと思われます。スマホ証券にも逆風となることに疑いの余地はあありません。

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