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「文章読解が苦手」な理由は、ワーキングメモリのタイプでわかる 【弱みを対策できた親子のケース①】

小学生、中学生くらいの子どもを持つ親御さんで、「うちの子は国語の文章読解が苦手」という悩みを持つ方は多いのではないでしょうか。それはただ単に、読書や勉強が足りないせいだと考えていませんか?

ひとことで「文章読解」と言っても、その中にはさまざまなプロセスがあり、つまずいている箇所は子どもによって様々。親御さんは、「内容を把握する力がない」「文章を根気強く読めない」「つっかかる読み方をする」など、漠然とは把握しているものの、それだけではなかなか対策が取れません。

今回は、「文章読解が苦手」という自覚がありながら、なかなか対策できていなかった子どもがHUCRoWを受け、その後勉強法を改善した事例を紹介します。

国語や文章題が苦手……学年が上がるとほかの科目にも影響が

最初にご紹介するのは、中学3年生のときにHUCRoWのアセスメントを受けた橘ゆかさん(仮名)です。

ゆかさんは、小学生のときから音読や本を読むことがあまり好きではなく、国語が苦手、算数の文章問題はさらに苦手でした。受験をして私立中学校に通っており、以前は週に数回の個別塾と、同じく週2回程度の家庭教師、さらにそれ以外の日には親御さんが宿題を見てあげるなど、何とか工夫しながら学習してきました。しかし、中学生になると一気に学習量が増えて、ますます困難なことが増えました。

特に国語の文章読解が苦手なゆかさんに、親御さんはきつく当たります。

「なんでわからないんだ? さっき読んだだろう」
「そんなこと言われても、わかんないんだよ!」

こんなふうに、険悪なムードになることも日常茶飯事でした。

ここで、ワーキングメモリアセスメントHUCRoWの測定項目を、改めて解説します。HUCRoWで定義しているワーキングメモリの働きには「言語領域」と「視空間領域」があり、それぞれ「短期記憶」と「ワーキングメモリ」に分かれます。ここまでは、前回『子どもの学習のつまずきは「ワーキングメモリ」に注目』で説明しました。

もう少し詳しく説明すると、HUCRoWの測定項目の中で、言語領域の「短期記憶」と「ワーキングメモリ」はそれぞれ「言葉」と「数」に分かれ、視空間領域の「短期記憶」と「ワーキングメモリ」はそれぞれ「位置」と「形」に分かれます。下の図を見ていただくと、わかりやすいでしょう。

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ゆかさんは、言語領域の「短期記憶」も「ワーキングメモリ」も、数値が低く出ていました。また、特に、「言葉」に関する音声情報の記憶と処理が特に苦手だとわかったのです。一方で、視空間領域はどれも平均的でした。

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親御さんからは、ゆかさんは漢字の音訓の読み分けができず、熟語になると読み方が困難になると聞いていました。HUCRoWの結果(上図)から、漢字の形がわからずにつまずいているのではなく、読み方、つまり音としての言葉の情報が覚えにくいことがハードルになっているのだろう、と分析できます。

苦手がわかり親子関係が改善! 漢字の読みと意味の確認から丁寧な学習を

親御さんはHUCRoWのアセスメントを受けるまで「サボっているだけだろう」「やる気がないんだろう」と考えていたそうです。結果の説明を受けると、「そういうことなんだ!」と腑に落ちたとお話されていました。

「書いてあるでしょ」とイライラする前に、「この部分を読んでみて」と、まず読ませてから、「意味わかる?」と確認するプロセスを踏めるようになったそうです。

勉強の対策としては、授業で新しい語句や漢字などが出てきても混乱しないよう事前に予習を取り入れ、読めない漢字、意味のわからない漢字を一つひとつ調べるようにしました。ゆかさんの場合は、漢字を正しく読めるようになれば、文章を読め、理解できるようになります。

漢字だけではなく、言葉の音や意味を「なんとなく」で把握していたことも問題でした。たとえば、「おばあちゃまが生け花をしていた」と説明したいのに、「おばあちゃまがお花を生け贄にしていた」と話していたこともあったそうです。

そこで、語彙を増やすようなトレーニングもしました。それにより知っている言葉の意味が増えてくると、さらにスムーズに文章が読め、理解できるようになります。これらは、私が所属するインフィニットマインドのオンライン教室を利用していただいているため、その後の変化も見させていただいています。

ここまで細かな得手不得手は、日常的なやり取りではなかなか見つかりません。言葉があいまいでも、会話の中では相手が質問したり補足したりできますし、状況から意味が「なんとなく」わかってしまうから。

HUCRoWのアセスメントを受けたことで、ぼんやりと思っていたことが明確化されたことになります。

ゆかさん本人は、「質問されている内容の意味がわかるようになってきた」と分析しています。高1の現在、テストの成績が劇的に上がったというわけではないものの、親御さんから見ても、ゆかさん自身が苦手意識を減らし、前向きに取り組んでいる様子が見られるようになったり、取り組みが変わってきたと感じられているようです。

覚えたり書いたりが苦手な自閉スペクトラム症のお子さんの場合

次にご紹介するのは、自閉スペクトラム症の傾向がある田辺優斗くん(仮名)。出会ったのは小学校卒業間近のころで、HUCRoWを受けたのは中学2年生のころです。

親御さんは、「発達障害があるから、覚えたり書いたりするのが苦手なんだろう」と漠然と考えていたそう。苦手ではあっても、やはりスキルを学ぶ必要を感じ、HUCRoWを受けることにしました。

優斗くんの結果を見ると、言語領域の「ワーキングメモリ」の数値がとても低く出ました。単純な記憶はできても、「覚えながら考える」ことが苦手です。

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音から情報を得るのは比較的得意で、単純に記憶することは苦手ではありません。文章もすらすら読めます。ところが、「どういう内容だった?」など、考える必要があると、とたんにわからなくなってしまいます。

また、HUCRoWの結果だけでなく、自閉スペクトラム症の傾向があることと、親御さんへのヒアリングから、抽象的な想像や他人の気持ちや心を理解することが苦手だとわかっていました。

そのため、説明文など内容が明確なものは比較的意味がわかりますが、物語の理解が難しく、「もっともだと思った」「はやしたてた」などの表現がどんな状況を意味しているかが、わかりません。「ケンカしたけど『星を見よう』と思って相手の家に遊びに行った」というお話を読んでも、「仲直りをしたい」という心情とつながらず「一緒に見ると楽しいと思ったから」と答えてしまうのです。

行間を読むために、知識として覚えるようにした

文章の行間や空気を読むことが苦手なので、知識として覚えるようすすめました。「むっとした」は怒ったとき、「唇をかみしめた」は歯がゆい、またはもどかしいとき、などと分類し、覚えていきます。覚えずに「想像すればわかるはず」と考えるのはご法度。どうしても苦手な部分なので、他で補うようにします。

また、授業中も語彙を増やすことに重点を置いてもらうようにしています。

勉強法を変えてから、文書読解に関して「意味がまったくわからない」ということは減ってきました。

親御さんからは、「以前より、言葉に関して『聞いたことがある』『こういう意味だよね?』と説明できるようになり、自信がついたように感じます」との言葉をいただいています。

優斗くんからは「作文が書けるようになりました」というシンプルな感想ですが、伝わるように書くためには、やはり相手の気持ちの理解が必要です。文章で書かれている内容や、作者の心情を理解するテクニックを身に着けたことで、伝えることもできるようになったと考えられます。

これは勉強だけでなく、日常生活でも同様です。言葉だけで相手の気持ちがわからなかったら「それは知らなかった」と伝える必要があるでしょう。言葉ひとつで相手を傷つけてしまうこともありますから、逆に言えば知っているだけで傷つけずに済みます。

理解できる言葉を増やしながら歩んでいくと、よいと思います。

苦手な部分=悪ではない。対策をとればいい

子どもには、それぞれ特性があります。苦手だからといって、それが悪いというわけではないんです。苦手を別の能力で補いながら、学習をよりスムーズにして、生活のトラブルが減るよう考えていくとよいと思います。

お子さまにHUCRoWのアセスメント結果を伝える親御さん、伝えない親御さんがいますが、タイミングなどを見て伝えてみてくださいね! とおすすめしています。

説明をしてあげないと、「どうして僕だけこんなトレーニングをさせられているんだ」「なんで僕だけ、こんなにできないんだ」と思うかもしれない、という理由が1つ。もう1つは、自分で対策が取れるからです。

コミュニケーションの中で、「音で聞くのが苦手なので、メモに書いてもらえますか?」「音を聞き取るのが苦手です。1回で聞けるようにしたいので、静かな場所で教えてもらえますか?」など説明すれば、相手もやりやすいのではないでしょうか。

繰り返しますが、苦手があるのは決して悪いことではありません。対策をすればいいのです。

ただ、親御さんが「音で言ってもわからないから、すべてメモで伝える」などと極端にしてしまうのはやりすぎかもしれません。まったく使わなければ発達を促すこともできないから。周囲の人に理解してもらい、自分で補うよう努める程度がよいと思います。

ときに「低い部分を伸ばして、苦手ではないようにしたい」という親御さんがいますが、ワーキングメモリのタイプはそう大きく変わるものではないと考えられています。HUCRoWを開発した湯澤正通先生も、強い部分を使って、弱い・苦手な部分を補う考え方をおすすめしています(この辺りは、別の機会にもう少し詳しく説明したいと考えています)。

「文章読解が苦手」と言っても、さまざまなパターンがあるとわかっていただけたでしょうか。

次回は、「数を数えたり、たし算など算数が苦手」な子どもの事例を、紹介していきます。

編集協力/コルクラボギルド(文・栃尾江美、編集・平山ゆりの、イラスト・北村侑子






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